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ちしきの金曜日
 
インド人をびっくりさせる

●ここで勝負をあきらめたくない

  まあ、パンチガムについては始めからあまり期待していなかったんだ。あんな子供だましのおもちゃで大の大人がびっくりするわけもないだろう。

 そんな強がりを書いてみたが、実はかなり追い詰められた気持ちになっていた私。どうしよう。

 続いて繰り出すのは、東ハトのお菓子『暴君ハバネロ』だ。


「世界一辛いと言われるトウガラシを使っていまして…」

 とても辛いトウガラシを使っていることで話題になったスナック菓子だ。確かにかなり辛いお菓子だと思うのだが、インド人のオーラさんはどう感じるだろう。

 その辛さを必死に説明する私と対照的なオーラさんの表情も気になるが、食べてもらってみた。


「うーん、うんうんうん…」

「どうですか…?」
「うん、ちょっと辛いね」
「えっ?ちょっとだけですか?」
「うん、これ、辛いよ」

 インタビュー時に録音したやりとりを聞いていると、なんだか私が無理やり辛いと言わせているみたいになっていた。言外も察すると「辛いことは辛いけど」といった感じだろうか。

 書くのもつらいが、びっくりはしてない。それは明らかだ。

 やっぱりそうだよ、当たり前だよ。始めからハバネロが一番自信なかったんだよ。だって辛いものは食べなれているはずのインド人だもの。

 妙に言い訳がましくなっている自分。計画は失敗に終わるのか。

 仕方がないので、あまり気が進まないがあれを出すしかない。これまでにやっていたのがうまくいっていたら出すつもりはなかったのだが、やるしかない。妻の手品だ。


表情に真剣味が出てきたオーラさん

 趣味で手品をする妻。手品の地域サークルに通っていたこともある。今回は撮影係として同行してもらったのであって、私としては不本意なところもあるのだが、もうびっくりさせるネタはこれしか残っていないのだ。

 まずはウサギの形をしたスポンジが出たり消えたりする手品だ。どうだろうか。


「え?なんでなんで?」
「これはすごいね!」

 これまで私が繰り出してきたものには戸惑いを見せていたオーラさんだが、さっきまでとは明らかに違う表情がその顔に浮かんだ。とてもいい顔をしてくれているのだ。

「インドでやったら、人がたくさん集まってくるよ!」

 そんな風に言うオーラさん。そのリアクションに喜ぶ妻。そして落ち込む私。


楽しそうなオーラさんを前に湧いてくる悔しい気持ち

 続いてのカードマジックもとても楽しんでくれた。楽しみながら、びっくりしてくれている。

 そう認めざるを得ない。


「全然わからないね!」
「これはすごいよー」

 驚きの声を連呼するオーラさん。そうだ、卑屈な気持ちになっている場合ではない。

 国境を越えてインド人をびっくりさせる手品。今回の企画をやってみる前、私が予想していたのはそんな話だっただろうか。でもそうだったんだから仕方がない。

 喜んでくれてよかった、びっくりしてくれてよかった。素直にそう思えばいいではないか。自分にそう言い聞かせる。

オーラさんと失意の私

●手品の素直な楽しさと驚きを再認識

  インド人をびっくりさせるという今回の試み。プロジェクトは一応の成功を見たと言っていいのだろう。

 驚きながらも笑顔のオーラさんの表情を見ていると、心にそぼ吹く無念の風も、いつしか穏やかな色に染まっていく。重い鎧は無駄かもしれなかったが、もういいではないか。

 鎧とかパンチガムとか、そんな人の虚をつくようなことをしていてはダメだ。考え方がせこいんだ。

 そんな風に心の中で総括する自分。今回のことを通して、僕はオーラさんから大事なことを教わったような気がします。


 

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