大森から、北へ
自宅から大森まで、約1時間、直線距離にしておよそ12kmがスープの冷めない距離だということは証明された。 しかし、スープはまだまだ温かい。 もっと遠くへ行けるはずだ。 持ってきたスープは全部食べてしまったので、ニフティさんでお湯をもらって新しく作り直し、さらに実験開始だ。
大森駅から京浜東北線に乗り、東京駅で東北新幹線に乗り換える。 目指す先は、岩手県は北上市である。 どこかで聞いたことのある地名だと思った方は、それはきっと気のせいだ。無視して欲しい。
北上駅に着いた
大森駅から3時間半ほどで岩手県北上市に到着した。 大森のニフティから北上駅は、直線距離で430kmである。 かなりの距離を移動してしまった。 これでスープが冷めていなければ、スープの冷めない距離は430kmということになる。
北上は寒い
駅前に降り立つと、空気がひんやりと冷たい。 まさに北へ来た、という雰囲気だ。 到着したのが夜遅くということもあるのだろう、周囲に人影はまばらだ。 誰かにスープの温かさを確かめてもらおうと駅前をさまよい歩いたが、そのうちどんどん体が冷えてきた。
誰かに確認してもらわなくちゃ
時刻は夜の10時を過ぎている。 僕の郷里も北上市と同じくらいの規模の街だが、確かに夜10時を過ぎると、人なんか歩いていない。 しかたがない、自分でスープを飲んで冷めていないか確かめようかと思ったところ、遠くに人影が見えた。
偶然にも林さんがいた
信じられないくらいの偶然だが、岩手県北上市に林さんがいた。 夕方まで大森で一緒だったのに、まさか岩手で会うとは。その偶然におどろいた。 もしかして、新幹線の隣の席でビールを飲んでいた人は林さんだったのだろうか。気付かなかった。
林さんは薄着のまま岩手県まで来てしまったようで、とても寒そうにしている。 気の毒だ。 まずは温かいスープを飲んでもらい、暖まっていただこう。
スープが冷めている
こんな、ものすごくわざとらしい展開になって恐縮してはいる。許してほしい。どうか読み進んでおくれ。
とにかく、ステンレス水筒から持参した紙コップにスープを注いで飲んでもらったのだが、林さんの顔がさえないのだ。
いかん、企画は失敗か?
確かに紙コップに注いだ時には、湯気も立って暖かそうだったのだが、ぬるいとはどういうことだろう。 自分でも確かめようと、ステンレスボトルに口を付けたところ、直接飲むとまだ暖かい。 きっと紙コップに注ぐときにぬるくなってしまうのだろう。 林さんにも直接飲んでもらった。
東京−岩手はスープの冷めない距離だ
というわけで、以上の結果から東京ー岩手間はスープの冷めない距離だということが証明できた。 スープの冷めない距離は430kmだ。 偉業を達成した気分である。 もしかして、世界新記録なんじゃないだろうか。
スープの冷めない距離は気持ち次第
北上はとても寒かったので、温かいスープはおいしかった。 確かに大森で飲んだ時よりも冷めてはいたが、寒いときに飲むスープは実際の温度以上に温かく感じる。 もしそれが、遠くに住む母親が作って持ってきてくれたスープなら、たとえどんなに冷めていてもなおのこと温かいと感じるはずである。 今回、スープの温度を正確に測らなかったのは、スープの温かさとは、数字に表せる温度なんかではなく、そんなふうに心で感じるものだからであり、家に温度計を忘れてきてしまったからでは断じて決して絶対にない。