先週掲載の「ささいな中野案内」に続き、私の知ってる、ささいな東京知識をお伝えします。
私の洋菓子にたいする、舌の基本フォーマットは、不二家と、「タカセ」で出来上がっています。
埼玉県民が都内に出る時、ぜったいに通らねばならない街が、池袋。
この池袋の東口まんまえの一等地に、ずーっとある洋菓子店が、「タカセ」なのです。
自営業で、いつも家で仕事をしていた父が、ときどき都内に用事があって、お酒を飲んで帰ってくる時、オミヤゲは絶対、このタカセの、シュークリームとショートケーキとデラックスプリンとサバランなのでした。
シュークリームとショートケーキとデラックスプリンは家族用。洋酒を使ったサバランだけ、自分用。
4人家族なのに、20個くらい、買ってきます。子供心に「量、多くない?」「っていうか、3種類とかじゃなくて、バリエーション欲しくない?」と疑問はありましたが、まあ、普通に喜んで食べてました。
その頃、私の地元の駅には、洋菓子店がひとつもなかったのです。不二家さえ、隣町にしかありませんでした。そう、コンビニも、スーパーの生菓子コーナーもなく、そこらへんに「生クリーム菓子」が売ってなかった時代です。
生クリームは、キラキラ輝いて見えました。
父は、「東京のケーキを、コドモに買っていったら喜ぶだろう」と思っていたのでしょうか。いつも怒っていて自分勝手で、愛情の表し方がド下手な人だったので、いまいち気がつかなかったのですが。
今考えてみれば……大人の男の人が、ちいさい子供にビックリする程ケーキを買っていくというのは、当然ウケを狙っていたんですよね。
当時は「自分が食べたいから、買ってくるんでしょ?」などと、思っていました。まあもう父は他界してるので、真相は分からないのですが。
そんなタカセ。
見るたび「あー、タカセ」と思いはせながら通る店だったんですが、埼玉県から都内に引っ越して、池袋を使わなくなり、全然行っていませんでした。
久々に食べたくなって。
行ってみました。そして、父は買ってこなかったけど、以前から店頭で見かけてて「なんだこりゃ」と思ってた菓子類も、思いきって買ってみることにしました。 |