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ロマンの木曜日
職業で文体はこう変わる

人によってその文体は多種多様であるが、職業による文体の違いも様々なのではないだろうか。同じトピックを文章化して伝える場合も、その着眼点が違っていたり、独特な言い回しがあったり。きっと職業毎に特徴があるはずだ。

そんな職業による文体の特徴を探るため、様々な業種の方々にご協力いただき仕事モードの文章をしたためてもらった。

(text by 住 正徳



1つの日記を4人の観点で

今回の検証にご協力いただいたいのは、全部で4業種。医者、看護士、商社マン、弁護士のみなさんである。

そして、4人の方々に扱っていただくトピックは僕の日記である。朝起きてから夜寝るまで、ある平日の出来事を淡々と綴ってみた。



今日もいつも通り8時に起床した。小倉さんの「おはようございます」に勇気づけられて家を出る。小田急線と井の頭線、山手線を乗り継いで事務所に到着。モーニングコーヒーを飲む。お昼まではデスクワークをこなし、ランチは事務所の近所で麻婆ライスを食べた。相変わらず激辛だ。午後は渋谷と品川で打合せ。渋谷の打合せはうまくいき、品川はうまくいかなかった。今日の結果は一勝一敗のイーブンである。後社には僕の言い分が伝わらなかったのだろう。イーブンだけに。夜は友人と食事。ハンバーグを食べた後、飲み屋に移動。楽しく焼酎を飲んで1時前に帰宅。少し飲み過ぎた。メールチェックなどをして2時半に就寝。明日も小倉さんの声で勇気をもらおう。


「朝起きたら虫になっていた」みたいな劇的な事は一切ない、いわゆる普通の日記である。一カ所だけ、我慢出来ずに駄洒落を入れてしまったが、そこ以外は起きた事柄を脚色せずにまとめている。

この日記を職業別に仕事モードで文章化していただく訳だ。
果たして、職業によって文体は変わるのか?

まずは看護士さんに、看護記録風にまとめていただいた。



CASE1:看護士



看護士の齋藤香さん。'98年、看護大学卒業。看護師、保健師免許取得。卒業後は大学付属病院にて勤務。その後、訪問看護で地域医療を深く学ぶ。また、派遣看護師としても多種多用な職場における看護の経験をもつ。


看護記録風

起床8:00。朝食はn.p.o.。職場まで電車を二度乗り換え。
自宅から遠方と考えられるが、職場に到着してからコーヒーをp.o.。

午前は事務作業に追われ、昼食は職場近くの中華で麻婆ライス。
刺激の強い辛味の多いメニュー。

午後の商談二件のうち、一件は厳しい結果となるも「自らの
責任」として受け止めている。

夕食は友人と。ハンバーグ。その後、店をかえアルコール摂取。
帰宅は深夜1:00。就寝2:30。



■ポイントの分析と問題点の抽出、その改善計画

朝食抜き、頻繁な外食、刺激が強く脂肪分の多い食事、アルコールを好む事から、食生活の乱れていると考えられる。

栄養バランスの偏り、朝食を抜く習慣に変化をもたらすには強い動機付けが必要である。職務は多忙であり、かつ責任ある立場のため、バランスのとれた食生活は活力を生むこと・BMRの低下に応じた生活の見直しの重要性を説明し、QOL向上を目指す。

アルコール摂取については、ストレスの多い職務の中にあって、緊張をほぐす良い材料と思われるものの、適量であることが望ましい。特に、午前は事務作業、午後は商談と運動量は非常に少なく、長い通勤時間を考慮しても毎晩の飲酒は慎むべきである。

また、その運動不足・ストレス解消のためにも、空き時間を利用して出来ること…例えばストレッチや、外回りは徒歩にする等の工夫を随時行っていきたい。

起床は定刻の8時と、生活リズムを一定にするように心掛けている模様。仕事に意欲的でもあり、その積極性を存分に生かし乱れた食生活の改善や運動量の向上を図っていく。



日記部分は生活リズムと食生活を中心に簡潔にまとめられている。また、その日記を受けて健康面の改善計画まで作成してくれた。日記部分が看護士さん同士の申し送り事項で、改善計画部分は患者さんへの指導内容という棲み分けであろう。
小倉さんと駄洒落の部分は、健康管理と関係がないのでスルーされている。






CASE2:歯科医



続いて、歯科医が僕の日記をカルテ風にまとめるとどうなるだろうか?
川崎駅西口歯科医院の院長、小森山医師に文章化をお願いした。



小森山学医師。川崎駅西口歯科医院院長。歯科医師会会員、日本歯科補綴学会会員、歯科理工学会会員。


カルテ風

起床:8時
通勤:電車(小田急線・井の頭線・山手線)
仕事:午前/デスクワーク中心、午後/商談のため外出
食事:朝/記載なし/コーヒー
   昼/外食/麻婆ライス
   夜/外食/ハンバーグ/焼酎
帰宅:1時
就寝:2時半


■コメント
O.C.を行っているか不明。虫歯や歯周病のリスクは高い。

朝食は食べなくても、前日の磨き残しがあると口腔内細菌数は急増するため歯磨きをすること。

コーヒー摂取の際には砂糖やミルクなどを使用せず、ブラックで飲むこと。そもそもコーヒーはステインの原因となるので控えても良い。

食生活は柔らかいものが中心なので、よく噛むことを心掛けること。また、食後はしっかりとブラッシングし、歯間部にはデンタルフロスを使用のこと。その日の汚れはその日にとること。


「起床、通勤、仕事、食事」のようにタスク毎にその内容が記述されている。また、1日の行動を踏まえた歯科医としてのコメントも併記されている。歯の健康、という事だけをみても、1日の中でこれだけ留意するポイントがあるのだ。ちなみに、こちらも小倉さんと駄洒落はスルーであった。






CASE3:商社マン



続いて商社マンだとどうなるか?
双日株式会社、水産担当バイスプレジデントの林弘二氏に日記をリライトしていただいた。



林弘二氏。'83年にニチロ貿易部に入社、その後'89年に日商岩井(現・双日株式会社)入社、NY支社を経て水産部長に。現在は双日株式会社の水産担当バイスプレジデント(副社長)。鮪を中心とした水産のスペシャリストとして、NHKをはじめ各メディアから多数の取材を受けている。



商社マンの日記風に

定時の8時に起床。小倉さんから挨拶。
いつもの満員電車○○駅〜XX駅まで乗車時間は44分。
09:20事務所到着。始業までタリーズのアイスカフェラテ¥380。
昼までルーティンワーク(MAILチェック。あまりいい話は来ていない)。
昼飯は激辛麻婆ライス¥780(あまりの辛さに大汗)。
12:40事務所へ戻る。
13時〜15時:渋谷で輸入食品の商談/A社/300トン/8億円。久々の大型受注。
15時30分〜17時30分:品川で冷凍マグロの商談/B社/興味示すも価格折り合わず次回へ(現状分析において認識の違いか?)今回の商談は1勝のみ。
商談後直帰。Cから食事の誘い。
20時:軽くビールで乾杯&ハンバーグ。
25時まで西麻布で焼酎ロックを数杯(軽くテンションあがる)。
MAILをCHECKし、26時30分。 明日も小倉さんと朝の挨拶が楽しみ。



若い頃から教えられてきた「報告・連絡・相談」の癖が染み付き、いつ、どこで、誰と、何を、いくらで、という文体になるのだという。そのため、時間と金額に関して細かい記述が目立つ。また、「軽くテンションあがる」などの所感については括弧でくくっている。小倉さんの記述はあるが、駄洒落の件はスルーであった。






CASE4:弁護士



最後は弁護士さんである。
知人の弁護士、佐藤隆昭先生に日記のアレンジをお願いした。



佐藤隆昭弁護士。海事、民事、特許関係の弁護に強い


通常の弁護の場合、まずは依頼者からの話を聞いて「手控え」というメモ書きを作成するのだという。それを報告書に起こし、最終的に陳述書として裁判所に提出するのだが、今回は初期段階の「手控え」風にしたためていただける事になった。

 

手控え風

1、依頼者から本日の行動に関し事情を聞いたので、裁判所提出用の陳述書を作成する参考としてメモランダムの手控えを作成した。

Q:今日の起床はいつもと同じでしたか。
A:特に変わりはなく、今日はいつも通りに8時に起床。
Q:その後の行動において、何か記憶の残る状況や他の者の挙動などは。
A:家を出る前の小倉氏の朝の挨拶が印象的であった。小倉さんの「おはようございます」に勇気付けられ家を出たとの記憶が印象的であった。
Q:事務所までどの経路で特に変化は。
A:普段通りに、小田急線と井の頭線、山手線を乗り継ぎ事務所に到着。
(注)依頼者は、今日の午後の行動において、渋谷(成功)と品川(失敗)の2つの商談で一勝一敗との異なった結果を出しているが、この結果に対する原因力として如何なる要素が介在し影響したのかを分析し、それと平行し両者の差異(要件・効果)の比較検討が急務であり、因果関係の連鎖を検証することで、依頼者の行動パターンを把握し、適切な法的助言を与える必要性があると思料する。聞き取りを続けた。
Q:事務所についてから、いつもと違う行動をとったか。
A:いつものようにモーニングコーヒーを飲んだ。その後はお昼までデスクワークをした。近所の麻婆ライスを食べたが、いつものように辛かった。
Q:自覚している自己行動と他から観察された行動とに客観的な差異はないか。人の行動には必ずある種の目的が潜んでいる、ただ、自覚していない場合が多いが。
A:自分では分からない。
Q:結果の後の行動からも原因力を究明する鍵が隠されていることもあり、商談後の行動につき概略をお聞きしたい。
A:商談の結果がイーブンであった。夜は気晴らしの食事をとり、飲み屋へ移動、焼酎を飲み楽しくやり深夜1時前に帰宅。飲み過ぎの感がある。流石にメールのチェックは忘れなかった。2時半に就寝。明日も小倉さんの勇気付の挨拶に期待。 (注)依頼者の行動パターンからすれば、場当たり的衝動で行動が左右される可能性は低く、法的見地から見ても一般人が客観的に予見できる結果に対する判断力・アプローチ力が潜在能力として備わっているので、一見楽天的であるが自己の危険管理において特段問題はなく、適宜臨機応変の法的指導を行うことで、交渉術に磨きが掛かるものと期待できる。

2、所見としては、裁判での裁判官の自由心証主義(合理的疑いを差し挟まない程度の心証形成)の下で、依頼者は主要事実の立証責任につき主張・立証することでの心配がないとの結論に至ったのである。



一気に事件性が高まってしまった。手控えを読んでいるうちに、思わず「私がやりました」と言ってしまいそうな勢いである。僕はただ、小倉さんを見ながら支度をして家を出て、仕事をしてお酒を飲んで帰って来ただけなのだ。悪い事なんてしていない。ちょっとお酒を飲み過ぎた程度である。

 

職業によって文体は違った

4人のスペシャリストにご協力いただいた結果、それぞれの職業によって、その文体が違う事が分かった。ただ、今回作っていただいた文章が、その職業の代表的な文体と言いきる事は出来ない。なぜなら、同じ業種であっても書く人によって文体や書式が変わる事もあるからだ。

色々な文体に触れているうち、自分の文体が分からなくなった所存であるから、このレポートはこの辺で終了するでござる。

取材のついでに小森山先生が歯石を取ってくれた

 
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