不安になる
建設途中らしき建物があった。ここならば誰かが作業していてもおかしくないだろう。さすがにそろそろ人に会いたくなったので立ち寄ってみた。
だけどここにも誰もいなかった。
建設途中というより途中で放棄した感じだった。それにしても静かだ。セミの声や鳥のさえずり、風が草木を揺らす音なんかが盛大に聞こえているのだけれど、それでも僕の耳に入ってくるのは痛いほどの静寂だった。
かなり不安になりながらもバイクを走らせること約10分。突然先に道がなくなった。前には森が迫っている。
森との境目に看板を見つけた。かなり朽ちていて文面を完全に追うことは難しかったが、だいたいこういうことらしい。
「この先にあるジャネー洞は考古学的にはヤブチ洞窟遺跡として知られている。洞窟内の地層からは沖縄縄文時代のものとみられる沖縄最古の土器が出土された。」
洞窟あるのだ。すごく行きたくなかったが写真撮らずに帰るわけにもいかないだろう。使命感だけで歩みを進めることにした。おれ偉い。
まだ携帯電話の電波が通じることを確認し、洞窟へと続くけもの道を下った。今日は家族になにも行ってこなかったので、僕が帰らなくても近所の古本屋とかは捜索するだろうけど、この森は探さないだろう。本気で嫌だ。
森の奥にぽっかりと開いた洞窟は、それはそれは神聖な感じだった、以上。ここから先へは進みたくないので興味のある人は勝手に行ってください。
洞窟と逆の方向へも道が続いており、下っていくと誰もいないビーチへとつながっていた。人で混雑する観光ビーチにいつも文句を言っていた僕だが、今日ばかりは誰かいて欲しいと思った。だけど今思えばあそこに誰かいたらそれはそれで怖かったと思う。
貴重な場所だと思います
薮地島には以前は住民がいたらしいのだが今では半島側へ移動してしまい完全に無人だ。橋が架かっているのは、ここで畑を耕したり牛を飼ったりしている人がいること、それから洞窟にある拝所へ拝みにくる人の便利のためなのだと思う。それにしては立派すぎる橋なので、かつては開発の計画もあったとかなかったとか。でもたぶんあの島はこれから先もずっとあのままであり続けるだろうし、そうあってほしいと思う。一大テーマーパーク化している沖縄本島から橋を渡るだけで脱出できる場所を、ぜひとも残しておいてもらいたい。
鶏も貴重
帰りに鶏がいた。とてもうれしかった。たぶん僕はとても気の小さい人間なのだと思う。これからも誰か人の気配のする場所のみで生きていきたい。