いよいよ本格的な夏、毎年この季節になると、暑さで衣服にべっちょりと浮かぶ汗のあと。あれは結構不快なものだ。
しかし、そんな汗じみがロールシャッハテストのように何かの形に見える場合がある。私の場合、なぜだかそれはハート柄。期せずして浮かび上がるラブリーな模様。
今回は、そんな僕の隠されたファンシーを紹介します。
(小野法師丸)
●にじみ出る内面
湧き出る汗が不快な季節、夏。制汗剤のコマーシャルもテレビでたくさん流れている。
服に汗のあとが残るのもとても気持ちが悪い。暑い外から帰ってきて、顔を洗おうと洗面台の前に立つ。ふと見ると、胸に浮かぶ汗じみがハート模様になっているではないか。
そんなどうでもいい発見をしたのは、何年前になるだろうか。私の場合、気がつくとこの模様が出てくるのだ。職場で同僚に「あ、ハート柄」と言われ、リアクションに困ったこともある。
そんな私の密かなファンタジーを実証しようと、広い公園へとやってきた。ランニングをして汗をかき、ハート柄を出現させようではないか。
普段あまり運動をしない私が、こうして公園をランニングするなんて何年ぶりだろうか。いや、わざわざ公園まで出かけて走るなんて、初めてのことかもしれない。目的は健康や体力増進ではなく、ハート柄。
蒸し暑い日も多い梅雨どきなのだが、当日はあいにく涼しくて過ごしやすい日。ハートを出すには向いてない日だ。
10分くらい走っただろうか、息はかなりあがり、額からは汗が流れ出る。
期待して撮影した写真を見るのだが、いまだハート模様は浮かんでこない。ちょっと暑い日なら普通に過ごしているだけでも出てくることのあるハートなのに、意図的にやろうとしているからなのか、どうもうまくいかない。
まだ走らなくてはならない。走り続けなくてはならない。「試練」という言葉が思い浮かんだが、目的からするにふさわしくなくないと、自分の中でかき消した。
走り続けてクタクタなのだが、今ひとつ汗の出が悪い。まだか、まだなのか。
ふと気がつくと、自転車が併走していたはずの妻の姿が見えない。しばらく経ち、スピードを上げて追いついた妻が私に見せたのは、取材と関係ない写真。飽きてきて花の写真を撮り始めているのだ。
……足を止めて、ちょっと別の角度から攻めてみよう。鉄棒があったのだ。
懸垂しようと思ったのだが、ぶらさがっただけでグロッキー。腕を曲げて持ち上がる前にダウンだ。
崩れ落ちたちょうどそこにあったのは、腹筋を鍛えるための特殊ベンチ。押さえ棒のところに足を入れて横になる。と、そのときだ。
「ちょっと待って!」と、妻がシャッターを切る。そこには確かに模様らしきものが浮かんでいるではないか。
中心部分はまだ汗が布地に届いていないためか、変色していないのだが、全体の輪郭としてはハート柄と言っていいものであろう。風穴の開いたハート模様だ。
もしかすると、ミッキーマウスのようにも見えた方もいらっしゃるかもしれない。「ハートって言うより、ミッキーじゃん!」と思った方もおいでかもしれない。
そう、いつも私のハート柄は、まずミッキーを経てハート柄に推移していくのだ。マンションに住んでいた頃、近所の子供に「ミッキーマウスだ!」と言われた実績もある。始めはなんだかわからなかったが、部屋に着いて鏡を見て理解した。
どうして自分の意志とは無関係に、そんな柄が浮かんできてしまうのだろう。
より完成されたハートを目指し、力をふりしぼって腹筋を行う。汗ばんでいくシャツ、さっきより色が濃くなって、中央の空洞も少しだが小さくなった。
やった、今回はこれをゴールとしたい。完全なものではないが、私が汗をかくと胸にハート模様が浮かび上がる男であることは証明できたと思う。どうでもいいことでも、こうして世の中に発信すると何かをやり遂げたような気持ちになる。
汗をかくと胸にハート模様が浮かび上がる男。もしかしたら気づいていないだけで、あなた自身もそうかもしれない。
●実生活での活用の途も
意味なく胸に浮かび上がるハート柄。それは意表をついたファンシー。どうとらえたらいいものか。
そうだ、女性に愛を告白するときに、ハート化した状態で臨めばいいかもしれない。「よくわからないけど、この人どうやら本気なんだわ」と思ってもらえるかもしれない。
しかし個人的にはもう結婚してるし、これから先、あんまり愛の告白とかする予定はない。
実用性は見出せないままだが、心の中に秘めたハート柄のこれからも大切にしていきたい。