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ロマンの木曜日
 
新聞と各駅停車の旅

一見普通の電車だが…

知り合いから聞いた話です。

ある日、上野駅から電車に乗ろうとしたら、車両の半分をロープで区切って荷物を載せている光景を見た、というのです。
専用の貨物列車ではなく、普通の電車に荷物を載せるなんてことがあるのなら、これはぜひ見てみたい!

いや、むしろ荷物と一緒に旅立ちたい、旅立ってしまいたい!

萩原 雅紀



その正体は新聞輸送列車

荷物列車に乗るために昼下がりの上野駅にやって来たところ、この日はほかに何やら珍しい列車が来ていたようで、平日にもかかわらずかなりの人だかり。ちらっと覗いてみましたが、どんな列車なのかは分かりませんでした。
(注:あとで調べたところ新型の皇室車両の公開でした)

僕と荷物が乗る宇都宮線の黒磯行きは、その隣の14番線に停まっていました。
フラッシュが光る方に背を向け、誰も見向きもしない地味な方を追いかける。考えてみれば、僕の人生昔から同じことを繰り返している気がします。

ホームに行ってみると、一番後ろの車両の半分がロープで仕切られ、ドア部分には「荷物室」の表示。電車は最新ですが、なんだかここだけ古き良き国鉄時代を彷彿とさせます。
事前に調べておいたところ、荷物の大半は新聞の夕刊とのこと。道路事情によってはトラックでは配達に間に合わない地域があるため、列車による配送が今でも行なわれているのだそうです。発車まではまだ時間がありますが、既に車内にはかなりの量の新聞が積まれていました。


とりあえず君ら、仕事は? 最新の電車に漂う昭和の香り

この新聞はどこで降ろされるのでしょうか。そして走行中の車内の雰囲気はどんな感じなのでしょうか。荷物室の様子がよく見えるように、仕切りのすぐ脇に席を陣取って出発を待つことにします。
普通列車ですが自分にとっては旅立ちなので、お茶とおにぎりも調達済みです。

オラ何だかワクワクしてきたゾ!


新聞もスタンバイ完了

 

案外混む

上野駅を定刻に出発しましたが、直前にかなりの人が乗り込んできたため、車内は案外込み合っています。途中駅でも、荷物室になっているところのドアに並んでいた人が乗れずに前に流れ込んでくるため、大宮を出た頃にはかなりの混雑に。単純に、1両の半分のスペースに1両分の乗客が乗っている計算です。こんな昼下がりの下り列車なんてぜったいガラガラだと読んでいましたが(実際1両分のスペースなら大した込み具合ではないのですが)、むしろほかの車両の方が快適に過ごせそうです。
これではおにぎりどころではなく、早くも旅情は吹っ飛びました。
乗客も大半が初めて荷物室を見たような顔つきで戸惑い気味。沿線住民にも知られていないのかも知れません。

さっきのワクワク取り消し。2階建てのグリーン車に移動したい。


シート1枚で隔てられる客室と荷物室 列車は走る

 

荷下ろし開始

荷物室の方には荷物係の方が1人乗っていますが、動きはほとんどありません。ところどころの駅で駅員さんが待っていて、小さな封筒入れのようなものを受け取っていくのが見られますが、これは社内便か何かでしょうか。

と、出発から約1時間、ようやく車内も空いてきて待ちに待ったおにぎりにかぶりついた瞬間、古河駅に到着。なんと、ここで最初の新聞の荷下ろしが行なわれました!
ホームに十数人が待機していて、ドアが開いた瞬間、一斉に中の新聞を運び出してゆきます。


おにぎりくわえてる状態なので席を立てないしレンズも交換できない(寄れない)!

まるで早朝のセリ市の後のようで、各自手際よく自分の分をまとめると、肩に担いだり台車に乗せたりして足早にホームを去って行きます。どうやら各販売店の人が直接引き取りにきているようです。

そこから先は各駅ごとに引取りの人々が待機、列車が到着するなり新聞を運び出していました。荷下ろしの量によって、大まかにその駅周辺の街の規模が分かって面白いです。


だんだん乗客も荷物も減ってきた

本当は終着駅の黒磯まで行くつもりだったのですが、2時間近く乗ってきてだいぶ飽きてきました。お尻も痛くなったので新幹線で帰りたいし、宇都宮で降りることにします。きっと宇都宮では新聞も大量に降ろされるでしょう。

ほとんど乗客もいなくなり、ほどなく列車は宇都宮駅に到着。


ずいぶん遠くまで来ちゃったな・・・

 

荷下ろしの風景

宇都宮は待ち構える販売店の人もいちばん多く、残っていた新聞の大半が降ろされました。ホームに積まれた新聞の山に人々が群がりますが、もちろん各店の割当ては決まっているので、大きな混乱もなくあっという間に分配終了。彼らにとっては毎日行なわれている当たり前の業務のひとつに違いないのですが、身近なところにあってまったく知らなかった光景を見ると、なんだかドキドキします。


ここまで乗ってきた新聞の大半が運び出される 大漁だ大漁だ

新聞はこのあとすぐに販売店に持ち帰って各家庭に配達しなければならないわけで、皆さん急ぎ足で運んでゆきます。でもこの光景を初めて見る僕の目のフィルターを通すと、猟師や漁師が大きな獲物を担いで家路を急いでいるようなイメージが湧いてきました。ちょっと幸せそうな雰囲気。

列車の方は、ここで大部分の新聞が降ろされたため、客席と荷物室を仕切るシートを1ブロック後ろにずらしていました。


今日の夕食は豪華にすっぺよー 「母ちゃん喜ぶかな」「喜ぶだろうよ」

ホームの壁に開いたこの穴から外に出していた 仕切り幕は1ブロック後退

 

忘れ物?

長いようで短かった旅もおしまい。ここまで根気よく乗ってきた新聞列車の発車を見送って旅の締めとしましょう。

と思ったら、受け取りにきた販売店の人はもう誰もいないのに、いま降ろした夕刊が2束、ホームの上にぽつんと置き去りにされていました。どこかの忘れ物かと思って列車が見えなくなるまで見送りましたが、結局荷物の主は現れませんでした。その後あの夕刊は無事にご家庭へ届けられたでしょうか。

じゃあ、餃子でも買って帰るとしますか。


いよいよ残りもこれだけ、次の駅用にスタンバッてる 引き取り手が現れない束たち

不安そうに列車を見送る束たち コンテナ貨車ってかっこいいよね、きっと近々これの記事書きます

知らない世界を垣間見る

「必ず夕方までに届けるために列車に載せる」「販売店が荷物を取りにくる」「客室が半分なので倍混む」などといった、ひとつひとつ考えれば当たり前の事柄も、普段の生活圏になくて知らない、というだけでさまざまなフィルターがかかった新鮮な光景として見ることができました。でももう各駅停車の旅はいいかな。

ちなみにこの新聞輸送列車、首都圏では宇都宮線のほか高崎線、総武線でも行なわれているようです。

そういえば上野で視線を集めてたのはこんなの
何だか分からないけどすげえかっこいい

 
 
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