入れ歯から850億円の鉱脈を見つけた男の話
〜デイリープロジェクトX〜
開始10日間で33万円相当の入れ歯が!
取材日、午後2時。
この日すでに回収ボックスには5個の入れ歯が入っていた。地元や、郵送で遠くから送ってくれた人たちの入れ歯である。設置したのは今年の6月20日。設置 直後から反響が反響を呼び、10日間でこのポストに134個もの入れ歯が集まった。入れ歯のリサイクルが1個2,500円という話が出ていたから、単純計 算で33万5,000円分の入れ歯が開始10日間でボックスに集まったことになる。
こうやって手に入れた収益のうち、10%はNPOリサイクル協会の運営資金に、残った45%がユニセフへの寄付。さらにもう45%が市の福祉協議会の活動資金になるという。
夕張市の財政破綻なんかが問題になったが、今、市の財政はなかなか厳しい状況の中で、いらない入れ歯を回収して、それを市の福祉事業に当てるなんて素敵なアイデアではないだろうか。誰も損をしないところがいい。
仕掛け人の吉田さんに話を聞いた。
――そもそもなぜこんなことを思いついたんですか?
実はある日雑誌で、入れ歯を回収し、そのお金をユニセフに寄付しているNPOの存在を知ったんです。で、その記事で、使用済みの入れ歯には高価な金属がたくさん含まれていることを知りました。僕は「市の職員組合」という立場なんですが、これは社会貢献活動を行っていかなくちゃいけないんですよ。で、この入れ 歯の回収を、僕らもやろうと思い立ったんです。
吉田さんが雑誌の記事で入れ歯のことを知ったのは今年4月のこと。設置の2ヶ月前だ。
まさかの大反響! 市役所に取材が殺到
――設置まではどういう流れだったんですか?
NPOに連絡を取って、回収ポストを市役所に設置したい、と話したんです。そしたら歓迎してくれて。
設置前後、『入れ歯』というキーワード惹かれたのか、様々な取材が相次いだ。一例を挙げると…
産経新聞 6月13日
全国初「入れ歯回収ボックス」 鎌ケ谷市役所に設置へ
共同通信 6月20日
部分入れ歯の回収箱設置 千葉、含有金属売り福祉に
こうして先の回収ボックスはにわかに注目を集めることとなった。
――実際に入れ歯を送ってくれる人からはどのような反響がありますか?
不要になった入れ歯とは言え、自分の口の中に入っていたものです。ある意味では自分の身体の一部であったとも言えます。だから、不燃ごみとして捨てるのもどこか忍びないと皆さん思っていたみたいですね。そうして処理に困ってタンスの奥とかに眠っている取っているあったみたいで。そういった人から、『処理に困っていた。私の入れ歯が福祉に役立つなら使ってくれ』という反響をいただきました。それはもう嬉しかったですよ。
僕はメガネ愛好家だが、確かに壊れたメガネを不燃ごみとして捨てる時はちょっと、というかかなり忍びない。入れ歯を捨てられないおばあちゃんの気持ちは分かる。
また、ご両親の形見の入れ歯をどう処理しようか困っていたかたから手紙をもらいました。不要な入れ歯を送ることが、福祉事業やユニセフへの寄付に繋がるから父母も喜びます。って手紙が来たんです。嬉しかったですね。
都市鉱脈って、入れ歯のことじゃないか
都市鉱脈って言葉がある。不要になった携帯電話とかパソコンの中には大量の金属が眠っていて、これらを『鉱脈』と見立て、リサイクルすることによって金属 を採掘できる、という考えかただ。それで言えば、都市鉱脈とは入れ歯のことなんじゃないか。そう吉田さんは話し出した。
入 れ歯って一生モノじゃなくて、せいぜい2年か3年の寿命だそうですよ。保険のルールでは、半年経つと次の入れ歯が購入できるんですね。で、古くなった入れ 歯は不燃物のゴミの日に捨ててしまうんですが、日本全国の入れ歯を、すべて余すことなく集めることができたらものすごいと思いますよ。私の資産では、 850億ぐらいになるんじゃないかな。
私の夢は、今全国に1,800ぐらいの市町村があるそうですが、この一つ一つの市町村に1個づつポストを置いてもらって、捨てられている入れ歯をすべて回収して、それぞれの地域に役立つように使ってもらうことです。
鎌ケ谷市のケースを成功例に、全国から視察がやってきたり、問い合わせがあったりして、この回収ポストの設置場所はどんどん増えているようだ。東京23区で言えば、先月すでに杉並区に設置されている。(asahi.com記事リンク)この流れは、全国に広がっていきそうだ。 |