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はっけんの水曜日
 
乙女酒紀行 in 宮古島<BR>「ミルク泡盛のルーツを訪ねて」前編

「甘くて美味しい、簡単なカクテルを自分で作って、おうちでゆるく飲もう!」と考えて発足した「乙女酒部」。なかでも人気の「泡盛の練乳割り」が、実は沖縄・宮古島のお酒だと知って、「本場のミルク泡盛を飲みに行こう!」と、気軽な気持ちで旅立ったのだけれど…そこで予想もしなかった「ミルク泡盛のルーツ」と出会うことに!?

(text by 大塚 幸代



「……ねえ、大塚さん」
「なに」
「ワイパーって……どうやったら動くんだっけ?」
「………ええええー!! …えーとね! たぶん、これを、こう…」
助手席に乗っていた私は、運転席の左レバーを、かちゃかちゃと動かしてみた。うっかり失効で今は免許がないけれど、昔は運転出来た、ワイパーも動かせた。脳内を検索する…うん、たぶん、こんな動きでスイッチを入れるはず、だ。
「あー動いた! ありがとう!」
「いえ、どういたしまして…」
これが、レンタカーを借りて、移動し始めてすぐ、雨が降り出した時、旅のはじまりの出来事。

旅行用に作ってきたCDの1曲目、真心ブラザーズの「サマーヌード」をかける。
運転中の友人・ニシさん、うしろ座席にいる友人・アンちゃん、そして私は、半笑い。

…9月に宮古島に行こう、そして本場のミルク泡盛を飲もう! と決めたのは、結構前で、6月頃のことだった。
9月の沖縄ツアーは、「台風リスク」のため、ずいぶんお安い。でも晴れれば、9月でも充分に夏を満喫出来るので、おトクだ。
「わたし晴れ女なので、台風来ないと思う!」という根拠のない自信で、友人2人を誘って、予約を入れた。
そして当日。直前まで来ていた台風は去り、那覇は快晴。「ザマーミロ、はははは」と思いながら宮古島まで乗り継ぎ移動したら、雨。

「このまま旅行中、ずっと降るのかなあ」
「降るのかねえ」
「いやあ、どうだろう」
「ははは」
「ははははは」
「……とりあえず、宿まで行くかー」
「行こう、ははははー」

妙にハイテンション。社会人が無理矢理休みをとって、旅に出かけるのは大変なことなので、どんな状況でも楽しまなければならない。というか、何があっても笑ってしまう、そういうメンツで行ったほうがいい。

レンタカー屋でもらった、フリーペーパーの地図と、ガイドブックの地図を見る。何を隠そう、私は全然地図が読めない。

「いま、どこだろう」「どこなんだろうねえ〜」「さっき小学校あったよね?」「あれ、この教会、さっきもあったか?」「宿、ビーチのそばだよね」「ここ、まっすぐ行けば、海に出るんじゃない?」

ぐるぐる回って宿を探す。赤信号の間、カーナビをにらむ。しかし3人とも、見事なまでに地図の読めない女であった。
しかしその中でも「比較的」地図の読めるアンちゃんが、脳をフル回転させて、地図を解読しはじめた。
「そこ、右! で、その細い道に入って!」
危機的状況になると、発揮される能力って、あるものだなあと妙に感心した。
「あ、たぶんここだー!」
「無事着いてよかったあ、運転の仕方も思い出してきたし…」
ホッとするニシ運転手。宮古島市街はコンパクトで、制限速度もおそく、車も多くなく、全体的に運転も駐車の仕方もフリーダムなので、ペーパードライバー向きの場所だと思う。ペーパードライバーは、宮古島旅行で手を慣らすといいかもしれない。

チェックインしている間、私は宮古島在住の人に、携帯メールで連絡をしていた。<到着いたしました! つきましては、お会いしたいんですが…>送信。
<ウチは、皆さんの宿から近いので、車で行きます。車を先導しますので、ごはんをご一緒しませんか?>と、返信が来た。
「車で先導してくれるそうだよ〜」
「……あ、そのかたの、車に乗っけてってくれないかなあ」とニシさん。
「ええ〜! いや、初対面なのに、それはずうずうしいのでは…」
「いや、お願いしたら、運転してくれはるよ〜」
「うーん…そんなに甘えていいのだろうか」

「あの時、運転したくなかったのは、ライトのつけかたが分からなかったので、夜間運転は無理だと思ったからやねん」
と、ニシさんに衝撃告白をされたのは、旅行後、ずいぶんたってからだ。

実はこの旅のそもそものはじまりは、たった3行のメールだった。
「甘いお酒のレシピ、教えて!」と告知したところ、読者様からこんなタレコミが来たのだ。

>「宮古島 コンデンスミルク 泡盛」
>で、検索かけてみてくださいな。
>宮古島特有らしぃけど。

検索すると、人の旅行記がいくつか見つかった。そんな飲み方が沖縄にはあるのかあ、と思って、実際に試してみた。
泡盛ロックに、チューブの練乳をたらして混ぜる。
これが、大変飲みやすい。泡盛といったら大変に強いお酒なのに、あまりにも危険な飲みやすさ。
いいね、これ! 詳しいことが知りたい! と思い、まずは那覇在住・78タイフーンfmの知人に、「ミルク泡盛、知ってますか?」とメールを出した。
<確かに宮古島の人が飲むらしいですね、本島ではそんなにポピュラーじゃないけれど…。詳細調べたいなら、宮古島在住の人、探してみましょうか?>
知人は親切にも、東京から宮古島に移住したかたを、探し出してくれた。でも直接の知人ではないという。
つまり、私にとっては、知人の、知人の、知人。要するに「全然知らないかた」だったわけだ。

まだ逢ったことがない人に、<すいません、よかったら車、運転してもらえないでしょうか…>とメールする私。
<ええ!? とりあえず行きますが…。あと、ミルク泡盛の件、手配しましたので、そのへんのことも打ち合わせしましょう>という返信が。
手配? 手配って!?

初対面の好青年・D介さんは、ちょっとヒきつつも、「運転…いいですよ」と、私達を乗せて、宮古島ソバ屋さんへ案内してくれた。いい人だ。

宮古島のソバというのは、「具が、麺の下に入っている」ので有名なのだけれど、いまソレをやっている店は少数で、私たちが行った人気の店「古謝そば屋」も、具は上に乗っかっていた。


宮古島のソバは、本島の麺と違って平べったくなく、丸くまっすぐな感触。美味し! そういえば「カレーそば」なるものもあるようで、地元のコドモ達がはしゃいで食べておりました。通常のそばに、普通のカレーをかけたもの、なんだとか。いつか試してみたい…。

「あのう、D介さんは……やっぱりマリンスポーツとか好きで、移住されたんですか?」
「ああ、みんなそう訊くんですけど、もう4年くらい海に入ってないんですよー」
「あら。…では、何にハマって…?」
「うーん、なんていうか…宮古島全体の感じが好きになってしまったというか…。宮古の人たちに魅せられたっていうか。
最初は一人旅で来たんですけど、一人旅って孤独になるためにするものじゃないですか?」
「ですね」
「でも宮古の人は、ほっておいてくれなかったんですよ。いつのまにか一緒に飲んでたりして。説明しにくいんですけど…とにかく、人なんです、人がよくて」
「人ですか」
「人です」
…その時はピンと来なかったが、すぐ後、その理由が分かってしまうことが起きる。

「宮古島の中でも、『ミルク泡盛』を飲むのは、池間の人なんです。宮古島のいちばん北に、池間島っていう、かつてカツオ漁で栄えた島があるんですよ。池間はですね、『誇り高き池間民族』って呼ばれていまして…」
誇り高き! 確かに海の男はカッコイイ……そこから来たフレーズなんだろうか?
「で、実は僕もよく今日の段取りを把握してないんですが…、池間に住んでる知人が、真相を知っている知人と逢わせてくれるというので…『とりあえず泡盛とコンデンスミルクを買ってきて』っていう指令だけ、受けているんですけど」
「え、持参して行けばいいんですか?」
「そうみたいです」

…東京に住んでライターなどやっていると、「詳しい人に話を伺う」こと、イコール、飲食店で話して取材させて頂いて、経費はこちらが持つ、という流れが常だ。今回もなんとなく、それをイメージしてしまっていた。

一体どんな場所で、どんな状況で、どんな人と逢うのか? どんな話をどこまできけるのか? サッパリ把握しないままに、スーパーに向かって、泡盛を買う。
「あ、コンデンスミルクは、鷲のマークの付いた、缶のやつを買ってきて、とのことです」
「…これですかね?」


イーグル印のコンデンスミルク、通称「わしミルク」。

当然ながら充実していた泡盛コーナー。「大五郎サイズの泡盛(メチャ安)」があったのにはビックリ。スゴイ。

買い物を終えて、レンタカーでどんどん北上する。晴れ女の念が通じたのか、いつのまにか雨は上がっていた。
カーナビにも出ない、D介さんとっておきの道で、素晴らしい夕暮れの景色を見せてもらいながら、移動する。


美しいひっそりとした、誰もいない入江。場所はヒミツ。

日が暮れていくなか、長い橋を渡ったら、池間島だ。

「これから逢う人は、カメラマンさんなんですよ」
「えっ、カメラマンさん…?」

D介さんが携帯電話で連絡をすると、「よう!」と、日に焼けた男性が、家から現れた。
彼の名前はアシカワさん。かつて東京在住で、マスコミで働いていらっしゃったのだけれど、池間の漁師に弟子入りして、海人になった、という経歴のかただ。
(実はこのことは、帰宅後たまたま読んだ椎名誠の本に、彼が登場していて、知った)。

アシカワさんの先導で、さらに移動する。
……暗くてよく景色が見えなかったが、船着き場のそばだったと思う。釣りの準備をする、事務所のようなところに通された。

さらに日焼けした、笑顔のすてきな男性が座っていた。池間生まれの『誇り高き池間民族』、勝連見治さん。やはり海人。


ほんとうに笑顔がステキ。よく考えたら、私の人生の中で、「海の男」と実際お話するのは初めてだった…かも。

お刺身が用意してあった。うわあ。


右の皮が青いのはブダイ、左のは……何だろう? いずれにせよ東京の沖縄料理屋で食べたら、メチャ高いお魚だと思われます。

グルクンの唐揚げも。値段のことばっかり書いてナンですが、やはり東京で頼むと1匹800円以上はするんです、それが無造作にてんこもり!

ああ、私たち、お酒以外、ホテルの部屋で食べる用に買ったカワキモノしか持ってきてないよう…やべー! あちゃー! と恐縮しきり。

「あれ、女の子が、1人来るんじゃなかったの? 3人もいるの? ツマミ、足りないかもしれないなあ(笑)」
「す、すいません、3人なんです…」
さらに恐縮しながら座る。
私のようなへなちょこ女だけじゃなく、営業力のある、たのもしい女友達を連れてきてヨカッタ…と思った。ニシさんもアンちゃんも、どちらかというと年上キラーなのだ。
「まず、飲んで(笑)」
ビールをごちそうになる。運転手のD介さんは、ジュースで乾杯だ。さらにさらに恐縮。

「で、『みるくじゃけ(ミルク酒=ミルク泡盛)』のことを訊きたいんだって? そんな人、初めてだよ」

それはそうかもしれない。池間は椎名誠が来てカツオ漁入門するような所だ、よりによって『ミルク泡盛』のことだけ訊きにくる女、というのは、珍しいだろう。

「はい、その、あのう、エート、甘いお酒を研究していまして、泡盛をコンデンスミルクで割るという飲み方を、初めて知りまして、美味しいなあと思って…」
「そう……あのね、ミルク酒はね、……うちの身内、祖母の兄、つまり大叔父が始めた飲み方なんだよ」

……って、えええええええええー!!

いきなり核心までたどり着いてしまった。
なんて偶然。
つまり、私の知人の、知人の、知人の、知人の、知人の、大叔父さんが発明者だったわけだ。

「で、なんでコンデンスミルクと泡盛を、混ぜて飲んだんだと思う?」

ケンジさんは、ニッと笑って、私達を見た。

「な、なんでですか…?」
「胃薬、だったんだよ」

ええええええええー!! ってか、えええええええええー!!!!!

ものすごく意外な解答に、驚く一同。なんなんですか、そりゃ。

(つづく)

■池間島で釣りが出来ます

ケンジさんが漁船で釣り案内をしてくれます。池間に行った際には是非!
勝連つり具店 宮古島市平良字池間90-6
(連絡先)090-3797-5440
(店)0980-75-2511
https://sea.ap.teacup.com/7777/
またアシカワさんも、釣り&ダイビング・シュノーケリング案内をされています、メール予約可!
和剛丸
https://www13.ocn.ne.jp/~wagou/

■今月、池間島でお祭りがあります

10月27〜29日は、池間島のお祭り「宮古節(みゃーくづつ)」が行われます。中日の10月28日は、年に1度しか入れないウタキ(聖地)に、一般観光客もおまいり可能。本場『ミルク酒』がふるまわれ、池間の唄と踊りの、スゴイ盛り上がりが体験出来るとか。行ける人は行って飲んで踊るべし!!

■取材協力してくださったみなさん

STAPANBIN CAFE Condiment Bar(D介さん宮古島発信ブログ)
https://miyakojimacity.ti-da.net/
D介さん主催 ポストカードアート展『ぴん座 -PINZA-』公式ブログ
(11月1〜5日まで宮古島ギャラリーうえすやーにて開催、アシカワ氏も写真参加)
https://pinza.ti-da.net/
芦川写真事務所 - 宮古島の水中写真
https://www2.miyako-ma.jp/tsuyoshi/
ポッドキャストで那覇から沖縄情報を発信、78タイフーンfm
https://www.fmnaha.jp/
沖縄の今をケータイカメラで毎日アップ、ウルマックスのしまPashaCLUB!
(D介さん、デイリーポータルZライターの安藤昌教さんも参加中!)
https://pasha.uruma.jp/


 
 
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