「……ねえ、大塚さん」
「なに」
「ワイパーって……どうやったら動くんだっけ?」
「………ええええー!! …えーとね! たぶん、これを、こう…」
助手席に乗っていた私は、運転席の左レバーを、かちゃかちゃと動かしてみた。うっかり失効で今は免許がないけれど、昔は運転出来た、ワイパーも動かせた。脳内を検索する…うん、たぶん、こんな動きでスイッチを入れるはず、だ。
「あー動いた! ありがとう!」
「いえ、どういたしまして…」
これが、レンタカーを借りて、移動し始めてすぐ、雨が降り出した時、旅のはじまりの出来事。
旅行用に作ってきたCDの1曲目、真心ブラザーズの「サマーヌード」をかける。
運転中の友人・ニシさん、うしろ座席にいる友人・アンちゃん、そして私は、半笑い。
…9月に宮古島に行こう、そして本場のミルク泡盛を飲もう! と決めたのは、結構前で、6月頃のことだった。
9月の沖縄ツアーは、「台風リスク」のため、ずいぶんお安い。でも晴れれば、9月でも充分に夏を満喫出来るので、おトクだ。
「わたし晴れ女なので、台風来ないと思う!」という根拠のない自信で、友人2人を誘って、予約を入れた。
そして当日。直前まで来ていた台風は去り、那覇は快晴。「ザマーミロ、はははは」と思いながら宮古島まで乗り継ぎ移動したら、雨。
「このまま旅行中、ずっと降るのかなあ」
「降るのかねえ」
「いやあ、どうだろう」
「ははは」
「ははははは」
「……とりあえず、宿まで行くかー」
「行こう、ははははー」
妙にハイテンション。社会人が無理矢理休みをとって、旅に出かけるのは大変なことなので、どんな状況でも楽しまなければならない。というか、何があっても笑ってしまう、そういうメンツで行ったほうがいい。
レンタカー屋でもらった、フリーペーパーの地図と、ガイドブックの地図を見る。何を隠そう、私は全然地図が読めない。
「いま、どこだろう」「どこなんだろうねえ〜」「さっき小学校あったよね?」「あれ、この教会、さっきもあったか?」「宿、ビーチのそばだよね」「ここ、まっすぐ行けば、海に出るんじゃない?」
ぐるぐる回って宿を探す。赤信号の間、カーナビをにらむ。しかし3人とも、見事なまでに地図の読めない女であった。
しかしその中でも「比較的」地図の読めるアンちゃんが、脳をフル回転させて、地図を解読しはじめた。
「そこ、右! で、その細い道に入って!」
危機的状況になると、発揮される能力って、あるものだなあと妙に感心した。
「あ、たぶんここだー!」
「無事着いてよかったあ、運転の仕方も思い出してきたし…」
ホッとするニシ運転手。宮古島市街はコンパクトで、制限速度もおそく、車も多くなく、全体的に運転も駐車の仕方もフリーダムなので、ペーパードライバー向きの場所だと思う。ペーパードライバーは、宮古島旅行で手を慣らすといいかもしれない。
チェックインしている間、私は宮古島在住の人に、携帯メールで連絡をしていた。<到着いたしました! つきましては、お会いしたいんですが…>送信。
<ウチは、皆さんの宿から近いので、車で行きます。車を先導しますので、ごはんをご一緒しませんか?>と、返信が来た。
「車で先導してくれるそうだよ〜」
「……あ、そのかたの、車に乗っけてってくれないかなあ」とニシさん。
「ええ〜! いや、初対面なのに、それはずうずうしいのでは…」
「いや、お願いしたら、運転してくれはるよ〜」
「うーん…そんなに甘えていいのだろうか」
「あの時、運転したくなかったのは、ライトのつけかたが分からなかったので、夜間運転は無理だと思ったからやねん」
と、ニシさんに衝撃告白をされたのは、旅行後、ずいぶんたってからだ。
実はこの旅のそもそものはじまりは、たった3行のメールだった。
「甘いお酒のレシピ、教えて!」と告知したところ、読者様からこんなタレコミが来たのだ。
>「宮古島
コンデンスミルク
泡盛」
>で、検索かけてみてくださいな。
>宮古島特有らしぃけど。
検索すると、人の旅行記がいくつか見つかった。そんな飲み方が沖縄にはあるのかあ、と思って、実際に試してみた。
泡盛ロックに、チューブの練乳をたらして混ぜる。
これが、大変飲みやすい。泡盛といったら大変に強いお酒なのに、あまりにも危険な飲みやすさ。
いいね、これ! 詳しいことが知りたい! と思い、まずは那覇在住・78タイフーンfmの知人に、「ミルク泡盛、知ってますか?」とメールを出した。
<確かに宮古島の人が飲むらしいですね、本島ではそんなにポピュラーじゃないけれど…。詳細調べたいなら、宮古島在住の人、探してみましょうか?>
知人は親切にも、東京から宮古島に移住したかたを、探し出してくれた。でも直接の知人ではないという。
つまり、私にとっては、知人の、知人の、知人。要するに「全然知らないかた」だったわけだ。
まだ逢ったことがない人に、<すいません、よかったら車、運転してもらえないでしょうか…>とメールする私。
<ええ!? とりあえず行きますが…。あと、ミルク泡盛の件、手配しましたので、そのへんのことも打ち合わせしましょう>という返信が。
手配? 手配って!?
初対面の好青年・D介さんは、ちょっとヒきつつも、「運転…いいですよ」と、私達を乗せて、宮古島ソバ屋さんへ案内してくれた。いい人だ。
宮古島のソバというのは、「具が、麺の下に入っている」ので有名なのだけれど、いまソレをやっている店は少数で、私たちが行った人気の店「古謝そば屋」も、具は上に乗っかっていた。 |