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ロマンの木曜日
 
喫煙セラピー

まずは環境を整える


空席が目立つ喫煙車両

喫煙車両はガラガラだった。満席で煙がモクモクしていたらどうしよう。煙が立ちこめる空間は、喫煙者にとっても気分のいいものではない。乗るまではそんな状況を心配していたが、これなら大丈夫だ。


藤原君の携帯、デジカメ、そしてタバコ

席に着き、藤原君の前にタバコを置いた。普段から見慣れている自分の持ち物にタバコを混ぜるのだ。タバコ=違和感、という印象を少しずつ和らげる作戦である。

もちろん、定期的に隣りでおいしそうにタバコを吸う事も忘れない。タバコがある風景に馴染んでもらうのだ。


贅沢な時間



セラピー1:同じ目線で

藤原君と同じように、僕にも大学生だった時代がある。その頃の話から始めて、うまくタバコの話題に持っていく。藤原君と同じ目線に立って喫煙をすすめる寸法だ。

テーマはゼミ。ゼミの話題から喫煙の話題に持ち込むシナリオを用意しておいたのだ。

住「大学でゼミに入ってる?」
藤原「ええ」
住「何のゼミ」
藤原「コミュニケーション」
住「え? コミュニケーション?」
藤原「はい」

藤原君がコミュニケーションを専攻しているとは知らなかったので驚いてしまった。コミュニケーションとは何か。改めて考えなければならないが、今回はその暇はない。ゼミから喫煙の話題にもっていかないといけないのだ。驚きを収めて会話を立て直す。

住「俺は米文学を専攻してて、マークトウェインのゼミに入ってたのね」
藤原「ええ」
住「で、そのマークトウェインが残した名言があってさ」
藤原「はい」
住「聞きたい?」
藤原「まあ」
住「タバコをやめるなんて簡単な事だ。私は百回以上も禁煙している」
藤原「……」
住「どう? 面白くない?」
藤原「まあ」
住「つまり、文豪たちもタバコを愛してたって事だよね。しかも、やめたければすぐにやめられるって言ってるし」


一本どう?

藤原「いや、いいです」

主に一言解答が多い藤原君から、きっぱりと断られてしまった。
次の作戦に移る。




セラピー2:エヴァンゲリオン

僕と藤原君の間で唯一共通の話題として盛り上がれるのが「エヴァンゲリオン」である。9月に公開された新作「エヴァンゲリヲン新劇場版:序」を、藤原君は4回見たという。僕も2回見た。その「エヴァンゲリオン」で藤原君の興味を引き、一気に喫煙へと持ち込む作戦である。「エヴァンゲリオン」を知らない人には分かりにくい内容なので読み飛ばして下さい。

住「エヴァの中で好きな女の子って誰?」

エヴァと恋愛、藤原君の二大興味(僕が勝手にそう思っています)で牙城を崩す。

藤原「委員長」
住「え? 委員長?」

再び意外な解答が飛び出してしまった。葛城ミサトとか赤木リツコとか、大人の女性が好みだと思っていたのだ。そして赤木リツコという答えなら完璧であった。赤木リツコはヘビースモーカーなのである。そこですかさず、

「だったら自分も吸わなくちゃ」

と言ってエヴァのライターを差し出す。


じゃーん!エヴァンゲリオンのライター

というシナリオを思い描いていたのに、委員長と答えてきたのだ。委員長からはまったくタバコの気配がしない。まずいぞ、軌道修正が必要だ。

住「委員長がタバコを吸ってたらどう? 逆に格好良くない? キャップ的な」
藤原「委員長は吸いません」

ピシャッと扉を閉ざされてしまった。藤原君のATフィールドは全開である。
仕方ない。次の作戦に移ろう。


山は動かない



セラピー3:古今東西

ここまでの反省から、自然な会話から喫煙へのディザイアを引き出すのは難しい事が分かった。方向性を変えて、ゲームで楽しんでいる間に喫煙を意識させる事にした。

住「じゃあ、古今東西やろうか」
藤原「あ、ええ」

住「いくよ。古今東西、大人になったら出来ること!」
住「じゃあ、藤原から。トントン!」
藤原「えっと、お酒、トントン」
住「タバコ、トントン」
藤原「うーん、選挙、トントン」
住「タバコ、トントン」
藤原「……」


タバコ、とんとん

藤原君が薄ら笑いを浮かべている事に気付き、一気に不安になった。

住「もしかして、俺のこと軽蔑してる?」
藤原「いえ…」

新幹線は静岡駅に到着した。
お腹が空いたので食事をとる事にした。


 

 
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