食後の一服
僕たちが乗っていた喫煙車両は最後尾だったので、車内販売がまわってくるまで結構時間がかかった。更に、お弁当も2つしか残っていない。好きなお弁当を選ぶ余地がないのだ。
これも喫煙車両のネガ要素であるが、藤原君に気付かれてはいけないので豪華な方のお弁当を藤原君にあげた。
タバコを吸う人なら必ず感じる至福の時。それが食後の一服である。会話やゲームでは突破口を見出せなかった。もうこうなったら理屈は抜きだ。食後の一服はうまい。説明抜きで推してみよう。
しかし、藤原君の興味はお弁当の中に入っていた里芋に集中していた。
ユニークな形をした里芋を何回も携帯で撮影している。「フィルターが仕立てた贅沢な時間」とか、そういう世界とは対極で遊んでいる。
ダメかもしれない。
ここで僕は折れそうになった。
食べ終わったのを見て、一応タバコを勧めてみたがさっきまでの反応と同じく、一切の興味を示してくれない。
それどころか鞄からプレイステーションを取り出してガンダムのゲームを始めてしまった。食後のガンダムである。
箱から一本飛び出す格好で目の前に置いてもダメだ。ゲームに夢中である。ゲーム画面にタバコを近づけたり、画面上で箱をシャカシャカやっても無駄であった。
藤原君はガンダムの世界に取り込まれてしまった。
新幹線はもうすぐ名古屋に到着だ。
ここで諦めてしまっても構わないのだが、名古屋と東岡崎に最後のチャンスが残されている。
働いた後の一服だ。