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ひらめきの月曜日
 
煮詰まったらどうなる
焦げつかないように湯煎で。対策はばっちり。


煮詰まっている。…いや、私もいろんな意味で煮詰まっているが、今回は私の話ではない。

例えば台所で鍋を火にかけたままテレビに夢中になっていて「あっ」と気がつくと、煮物が焦げる寸前だったりする。完全に煮詰まった汁。ぐずぐずに煮溶けた大根。ま、あれはあれでおいしいが。

煮込みと言えば聞こえはいいが、煮詰めと言えなくもない料理は味がグッと濃厚になって、うん。あれはあれでおいしいんだ。負け惜しみに聞こえるかい。

そこで今回は、いつも「うっかり」煮詰めてしまう物を積極的に煮詰めてみた。ものぐさ者の大義名分に聞こえたらご愛嬌。

高瀬 克子



 

まずは牛乳から

「牛乳を煮詰め続けると、なにか別の物が出来る」という話を聞いたのは随分前のことだ。それは“蘇”とか“醍醐”などと呼ばれるらしいのだが、実際に食べたこともなければ目にしたこともない。

とにかく長時間煮詰め続ければ、過去に見たことのないない物と対面できるという。さっそくやってみた。


ボウルに牛乳をどくどくと注いだら、
あとは煮詰まるのを待つだけ。

表面に膜が張らないように、せっせとかき混ぜながら約1時間。牛乳は一気にここまで減った。


激減。

量が減り、いくぶんトロみがついてきたもののまだ液体だ。…おかしい。聞いた話では牛乳が固形化してくるという話だったじゃないか。いつまで経っても固まるそぶりを見せないが、どういうことだろう。

まさか、良かれと思って講じた湯煎という手段が、悪い方に働いてしまったのだろうか。


普通の牛乳(左)と、1時間煮詰めたあと(右)

比較のために皿に乗せた牛乳は、とろみだけじゃなく、色がだいぶ茶色っぽくなっていた。そして、ものすごく乳臭い。「牛乳のいいところだけを抽出しました」という感じの見てくれだ。

ここで湯煎をやめようと思った。多少焦げてもいいから普通の鍋に移そう。そして煮詰め続けよう。そしたら固まってくれるかもしれない。

ボウルを湯の張った鍋から取り出そうとした時。
悲劇が起きた。


手がすべって、中味を湯煎してた鍋に水没させました。

この1時間が水泡に帰した瞬間である。

白濁するお湯。あっというまに薄まる牛乳。まさに「覆乳ボウルに返らず」だ。私の1時間を、鍋に付きっきりだった1時間を返せ。

しばらく呆然としてしまったが、ボウルに張り付いた物を見てなんとか気を取り直す。


結局、これがゴールなのでは?

そうだ。私にはフチに分厚くこびり付いた「蘇もどき」があるじゃないか。もしかしてあのまま煮詰め続けていたら、これが大量に出来ていたのかもしれないぞ。

さっそく、かき集めてみた。


見た目はチーズそのもの。

ほんの少しを口に入れただけで、牛乳の濃厚な香りが鼻を突き抜ける。まるで、甘くないミルキーだ。ちょっと塩分を足したら高級なチーズっぽくなるだろう。これはおいしい。しみじみとおいしい。

あのときボウルをひっくり返してなかったら…と思うと悔しくてたまらないが、まだまだ他に煮詰めたいものが待っている。残念だが、先を急ごう。

 

野菜ジュースはどうなる

野菜が十分に摂れなかった日など、これのお世話になることが多い。最近ではカレーを煮るときにも使っているが、果たして野菜ジュースのなれの果てはどんな姿になってしまうのだろうか。


まさか固まることはないと思いますが。

もう湯煎は懲りた。今回からは鍋でどんどん煮詰めていこうと思う。煮詰めを極める者が、焦げ付きを恐れていてはイカンのだ。


あっというまに沸騰して
あっというまに煮詰まります。

ああ、直火の素晴らしさよ。今回はスピーディーに20分ほどで水分がほとんど蒸発してしまった。牛乳もこうやって煮ればよかったとつくづく思う。

で、肝心の野菜ジュースだが、写真を見て分かるとおり、どこに出しても恥ずかしくないようなケチャップが完成した。高級感あふれるケチャップとでも言おうか。

これはあとでオムライスにでもかけて食べよう。

 

リンゴは?

次もジュースだ。そして果物だ。野菜ジュースがケチャップになるのなら、りんごジュースは果たして何に変化してくれるのだろうか。


果汁50%だそうです

温めた果物なんて食べたことがない。あ、いやアップルパイならあるな。…またリンゴだ。

もしかして、リンゴジュースを選んだのは深層心理の為せる業なのかもしれない。「リンゴならあったかくても大丈夫だよ」と、脳が指令を発していたのだ。


そんなことはさておき、煮詰め作業開始。
なんだこれは。

おや? という色の物が出来上がった。あんなに白くサラリとしたジュースが、すっかり褐色のトロトロした謎の物体に変化している。

これがジュースに加えられた砂糖のせいなのか、リンゴそのもののせいなのかはさっぱり分からないが、いずれにせよ大幅に見た目が変わった。


左が元の状態。右はポン酢じゃありませんよ。煮詰めたジュースですよ。
冷えたら固まりました。

この固まった元リンゴジュースは、飴のようになってしまった。甘いうえリンゴの酸味もある、おいしい飴だ。

ジュースがこれだけ変化するなら、次のコレなんてどうだろう。

 

ポカリスエットは?

ポカリを温めて飲んだことはないし飲もうと思ったこともないが、物は試しだ。ジュース関係がいい結果を出しているだけに、ちょっと気になるではないか。


何が残るの? イオン?

どんなに煮詰めてもサラサラのまま。
どんな味がするんだろう。

口にした瞬間に、口が開いた。つまりコップにベェーと戻してしまったのである。びっくりした。こんなマズイものが出来てしまうなんて思ってもいなかった。完全に想像の範疇を超えている。

すみません。図に乗りました。ポカリは何があっても温めてはいけません。冷やして飲みましょう。

 

味噌汁に手を出した

もうジュース類は懲りた。そろそろ、おかず部門に突入してもいい頃だろう。そこで味噌汁の登場だ。これほど「決して煮立ててはいけません」と言われている汁物もないが、実際にやってみたらどうなるのだろう。

しかも今回は「煮立てる」どころか「煮詰める」のだ。


出汁と味噌オンリー。
禁断の領域へ。

やってはいけないことを積極的にやっていると自覚しているだけに、なにやらドキドキする。

「ああ、こんなことになっちゃって、普段なら捨ててるな」と思ったところからが勝負だ。限界のその先にあるのは、果たしてどんな景色なのだろう。


限界の彼方に姿を現したのは、
出汁入りの味噌でした。

想像を絶するほどにしょっぱい。当たり前だ。水分が蒸発して、イヤというほど塩分が残っているのだ。これにお湯を注いだら、また味噌汁に戻ってしまうのだろうか。

いや、さすがにそれは飲みたくないな。

 

 

いろいろでした

最後の味噌汁で、遅ればせながら「煮詰めると作業は、水分が飛ぶことだ」という事実を実感できた。

これによって、グッとおいしくなる物もあればダメになる物もある。つまり、煮詰めていいものと悪いものがあるということだ。そんなの知ってるよ。ねえ。

でもまぁ、普段なら絶対に煮詰めようと思わないものの量がぐんぐん減っていくのを見るのは、ちょっと面白かったです。またやろうとは思いませんが。

味は、もろに豆腐の味噌汁でした

 


 
 
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