そんなエンジニアの大ちゃんのお父さんの趣味は天体観察だ。
大ちゃんの家には、ほかの友達が持っているような天体望遠鏡とはまるで違う、のぞくレンズが横に付いている、胴体がものすごく太い望遠鏡があった。
この太さが性能の違いなんだろうと僕は解釈した。
卒業式も近いある帰り道、大ちゃんからハレー彗星を見に行かないかと誘われた。
お父さんがあの望遠鏡で、僕たちにハレー彗星を見せてくれるというのだ。
テレビではハレー彗星大接近のニュースがさかんに流れていたけれど、僕の周りで実際に見た人はだれもいない。
それを見ることができるなんて、絶好のチャンスだ。
いま見逃せば、つぎは76年後。
1999年の恐怖の大王をなんとか切り抜けて生きていたとしても88歳のおじいちゃんだ。これが最後のハレー彗星かもしれない。
僕はもちろん行くよと答えて大ちゃんと別れた。
その日の夜、大ちゃんのお父さんから家に電話があった。
深夜に僕を連れだすことを確認する電話なのだろう。
話しが具体的になってきた。
どうやら僕は本当にハレー彗星が見られるようだ。 |