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ロマンの木曜日
 
オブジェの意味を推測する

中学生のころの素直な思いがこみあげる

人物像は何を意図しているのか?

新橋で女性の銅像を見かけた。

考えてみれば銅像だってかなり特異なもののはずだ。道端に女性が裸で立っている。改めていうが、裸だ。でも「銅像ってそうだよね」と自然に受け入れてしまう。それが置いてある意図も像そのものの意味もよく分からない。が受け入れてしまう。

あらためて見てみよう。この銅像は何を表現しようとしているんだろうか。ふたたび取材メモより。
・どう見ても脱いでいる途中だ
・中学生みたいにドキドキする
・周りにはマラソンの見物客がたくさんいて恥ずかしい

自身の中の葛藤で手一杯で、作品にせまる余裕がない。たぶんぼくが男だからだろう。女性はどう思うのか。知人に聞いてみた。
・「骨盤がゆがむ立ち方だ」(女性・Mさん)
・「寒そう」(女性・Fさん)

・・なるほど。女性はそこを見るのか。じゃなくて、もう少し作品の意図にせまる意見を聞いてみたい。
・「骨盤がゆがむと血行が悪くなって体がむくむ」(女性・Mさん)

この辺が限界のようだ。作品のタイトルを見てみよう。


蒼天。なんという晴れやかなタイトル。


高校生みたいに気持ちをモヤモヤさせておいて「蒼天」とは何ごとだろう。いや、勝手にモヤモヤしたのはこちらだが。 銅像鑑賞には邪念を捨てなければいけないのか。

 

 

六本木ヒルズの入口で待ち構える彼

見上げるとカゴのような何かが

六本木ヒルズ入口のオブジェはどうみてもクモだが

ここまで2戦2敗。ひとつくらい分かりやすいのを見ておこう。六本木ヒルズの入口のオブジェ。これはなんだろう。

というか、どう見てもクモだろう。それ以外には見えない。1ページめのイリアッドジャパンに比べてとても分かりやすい。となるとクモをここに置く意図が知りたくなる。再び取材メモより。
・すっかり待ち合わせ場所だ
・へんな袋がある。知らなかった。卵か?
・ほかに虫はいないようだ

となりにアリのオブジェでもあれば、ああ昆虫シリーズだなと分かるが、とつぜんクモである。その意図はなんだろうか。なんとかひねり出した答えはこうだ:

六本木ヒルズはクモのように巣をはってみなさんを待ち構えています

いやいやそんなはずはない。そんなはずはないが、しかし本当にそれしか思いつかなかったのだ。もうだめだ。答えをみてみよう。


「ママン」。お母さんか。


ネットで見つけた解説の要点は次のとおり。
・クモは知恵の象徴
・新たな知恵や価値がここで孵化することを願う

なるほど。やっぱりおなかにあったのは卵だったのだ。六本木ヒルズは価値という卵を孵化させるお母さんであると。いや、でも、分からないってそれ!書いてくれなきゃ絶対分からないって。

あまりの負けっぷりについに逆切れしてしまった。キレる大人である。

 


池袋西口公園にて


池袋西口公園の難敵と対峙する

オブジェの声を聞くこの不毛な旅、最後は池袋の芸術劇場前の黒いオブジェに行きついた。

さっきのクモともちがい、見た目からきっぱりと意味を拒絶する強敵である。しかも芸術劇場前。場所からは意味をしぼるきっかけも掴めない。さあこれはなんだろう。取材メモより抜粋してみる。
・抽象的な概念をあらわしてる?
・自由とか

近よってみる。くねくねと曲がりながら、それでもまっすぐに立って上にのびてゆく、そんなモチーフに見える。これはたぶん人の人生のことなんじゃないだろうか。悩みながら伸びてゆくみたいな。

よし、タイトルは「人生」にちがいない。答えを見てみよう。


答え:「Crescendo (成長、増加)」


・・・なんか微妙に外れた。



無理でした

オブジェの声を聞きたいなどと息巻いてはじめたものの、最後にはほとんどノックアウトされていた。結局、つぎのような結果だった。

・オブジェの意図はほとんど推測できないが
・たまにはかすることもある

一つのオブジェの前で10分くらいは考え抜いて、それでも分からないのだ。ふだん通り過ぎるだけではさぞかし分からないことだろう。そして意味不明であることに慣れてしまう。最後の西口公園の写真を見ると、人々はもはやだれもオブジェに注目していない。それがふつうだし、それくらいがちょうどいいのかな、と力なく思ってしまった。

 

 
 
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