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ロマンの木曜日
 
喫煙セラピー

ここ数年、右下の親不知の調子が悪い。疲れが溜まったり体調が悪かったりするとジクジク痛むのだ。ひどい時はその場にうずくまってしまうほど痛い。きっと抜いた方がいいのだろう。分かってはいるが痛みが消えると病院に行く気がなくなる。歯を抜くなんて怖くてたまらないのだ。とはいえ、このまま親不知を放置しても良い事はない。多分、悪化する一方だ。そのうちまた痛み始めるに決まっている。抜くしかないのだ。でも怖い。どうしよう?

新潟県の親不知まで行って親不知を抜くというのはどうだろうか。そこまで遠出すれば引き返す事も出来ないし、なんとなく縁起も良さそうだ。

 

(text by 住 正徳



新潟県親不知へ

新潟県の「親不知」とは、JR北陸線の親不知駅を中心に、青海・市振両駅の間約15キロに渡る地域の総称である。

なぜこの地が親不知と呼ばれるようになったのか? その由来には諸説あるらしいのだが、その中の一つが悲し過ぎる。平清盛の弟・頼盛が越後に転勤になり、それを追った夫人がこの地を訪れた時、誤って2歳の子供を波に奪われてしまった。悲嘆にくれた夫人が、

「親知らず
 子はこの浦の波まくら
 越路の磯のあわと消えゆく」

と歌を詠みそれが地名になった、という言い伝えである。歌を詠んでる場合じゃないほど悲しい話だ。

そんな親不知で親不知を抜くために、まずは東京から上越新幹線で越後湯沢を目指す。


Maxとき317号で東京から越後湯沢へ 親不知行きの切符

東京から1時間ちょっとで越後湯沢到着 特急はくたか号に乗り換える

東京は晴天だったのに越後湯沢に着くと小雪が舞っていた。たった1時間で東京とは寒さの質が違う。冬が本気だ。

ここで特急はくたか号に乗り換え糸魚川に向かう。


雪がどんどん深くなる

越後湯沢から糸魚川までの所要時間も1時間ちょっと。その間、トンネルが多く、それを抜ける度に雪が深くなっていく。車掌さんが車内アナウンスを噛んでばかりいて、僕の後ろにはずっと咳をしているおばさんがいる。そして、僕はこれから親不知を抜こうとしている。

ああ、不安でたまらない。


糸魚川駅到着


糸魚川で歯医者さんを調べる

午後1時過ぎ、糸魚川に到着した。ここから北陸本線で富山方面に向かうと2駅で親不知である。が、その前に糸魚川駅周辺で親不知地域の歯医者さんについて、交番で尋ねる事にした。事前に調べた情報によると、親不知駅は無人駅らしいのだ。親不知駅周辺で歯医者さんの情報を集めるのは厳しそうである。


駅前交番で歯医者を探す

駅前の交番に入ると、若くてかわいらしい婦警さんが心配そうに僕の顔をのぞきこんでくれた。

「痛むんですか?」
「いえ、今は大丈夫なんですけど、そのうち痛むので」
「じゃあ、今日じゃなくても?」
「いえ、明日の朝には東京に戻るので」
「え? 東京から来たんですか?」
「ええ、親不知を抜きに…」

親不知で親不知を抜く、という僕の意図はあまり伝わらなかったようであるが、とりあえず電話帳で調べてくれる事になった。すると、親不知のある糸魚川市内には20軒ほど歯医者さんがある事が分かった。そのうち厳密に親不知地域といえる場所で開業している歯医者さんは1軒だけ。青海駅前の歯医者さんである。

早速、婦警さんが電話をかけてくれた。


電話帳で検索

しかし、残念ながら青海駅前の歯医者さんは予約でいっぱいであった。急患であれば何とか受け付けると言ってくれているが、今は痛くないのだ。他の患者さんに迷惑をかけてはいけないので、残りの19軒のうち一番親不知地域に近い歯医者さんに電話をかけてもらう事にした。糸魚川と青海の間にある歯医者さんだ。親不知地域からは少し外れるが、オールモスト親不知と呼んでも過言ではない。


2軒目に電話をかける婦警さん

そして、2軒目の歯医者さんは15時半ならば大丈夫と言ってくれた。やった。これで、ほぼ親不知で親不知を抜く事が出来る。15時半に予約を入れ、婦警さんにお礼を告げて交番を出た。

歯医者さんが決まって一安心であるが、逆に歯を抜く恐怖感も高まっている。もう本当に引き返せないのだ。

落ち着かない気持ちを紛らすため、予約の時間まで糸魚川駅周辺を探索する事にした。





 

 
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