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ひらめきの月曜日
 
ドキュメント・生まれて初めて句会で自作の俳句を詠んだ
自作の句を書く。短冊を持つ手が震える。


いきなり『ドキュメント』と書いたが、当サイトの記事はほとんどがドキュメントである。だからわざわざドキュメントであることを記す必要はないのだが、ちょっと今回は『ドキュメント』とか『実録』とか名付けたいような出来事が起こった。

ライター暦5年、一向に文章がうまくなる気配のない不肖・梅田カズヒコがなんと俳句の会(つまり句会)に誘われてしまったのである。自作の句を発表して、皆で評価し合うあの句会にである。あのいかにも高貴な感じのする句会にである。

しかも、なんたることかその場のノリで「行くよ」と言ってしまった。これはまずい。ピンチである。

俳句なんて小学校の授業で何度か書かされた程度だ。子供の頃は文章の世界を生業にすると思ってなかったし、僕はそういうことは本当に苦手なのだ。今の僕を考えると、みんな信じないかもしれないが、僕は理数科だった。国語が一番の苦手教科だ。

「ライターさんだから、きっといい句が書けますよ。期待してます」

寒い季節なのに、なぜだか頬を汗が伝う。句会まであと6日。

(text by 梅田カズヒコ



SCENE1
11月某日
都内某所、取材の準備を始める男

別の仕事で、作家であり、古書店の店長である藤谷治さんにインタビューをしているときのことだった。藤谷さんは、集英社や小学館から10冊に及ぶ小説を出版されている作家だ。


藤谷さんの最新著『洗面器の音楽』は、とてもミステリアスな雰囲気が全編に漂う作品だ。面白い。

僕も趣味レベルで小説を書いている。ぜひ取材を通して藤谷さんと親しくなり、どうしたら小説を出版できるのか、そのあたりを聞いてみたいと思った。しかし、僕みたいな若手のライターを相手にするほど暇な人じゃなさそうだ。つまんないやつだと思われたらいやだなー。

そんな淡い期待と不安を抱いて取材に向かう。

すべてはここから始まった。

 

SCENE2
11月某日
下北沢の書店「fictiones」にて


写真奥、作家の藤谷治さん

藤谷「……ですから、私が書店をはじめたのは、この物件に惚れ込んだからです。下北沢は昔から愛着のある街でした。そのあとある編集者がお店を訪れてくれて、『店長さんも実は小説書くんじゃないですか』と言われたんです。それから作家としてデビューしまして…」

梅田「そうだったんですね。知りませんでした」


貫禄のある人だなー

取材を終えた僕は、藤谷さんにお礼を述べ、藤谷さんを紹介してくれた同行のライターと共に席をはずそうかと思ったときである。

同行のライター小川さん「梅田さんも、藤谷さん主催の句会に参加してみればいいんじゃない?」

梅田「クカイってなんですか?」

小川さん「藤谷さん、月に一回この書店で句会をやってるんですよ」

梅田「クカイ?」

小川さん「俳句の会、句会」

梅田「ああ、句会ですね。いや、俳句なんてやらないなー」

僕の人生の中で、『句会』という言葉を耳にしたのは久しぶりだったので、しばらくなんのことか分からなかった。

藤谷さん「参加は誰でもかまいませんよ」

俳句なんて小学生のときにいやいや宿題で書かされた以来、一度もやったことがない。そんな僕が、公衆の面前で自作の俳句を発表する。それだけではない、他人が詠んだ句を評価する。そんなこと出来るはずがない。失笑を買ってしまうのがオチである。しかも大先輩の小説家の前で恥をかくわけだ。藤谷さんに『こいつ、センスないな』とか思われるかもしれない。それはいやだ。できないことはやらないほうがいい。そう、やんわり断ろう。できないことはできません、と言おう。それが大人だ。うん、そうしよう。

梅田「いいですねー、句会。ぜひ、参加させてください」

ああ、オレのバカ。

 

SCENE3
11月某日〜29日
気が気でない男

同行のライターと別れた僕は、喫茶店で人生2度目ぐらいに俳句とやらを考えてみることにした。しかし、考えれば考えるほど、自分の頭の中には俳句を作る細胞なんて持ち合わせていないことを自覚するだけだった。


やべー、一個も思い浮かばない

こうして3日のときが無駄に過ぎていった。

 

SCENE4
11月30日
下北沢の喫茶店
俳句暦7年のライター小川さんを呼び出す

僕は俳句を作れない。それは俳句がなんであるかを知らないからではないかと考えた。俳句を作ること、それは俳句を理解する、ということと同義である。僕を句会に誘ったライターの小川さんは俳句暦7年のベテラン、様々な句会に顔を出した経歴の持ち主である。自分の不勉強を暴露するのはつらいが、背に腹は代えられない、というわけで小川さんに相談してみることにした。


ライターの小川たまかさん。フリーペーパー『L25』(リクルート)などで書いている。ライターの傍ら句会に顔を出す。江戸文化に詳しい。尊敬する俳人は宝井其角

まずは当てずっぽうに考えた5・7・5をぶつけてみることにした。


収納は あればあるほど 役に立つ

梅田「あるあるネタを5・7・5に落とし込んでみました」

小川「季語はどれですか?」

梅田「季語。ああ、季節を表す言葉ですね。えーっと…」

小川「俳句というものは季語を入れないとダメなんです。こんなの俳句じゃないですよ」

梅田「すみません。季語ですね」

小川さんは分厚い季語辞典を持ち歩いていた。それを貸してもらい10分ほど考えた。


おいしいな 家族揃って 栗ご飯

梅田「季語は栗ご飯です」

小川「栗ご飯は秋の季語です。今回の句会は12月に行われるので冬の季語を入れてください。それにこれは俳句じゃなくて、ただの感想ですよ」

梅田「自分の表現が稚拙だということは理解しているんですが…」

小川「梅田さんの人となりが分かるような句を書いてみてください」

冬の季語で考えてみた。


風邪引くよ そんな薄着で 出かけたら

梅田「語呂はいいんじゃないか、と。季語は風邪です。冬の季語」

小川「小学生の『学年だより』ですか!(笑)標語ですか!」

梅田「本当だ。学年だよりで小学生が書いているような句だ」

小川「ダメだ、この人ダメだ。どこから教えていけばいいのか分からない…」

梅田「僕の心配性な人となりが出ているか、と…」

小川さんはこの句が相当おかしかったようで笑いが止まらなくなってしまった。


あっはっは……「風邪引くよ」、あっはっは……。

しかしその後、恥をかいたおかげで俳句の最も初歩的なことを教えてもらった。

小川さんから学んだこと

・俳句は必ず季語が入る。この時期は冬の季語をどこかに入れること
・季節感を感じさせ、自分の生活が垣間見れるようなもの


最低限、これさえ抑えておけば俳句は作れるのだ。なるほど、そういうことか。俳句の世界でまったく歩けなかった僕はよちよち歩きを始めた。

取材中もひまさえあれば俳句を考えはじめた。

 

 
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