保冷バッグの中でゴソゴソと動き、握手を求めるようなポーズのまま、つぶらな瞳で私をじっと見つめている。か、かわいい。
グッとくると同時に、かなり動揺してしまった。私はこれからおまえを食べるんだよ。お願いだから、そんな目で見ないでおくれ…。
漁のあと、調理のために生きたままのカニをバッサバッサと大量に解体してきたばかりだというのに、いざカニと1対1になるとなぜか躊躇してしまう。手が出ない。
そして私はこの日、カニを食べなかった。
自分の軟弱さに腹がたつ。食べるって本来こういうことだろう。生き物はなんだって可愛いさ。いつも美味しいと言ってるばかりで、いざとなるとカニのひとつも処置できないのか。まったく情けない。
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