ラーメンを食べている最中にふと振り返っても、菅野美穂はじっと僕をみつめているのだ。読者の皆さんは、いやいや菅野美穂がみてるのは自分だから。と思うだろう。つまり、そういうことである。
看板が高い位置にあろうが倒れかけていようが、まず関係ない。これでは挑戦する意味がないので、ターゲットを立体の銅像にしぼることにした。
ところで、菅野美穂の看板の前で撮影をしていたら、よく行くそば屋のご主人が店先にでてぼくを眺めはじめた。たぶん出前にでるところだったのだが、顔見知りが道ばたに寝転がっていたので気になったらしい。正直かなり恥ずかしかったが、ここで動揺して隙をみせてはいけないと自分を戒めた。隙をつかれて話しかけられでもしたら、もっと困るのだ。
「櫻田さん、なにしてるんですか?」
「いやあ、看板の菅野美穂とあんまり目が合うもんで、写真に撮ってたんですよ」
「ああ、やっぱりそうでしたか。では、ごきげんよう」
「はい、ごきげんよう」
なるわけがない。
とにかく善良なご主人を変に困惑させてはいけない。慌てて起き上がったりして、なにか怪しいことをしていたのだと疑念を抱かせるのもよくない。
あくまで、「ぼくにとって看板の前で寝転がるっていうのはいたって普通の行為なわけだし、それはこれからもまったく変わらないわけだから」というスタンスをみせつける必要があると判断したぼくは、ご主人の熱い視線をひたすら無視しつづけたのだった。
看板とは目を合わせても知り合いとは目を合わせられない。業の深い企画である。 |