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フェティッシュの火曜日
 
自分の名前の町へ行く
大樹が山ほど登場しますよ


 「自分の名字と名前どっちが好き?」なんて聞かれた経験はないのだけど(「お父さんとお母さんどっちが好き?」あるいは「私と仕事どっちが大事なの!」に匹敵する難問だ)、勝手に決着を付けるとしたら、より愛着があるのは下の名前のほうだ。

 自己紹介するたびに「ダイジュって読むんだ!」なんてちょっとした驚きで迎えられるのは下の名前だし、同じ名前が珍しいのも名前のほうだ。

 そんな僕の名前「大樹」を、町を挙げて歓迎してくれる場所があると聞いた。そんなの歓迎して欲しいに決まってるじゃないか!取材にかこつけて、歓迎されに行ってきた。

(text by 石川 大樹



ここが大樹町

大樹さんいらっしゃい

 大樹を歓迎する取り組み、その名も「大樹さんいらっしゃい」は、北海道の大樹町が行っている。「大樹」の名前を持つ人が大樹町役場を訪ねると、歓迎のしるしに町長との面会のあと、町長のいすに座らせてもらえるそうだ。大樹町自体は「タイキ」と読むのだけれど、大樹さんの読み方はダイジュであろうと、ダイキであろうと、こだわらない。

 名前だけで歓迎されるなんて、どんな気持ちだろうか。大樹町のサイトを見てみると、大きないすに座って嬉しそうにしている子供の姿が見える。きっと彼の名前は大樹くんなのだろう。その名前のおかげでこんなに歓迎されていのだ。そして、僕も大樹くんだ。僕も!僕も歓迎されたい!

 

帯広から俺行き

一路北海道へ

 ということで、歓迎してもらいたい一心で北海道までやってきた。僕が大樹の波動を感じ始めたのは、大樹町行きのバスに乗り換えるため、帯広駅にやってきたときだ。大樹の聖地までもう少し。北海道の寒さのせいもあり、嫌でも気が引き締まる。

 そして大樹は、突然現れた。目に飛び込んできたのは、バス停の行き先表示に書かれた「大樹方面」の文字。それだけではない。窓口で乗車券を買ったら「大樹ゆき」。料金表にも「大樹」。それらを写真に収めながら、もちろん心の中ではひとつひとつに「はい!はい!」と返事をすることも忘れない。

 やがて大樹と書いたバスがやってきて、僕は乗り込む。これから目の前に現れるであろう楽園の予感にゾクゾクしながら。


バスも俺経由

 バスに揺られている間も、「大樹」の文字はあちこちに見られた。最初は道路の行き先表示に「大樹」があるだけだったが、次第に「大樹 ○○km」と距離の表示が加わるようになり、そのうちバス停にも大樹の名が入るようになる。土地の大樹濃度がどんどん上がっていく。こんなにも僕のことを考えてくれるなんて。そんな感動は勘違いだ、ただの地名だから、と頭ではわかっていつつも、気持ちは理性を置いて駆け出してしまう。


車窓から。あと18キロで俺
次は俺北1線

 そうしてバスに揺られること1時間半ちょっと。バスは目的地の大樹本町に着いた。大樹の本拠地に、なんてふさわしい名前のバス停だろう。


いよいよここが大樹の地だ

 

バスを降りて、まず目にしたもの。それは…

 

あふれる大樹。ここはまさしくエル・ド・ラドだ!!(画像クリックで神々しく輝きます)

 バス停を降りてまず目にしたのは、大樹町の町内案内図であった。

 すごい!すごいぞ!

 大樹町への上陸、ここはこの記事の山場なのでもっと気の利いた表現をしたいところだが、もうなんというか、圧倒されてしまって「すごい」しか言葉が出てこない。自分が遍在する街、大樹町。まさに町を挙げて歓迎、いや祝福されているような感じすらしてくる。楽園とはこのことか。


大樹郵便局を見つけて思わず躍り出る(クリックで輝きます)

大樹町の交通安全旗に思わず飛びつく(クリックで)

 

大樹町の宣言に思わず下からのぞき込む(クリック)
夢中だった

 自分の名前がいろんなところに書いてあるなんてきっと愉快だろうな。東京を出発する時からそう思ってはいたのだが、実際にそんな状況になってみるとこれがもう、予想以上の高揚感だ。神社も焼き肉屋も、郵便局も学校も、全部、俺。かといって「全部俺のもの!」といった独占欲からくる楽しさではない。それよりも、黄金の国、桃源郷、ユートピア、人類がいろんな名前で呼んできた楽園のひとつに、ついにたどり着いたという感じだ。そして今こうやって見聞録を書いていて、気分はさながらマルコ・ポーロだ。今でもあの日のことを思い出すと、ちょっと遠い目をしてしまう。

 



 

 
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