大樹さんの始まり
町役場を訪ねると、まず出迎えてくれたのは、
大樹町役場総務企画課企画グループの西尾さん。
軽い挨拶のあとミーティングスペースに通され、そこでプチインタビューを受ける。内容は「どうやって大樹町を知ったか」「大樹町にはいつまで滞在するのか」「大樹町の印象はどうですか」など。最初は西尾さんの質問に答えていたのだが、どうにもテンションが上がっている僕は、途中から質問攻めに入ってしまった。
西尾さんのお話によると、「大樹さんいらっしゃい」が始まったのは平成10年。開町70周年を迎えた大樹町が、なにかイベントをやろうということになった。そこで、当時「大樹」の名前が新生児名前ランキングの常連だったこともあり、大樹さんを集めてみてはどうか、ということになったのだそうだ。
最初は全国30紙の新聞に呼びかけ、47都道府県から2000人もの応募があったという。当時は松本零士さんデザインの特別住民票も発行し、また大樹町にある温泉の入泉券を配布するなどして、町の知名度向上につなげていたそうだ。
それぞれの「大樹」
一通りお話を聞いた後、一冊の冊子をいただいた。「大樹さんエピソード集」というこの冊子、当初集まった2000人の大樹さんたちの手紙を1冊にまとめたものだ。ページをめくると、自分と同名の土地に出会った驚きと喜び、名前に対する愛着や、名前に込めた思いなど、「大樹」の2文字に対する様々な思いが140ページほどの冊子の中にびっしりと綴られている。
ひとたび本を開くと、全国に散らばっている同名の人たちに、思いを馳せずにはいられない。細かい読み方の差はあれど、彼らはみんな僕と同じ漢字の名前を持って、同じように呼ばれて育ったのだ。僕と同じように、小学校では難しい樹の字を覚えるまで「大じゅ」「大き」で通していただろう。初対面のひとに名前を読まれるときいつも半疑問系なのも同じだろうし、樹の字の真ん中の複雑な部分をグニャグニャっと一筆書きでうまく書く方法も知っているはずだ。
そんな共通点を持ちながらも、大勢の大樹さんはみんな違った土地、環境で、ちがう「大樹」として育った。それが、どうにも感慨深いことのように思えてくる。会ったこともない人たちだけれども、他人事とも思えない。ちょっと大げさかもしれないけれども、まるで生き別れた兄弟が見つかったみたいな、そんな変な気分になってくる。 |