唐突だがひょんなことからリヤカーが手に入った。
街中で見かけることはあったが、実際手元にやってくるとどうやって使ったらいいのかよくわからない。特に運ばなければいなけない重い荷物がないからだ。
普段あまりなじみのないリヤカーだったが、使ってみたい。そして積極的にリヤカーになじんでみたい。
(text by 藤原 浩一)
現実のリヤカーを手にして
リヤカーなのかリアカーなのか分からないくらい縁遠い存在だったものが目の前にある。(調べたら字引き的にはリヤカーのようだ。)
この度手に入れたリヤカーは荷物を載せるところは一畳くらいあって結構大きい。立てたら身長はゆうに超えるだろうな、と思って立てようとしたら重くて立ち上がらなかった。鉄製のフレームの重みだろう。
大きいです
まずなにも載せないで歩いてみた。人力車を動かし始めるときみたいなイメージがあって、ぐっと力を入れないと動かないのかと思ったらそうでもなかった。こんなに大きいのに力がいらないなんて車輪は凄い。
旋回しようとするときもスムーズだ。リヤカーを見るたびに「どうして車輪が2つなんだろう」と思っていたが、4つついていたらこの旋回はできないだろう。
くるくるまわる
以上がリヤカーに初めて触れた印象。そういえば車輪が2つの軽車両という点で自転車と同じだ。リヤカーは僕が感じていた以上に身近な存在なのかもしれない。
リヤカーで布団を運ぶ
普段持ち運ぶようなかばんなどは、わざわざリヤカーで運ぶ必要はあるまい。リヤカーは、手で運ぶには面倒な重い荷物やたくさんの荷物を運ぶのに便利な道具なはずだ。
じゃあこんなのはどうだろうか。
ぴったりだった布団
布団だ。以前にライターの小野さんが「布団で睡眠エブリウェア」という記事で布団がどこにでもあることの素晴らしさを語っていらっしゃった。
その際に欠点として「布団を持ち運ぶのは面倒」というのを挙げていたのだが、リヤカーならその点は克服できる。布団の重さを感じずに持ち運ぶことができるからだ。良い場所を探して歩き始めてみた。
力を入れる
なんだか落ち着かない。布団があればどこでも眠れるとは言え、歩道や車道で停車させるわけにはいかない。危ないし。
道端に急にリヤカーを止めると邪魔になると思ったら、自然と視線は公園や店の駐車場にいってしまう。
一刻も早く落ち着きたかったのと、おなかがすいたのを理由に、とりあえずマクドナルドで一休みすることにした。
…は無理なので駐車
そう言えばリヤカーは駐車場と駐輪場のどちらに止めたらいいのか分からなかった。道路交通法だとリヤカーは軽車両なので自転車の仲間なのだが、大きさで言うと自動車に近い。
抽象的なタイプ分けより物理的な分類の方が現実に即しているかなと思いここでは駐車場に止めた。
カギは自転車のやつ
せっかくなので持ち帰りにしてリヤカーの車上で食べた。日差しが暖かくて気持ちがいい。食べ終わるとすっかり眠くなった。
今だ、と思った。そのまま布団にもぐりこむ。
すぐ寝た
寝るときにシーソーのように反対側に倒れた。どうやら上半身の方へ倒れこんでしまうようだ。ちょっとやばいと感じたが、はじめから頭の方に倒しておけば問題ない。
坂のようにあたまの方に傾いているが、そこまで寝づらいというわけでもない。
圧倒的な日差しの気持ちよさに、そのまましばらくねむってしまいそうになる。リヤカーの上だというのを忘れて。なんというか、ちょっとしたキャンピングカーと言えるかもしれない。
でも寝ている間に知らない場所に連れてかれていることがありそうなので危険だ。
起きたら違う場所だったりして
リヤカーでだらだらを運ぶ
リアカーの上で寝た。リヤカーに馴染んだといえば馴染んだと言えるかもしれない。だが、ただ単に暖かい日差しと布団の気持ちよさにリヤカーの存在が霞んだともいえる。
仮設自室
僕の部屋を再現するようなモノをリヤカーに載せてみた。テレビとファンヒータとマンガとパソコンとゲーム機。
これらに囲まれていると、自分の部屋って言う感じがして安心する。安心を外へ運ぶことができるのだ、リヤカーで。これなら馴染める。
これは
冗談で「部屋の中のもの持ち出しちゃったりなんかしちゃったりして」なんてやってみたら、なんだか本来のリヤカーの使い方みたいな写真が撮れた気がする。廃品回収だ。
ゴミ捨て場の横をとおるとやばい。そうじゃないそうじゃない、と思いながら公園までやってくる。
危うしリヤカー
入口のところで引っかかった。最初に説明した小回りの良さは役に立たなかった。
が見知らぬおじさんに助けてもらった。
公園の別の入口を眺めたら間隔が広かったので出るときは向こうだな、と思いながら見知らぬおじさんと力を合わせて入園。
ありがとうおじさん
ベンチの付近までリヤカーを移動させて、リヤカー上の仮想自室に寝転がる。
やはりテレビと暖房の間に挟まれ、パソコンが顔の前にあるとたとえリヤカーの上でも我が家のようだ。ごちゃごちゃして窮屈な感じも自室っぽい。
咲きかけの桜の下で気分は上々だ。
もう少ししたらまた来よう
自室のようにごろーんとしていたら、公園の遊具の検査をしていたと思しきお巡りさんが僕の方をちらちらみていることに気がついたので、いやな予感がして退散してしまった。心はぽっきりと折れた。
気づく前
やはりなじみのない車
リヤカーはいい車なのに、町中を歩いているとドキドキしてしまう。それは最初から最後までそうだった。載せているものが布団やテレビだったからというのもありそうだが、そうでなくてもドキドキしただろう。
僕がリヤカーになじんでいないのではなく、リヤカーが社会になじんでいないのだ。かつて自動車が普及する以前は、リヤカーは日本で大活躍していたようだが。
現在中国をはじめとするアジア諸国やアフリカでは結構浸透しているようなので、いつか外国でリヤカーに挑戦してみたいと思う。