宇宙航空研究開発研究所のスペース食品開発部という、一般人にはまったく縁のないところに努めている高校時代の同級生と、新橋の居酒屋でばったり再会した。彼は土井宇宙飛行士らをのせたスペースシャトル「エンデバー号」に持ち込まれた宇宙食の開発を担当したのだという。
宇宙食、かっこいい。「私にも宇宙食をくれないか」と無茶なお願いをしたら、酒の勢いもあってか、「国家機密だけれど、そんなの関係ね〜」と、彼のアタッシュケースに入っていた実用化前のサンプル品をくれた。
(玉置 豊)
宇宙食、「サカナール」
彼にもらった宇宙食は「サカナール」というコードネームで呼ばれており、その名の通り、鮮魚状態の「魚になる」宇宙食なのだという。
大きさは10センチ足らず。魚のミイラにしか見えないのだが、本当に宇宙食なのだろうか。
今の宇宙食の主流は、そのまま食べられるチューブタイプなのだが、これだと長期間食べ続けるとやっぱり飽きてしまうので、肉や魚や野菜といった、料理の素材になるタイプの宇宙食開発が進んでいるのだそうだ。ちなみにこのタイプは宇宙食ではなく、宇宙食材と呼ぶのが正しいらしい。
「料理をして食べる」という一連の流れが、孤独な宇宙での生活に潤いを与えるのだという。
鮮魚状態に戻してみる
このサカナールを鮮魚状態に戻す方法は、セットでついてくるトレハロースやコラーゲンなどが入った特別な水溶液に浸して、8時間ほど待てばいいらしい。
この「特別な水溶液で戻す」という技術が開発されたことで、宇宙食材は飛躍的に進歩したのだという。
8時間後、容器の中を覗くと、カピカピだったサカナールが何倍にも膨らんでいた。予想以上の膨張率である。
しかも驚くことに、この魚、生きているのだ。ギョギョ!
サカナールの正体
水溶液からピクピクと動くサカナールを引き出してみると、みたことのない魚だった。宇宙っぽいといえば宇宙っぽいビジュアルである。昨日までカラッカラだったのに、今では口やヒレがピクピク動くのがすごい。
これをくれた友人に電話で聞いたところ、このサカナールの正体は、最近発見された新種の深海魚で、すごい水圧がかかっている深海で生活しているためか、細胞の伸縮率、生命力が普通の魚の数十倍もあるらしい。
深海ではもともと最初の乾いた状態くらいの大きさで泳いでおり、深海で生きたまま特別な装置を使ってフリーズドライにすることで、サカナールができあがる。
それを圧力のかかっていない状態で戻すため、元より何倍もの大きさになるらしい。宇宙で戻した場合、さらに一回り大きくなるそうだ。
美味しかったです
友人から「地球上だったら、普通に網で焼いて食べればいい」といわれていたので、その通りに焼いてみたら、ちょっと身が柔らかいけれど、脂っ気もあってなかなか美味しい味だった。
宇宙でこれをどう料理するのかが、今後の課題なのだそうだ。