デイリーポータルZロゴ
このサイトについて


フェティッシュの火曜日
 
職人が作るコンセント

全く意外な町にありました

大量生産されている工業製品はほとんどが自動で作られている。しかし一部の部品、精度が要求されるものについては人の手によって作られ続けている。

トランペットのピストン、スポーツカーのエンジンに使われるバルブ、どれも製造時に微妙な調整が必要になる。それができるのは人だけだ。

実はコンセントも人の手で作られている。もちろん一般の家庭用のものは大量生産されたものだが、一部の特殊な電気製品に使われているものはいまでもハンドメイドなのだ。

コンセント職人の匠の技を紹介したい。(林 雄司




東和コンセントさん

これがコンセントを作る装置。この装置を作る会社自体がもう数少ないという。

下町が誇る世界の技術

事前にもらった住所にあったのはプレハブの一見、小屋風の建物である。小屋風というか、小屋だ。ここに世界に誇るコンセント技術があるのだろうか。

入り口にいた女性に聞くと確かにここが東和コンセントだという。ちなみに表札には和田と書いてあった。工場長の名前だろうか。

取材である旨を伝えると奥の作業場に案内された。思ったよりも静かだ。がーん、がーん、という金属の音ではなく、シューっという音が響いている。

金属工業ではなく、お菓子工場だと言われれば信じてしまうかもしれない。しかし奥にあったのはお菓子を作るとは思えない装置だった。

金属が粘土のように形を変える

ひとりの男性が大きな装置に向かっていた。集中しているようなので話しかけずにしばらく見せていただくことにした(正確には話しかけるタイミングを逸して突っ立っていました)。

あの大きな装置がコンセントを作る装置らしい。中央で白いドラムが高速で回転している。

ただの金属の棒が15秒ほどでコンセントになる。金属が粘土のように変化してゆく。すごい!

回転するドラムのあいだに金属の棒を入れる
みるみるうちに金属は薄くなる
このかたちは、コンセント!穴もいつのまに!
取っ手部分をつけるところは高速すぎてうまく撮れませんでした。

できあがったコンセントを誇らしげに眺める和田さん

丸みがありつつ、角のしっかりした研磨。芸術の域だろう。

NASAが頼みに来る

作業が一段落してコンセントを作っていた男性にお話を伺うことができた。このかたがコンセント職人であり、ここの工場長、そして表札の主である和田さんだ。

−−−いま作っているコンセントは

「アメリカのロケットに乗せるやつだよ、なんだっけ、ほら、あ、NASAだ。あそこはうるさいんだよ、ロケットって電源が限られてるだろう。だからすべての部品で電気のロスが少なくなるようにしているんだ」

−−−作り方で電気のロスは違うんですか?

「第一は素材だね。それで90%は決まる。だけど残り10%は磨きにかかっている。」

磨きの方法について教えてもらったが正直、よくわからなかった。ただ和田さんはもともと刀鍛冶であり、かつての刀狩りで仕事を失ったときにこのコンセント製造に出会ったという。日本刀の技術が生きているのだと思うとそりゃNASAも飛びつくだろう。

−−−きれいなコンセントは感電しないって本当ですか?

「ははは。感電しないわけないよ。ただ、痛くない。感電したときの痛みはノイズなんだ。抵抗が少なくきれいに流れている電気は感電しても痛くない。きれいに研いである包丁で指を切るよりも、紙で切ったほうが痛いだろう。それといっしょだよ」

さすが元刀鍛冶の発言である。最後に写真をお願いしたところ、作業服ではなく着替えたいとのことで左の写真になった。和田さんの右奥にあるランプももちろん自身で作ったコンセントがついている。

「明かりのやわらかさが違うんだ」
と満足げであった。

差してわかるすごさ

できたてのコンセントをひとついただいた。差してみるとスムーズさが違う。スムーズにささり、奥でカチリというしっかりとした手応えを感じて止まる。

抜くときがすばらしい。コードをいたずらに引っ張っても全く抜ける気配がない。なにもロックしてないにもかかわらず、だ。だけどコードの根元をもってひっぱるとたやすく抜ける。「カチッ」という精密機械のような音が心地よい。

コードを引っ張っても全く抜けない
根元を持つと簡単に抜ける。穴が驚いてるように見えるのは筆者だけだろうか。

見えないところにこそ贅沢を

手作りのコンセントはNASAのほか、スーパーカミオカンデなどの実験施設で使われている。世界の科学技術をこの手作りのコンセントが担っているのだ。人に優しい科学だなんて手垢のついたキャッチフレーズだが、もともと科学は人の手に拠るものだったのだ。

鏡のように光るコンセント

コンセントとそれを支える人たちに触れて、がらにもなくそう思ってしまった。ところでNASAのスペースシャトルのなかもこのプラグの形なんだろうか。気になる。

この記事はエイプリルフール企画のために作ったうその記事です

 

 
Ad by DailyPortalZ
 

▲トップに戻る バックナンバーいちらんへ

個人情報保護ポリシー
© DailyPortalZ Inc. All Rights Reserved.