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ひらめきの月曜日
 
「ぢゃんぼ餅」はジャンボじゃなかった


どんな餅なのか想像もつきません。

地方へ出かけるたびに「なにか記事になりそうなネタはないか」と思う。事前に調べてから出掛けるべきなのだろうが、旅行前のバタバタで下調べが十分でないまま出掛けることの方が多い。

先日、鹿児島に行ったことは先週の記事に書いた。

「せっかく鹿児島まで来たのだ。なにか面白いものがあるハズだ」と気持ちだけは焦るものの、なかなかグッとくる物に出会えないまま淡々と観光を続ける私の前に、その貼り紙はいきなり現れた。

──ぢゃんぼ餅。初めて聞く名だ。その名の通り、巨大な餅、ということなのだろうか。

確かめて来ました。

高瀬 克子



観光中にバッタリ

この日はNHKの大河ドラマ「篤姫」のロケ地にもなった「仙巌園」という庭園をのんびりと観光中であった。

1658年に島津家の別邸として建てられ、維新後は本邸としても使用されたという由緒ある建物は、見てるだけで「おお…」とため息が漏れるほどに立派だ。


この建物からの眺めが、また素晴らしい。
正面に桜島がドーン! これ以上の借景はないだろう。

ドラマを毎週楽しみに見ているので「ここがドラマで使用されました」という案内に出くわすたびに「ほほう」と足を止めて見入ってしまう。


これはドラマ用に作られた物のようです。

そういえば、登場人物が屋外で何か食べているシーンがあったような。そうか、ここだったか。


そこに、見慣れない言葉が。
ん? ぢゃんぼ餅?

右の「ふくれ」ってのも気になるが、それより断然「ぢゃんぼ」の方が謎だ。でもこの時点では「時代劇の中だけの話かも。今はもう食べられていないのかも」と、興味はあまり湧かないままであった。

が、ちゃんと売られていたのである。ぢゃんぼ餅が。


園内に売り場があった。
看板に由来も書かれていた。

要約するとこうだ。

小さな餅に二本の串を差した物で、語源は「両棒」。両は中国語で「りゃん」と言うが、それが訛って「ぢゃん」となり、ぢゃんぼ餅となった。

なるほど、大きいことを指すジャンボではなかったようである。謎はあっさりと解かれたが、余所ではまずお目にかかれない食べ物なことは確かだ。

せっかくここまで来たのだ。どんなものかと注文してみたところ…。


醤油だれ、味噌だれが3本ずつで300円。見た目が大変に可愛らしい。

食べてみると、どちらも甘辛い。醤油の方は、みたらし団子のような味付けであった。味噌は味噌でコッテリとした甘さだ。


餅がものすごく柔らか。
そして、なるほど串が二本ずつ刺さっている。

健康に配慮した「甘さ控えめ」に慣れているせいか、だいぶ甘みが強いように感じられる。しかし、これは普段から私が甘い物を食べ慣れていないせいだろう。

「そういえば、ライターの工藤さんが鹿児島の醤油は甘いという記事を書いていたな」とぼんやり思い出す。

 

ぢゃんぼ、林立

この時点では、まだぢゃんぼ餅で記事を1本書く気にはなれないでいた。なにしろ、鹿児島市内で他に目にしていないのだ。「この庭園だけにしかない名物です」ではさすがにちょっと記事にしずらい。(入園料千円)

そこで、園内の人に話を聞いてみることにした。

──ここ以外に、ぢゃんぼ餅が食べられる所ってあるんですか?

すると係の人は「ここを出たらあそこの道を行ってしばらくすると、たくさんありますよー」と丁寧に場所を教えてくれた。


教わった方向に歩いて行くと、確かにぢゃんぼ餅屋がたくさんあった。こんなにあるとは思わなかった。
大きな看板まであります。
ここは貼り紙でアピール。
すぐ後ろは海水浴場。

庭園から5分も歩いただろうか。

たしかにそこは、ぢゃんぼだらけであった。狭い道の両側に、ぢゃんぼ餅を売る店がズラリと並んでいる。ぢゃんぼストリートと呼びたくなるくらいだ。


この看板の矢印が指し示すのは、
普通の民家。
さらに矢印に沿って進むと、人んち感溢れる車庫へ。
奥が店舗と思われますが、この日は臨時休業。残念。
ここも民家っぽい店構え。
店の形態は、それぞれ違います。

歩きながら「お、ここもぢゃんぼだ」「こっちもぢゃんぼだ」と一人ごちていると、自然と顔が弛む。これほど「ぢゃんぼ」という言葉を使ったのは、ケニアを訪れた時以来だ。(スワヒリ語でジャンボは「こんにちは」の意味)

大量のぢゃんぼという文字を前に、ちゃんと1本の記事にすることを決意、取材を続行することにする。


 

 
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