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はっけんの水曜日
 
落とし物プロファイリング
表参道駅に落ちてたキャラクター。塗り壁の子供か?


 落とし物の写真を撮るのが好きで、道ばたに物が落ちていると必ず撮影するようにしている。

落とし物の種類は様々だ。靴や服、メガネ、食べ物。色々なものが落ちている。

 落とし物の種類が様々なら、それがそこに落とされた理由も様々に違いない。ウッカリ落としたのか、それとも半ば故意に落とされたのか。

悲しい物語や人生の悲喜こもごもが詰まっているに違いない。違いないのだ。

今日はそんな落とし物の裏側を勝手にプロファイルしたいと思います。

(text by 松本 圭司

新しそうな革靴。これを無くした半田さんはきっと奥さんに怒られたはずだ。可哀想に。

■一番多いのは靴だ

 道に落ちている物で一番多いのは靴だと思う。冬の間は手袋もよく落ちているが、靴は年間を通してよく落ちている。

 半分くらいが革靴で、残りがスニーカーと言ったところだろうか。 例えば左の写真に写っている革靴なんかが代表例だ。

これはきっとこんな理由でそこにあるのだろう。

 この靴の持ち主、半田良夫(45)はその日、酒を飲み過ぎてしまった。酩酊する良夫はなんとか家にたどり着き、土間で靴を脱ぎ、我が家に上がった。

と、思いこんでたのは実は道ばた。我が家と植え込みを間違えて靴を脱いでしまったのだ。

 しかし良夫はそれにすぐ気付いた。「あぁうぁ、ここ、おれんちじゃねぇ・・・・」。一瞬覚醒した良夫の意識は彼を本当に家に向かわせ、しかし脱いだ靴は記憶から消してしまった。

こうしてこの靴はここにあるのだ。

 

靴が揃えられているとなんだか不安になるね。

■揃えて置かれた靴は怖い

 無造作に脱ぎ捨てられた風情の靴も多いが、揃って置かれた靴も多い。

 外回りの営業に疲れた吉村佐助(32)。靴はくたびれ、彼の心も疲弊しきっていた。吉村は元々営業畑の人間ではなく、去年まで9年間、開発部に所属していた。

 口べたな吉村は、自分が営業に向いていないことを自覚していた。だから、今日、決めた。「辞める」と。彼は辞表を提出し、静止を振り切り会社を飛び出した。自由になった!

 自動販売機で缶コーヒーを買い、植え込みの横に座って飲んだ。ふと下を見ると、ボロボロになった革靴が目に入った。吉村はその靴を脱ぎ、「お疲れさん」と声を掛け、靴を脱ぎ捨ててその場を立ち去った。

こうして革靴は植え込みの脇に置かれたのだ。

 

表参道で見つけたビーチサンダル。なぜここに、今。

まだ寒いのにビーチサンダル

 季節外れや場違いというのも落とし物によくあるパターンだ。左の写真は表参道の道ばたで、つい先日見つけた黄色のビーチサンダルだ。これを読み解いてみよう。

 屋代アキは愛されボディのピチピチ19(ナインティーン)ガール。アキはアキという名前だが、自分の名前がなんだか地味で嫌いだった。

 アキは夏が好きだったから、どうせならナツって名前にしてくれたら良かったのにと、母親のサワコに言ったことがある。そのたびにサワコは、ゴメンねと笑いながら答えた。

 以上がアキの名前に対する意識だが、やはり夏が好きなアキは、格好だけでもと、一年中夏みたいな格好をしていた。

 真冬でも、どんなに厚着しても七分袖のコートに短パン(B'zみたいなやつ)。そして足もとはビーサンだった。

長くなったので後半でまた書くことにしよう。

 

雪山で見つけた子供の靴。一見すると怖い。

■子供の靴もよく落ちているが

 大人の靴もよく落ちているが、子供の靴もわりとよく落ちている。だっこやベビーカー使用の際、小さいから落としてしまうのだろう。しかし落ちている場所が雪山だとしたら。嫌な想像が頭をかすめてしまうのだ。

 藤原優香(5)は当然のようにサンタクロースを信じていた。しかし、優香の親はそんな子供のロマンに興味のない実利的な大人だった。だから優香には早々にサンタクロースの不在を教えてあった。

サンタってのは大体どこのご家庭でも、父親がその任に当たっているのだと。

 しかし優香は信じなかった。パパとママはウソをついている。一途にそう信じた女児の信念は、彼女を雪山に登らせた。雪があるところにサンタさんはいる、そう信じていたのだ。

 優香は、大人でも困難な道のりを進み、力尽きた。その力尽きる直前、一筋の光が見えた。優香はそれをサンタさんだと確信した。

 靴を脱ぎ、「サンタさん、優香の靴にプレゼントをお願いします」と、小さな手をいっぱいに伸ばして、ウンショと木の上に乗せた。

 手に温かい感触が触り、パパの匂いがしたような気がした。どうしてサンタさんが来たのにパパと同じ匂いがするのだろう?優香は薄れゆく意識の中で不思議に思った。

 優香が目を覚ますと、そこは真っ白な部屋で、両親がベッドの横で泣いていた。父親の浩介は「よかった、助かってよかった」と優香を抱きしめて泣いた。

その時に優香は理解した。ああ、やっぱりサンタさんはパパだったんだ、と。パパの言ってた事は本当だったと。

アキの話より長くなったが、こういう理由で赤い子供靴は雪山に残されたのだ。

 

大胆な歩幅が好印象な落とし物。これは良い。

■色々あるが、やはり王道は革靴なんだな

 アキのビーサン、優香の子供靴を紹介したが、やはりなぜか一番多いのが革靴だ。

 左の写真は、飲んで帰りが遅くなって電車が無くなり、東京駅から浦安まで15kmほど歩いて帰る途中(夜中歩くのが好きなので)に見つけた革靴だ。

 革靴という点ではありふれているのだが、なんと言ってもこの歩幅が魅力といえる。この躍動感はなかなか無い。

 中川カイジはこの日機嫌が良かった。勝ったのだ。大いに勝ったのだ。ざわっ、ざわっ、勝負中にずっと聞こえた心のざわめきも、今はすっかり消え去っていた。

 中川は深夜の帰り道、周りに人がいないことに気付くと喜びを抑えきれなくなった。そしてその高ぶりはスキップとなって行動に表れた。スキップスキップ、ランランルー。スキップは楽しい。心がどんどん弾む。

 その勢いが頂点に達した時、靴は両方いっぺんに脱げた。スポーン!と脱げ散った。それでも中川の喜び爆発とスキップは止まらず、いや、止められず、ただそこに靴だけが大きな歩幅で残ったのだ。

これは、中川の喜びの痕跡である。

 よく恐竜の足跡の化石とかあるけど、大体あれと同じ様なものだ。この歩幅からなにを読み取るか。それは見る物の妄想スキルに掛かっている。キミならどう読む?

 

ビニール袋に入った細いタケノコの様な物。

■次は食べ物だ

 靴の次に多い落とし物は食べ物なんじゃないかと思う。これは花見で公園に行った時、公園の入り口に落ちていた物だ。一体どういう訳でそこにあるのか?

 政恵は花見が嫌いだったから、賑わう公園を完全にスルーして家路を急いでいた。スーパーでの特売戦争を終えて戦利品を両手に抱えていた。

 そう、これは花見客の落とし物ではなく、スーパーで普通に買われたものが落ちていたのだ。それは調理されていない見た目からも一目瞭然といえる。

 政恵が公園の入り口に差し掛かった時、フラフラと自分に向かって歩いてくる人影が視界の隅に映った。避けるだろう、そうたかをくくった政恵の予想を裏切り、フラフラ人間は政恵にぶつかってきた。

 その拍子に件のタケノコは買い物袋(エコバッグ)から落ちて植え込みの下に入った。

「どこ見てんのよ!危ないじゃない!!」政恵はぶつかってきた相手を怒鳴りつけた。

 ぶつかってきた相手は小沢健太(21)という学生だった。これをキッカケに、後に政恵と健太は駆け落ちを果たすことになるがそれは別の話である。

 植え込みの下に入ったタケノコに政恵は気付かず、回収されなかった。その5分後、花見客が連れてきた犬が植え込みからこの袋を引っ張り出し、日の当たる落とし物となったのだ。

そういういきさつで、タケノコはそこに落ちていたのだ。

 

割られただけで食べられていないおにぎり。

■割れたおにぎりはなぜここに?

 菅山洋介(16)は腹が減っていた。急いで家に帰れば、妹からのメールに書いてあったとおり母親の作ったハンバーグが彼の胃袋を待っていた。

 しかし思春期の食欲は家までの1時間を待ちきれなかった。コンビニでおにぎりを買ったのだ。

 包装を開けるのももどかしく、バリバリとおにぎりの包みを破って、さぁ食べようと口を開けた時。洋介は自分の帰りを待っている母親のことを想像した。

 母親は自分を待っていてくれているのに、自分だけおにぎりを食べるなんて事が許されるだろうか。

 お代わり頼んだ時の母親(慶子)の嬉しそうな顔を思い出し、おにぎりを食べた上におかわりが出来るだろうかと考えた。今日に限っておかわりをしないと、心配されるんじゃないだろうか。

 手に持ったおにぎりを口から離し、食欲と母への気持ちの折り合いを付けるべく洋介は決断した。「よし、おにぎりの具だけ食べよう」。洋介はおにぎりの大部分を残し、道ばたに捨てた。「ハトが食べるに違いない」。

 洋介が急いで帰ると、母と妹は自分を待たずにハンバーグを食べ終わっていて、二人でケーキを食べながら小島ヨシオを見て笑っていた。

こうして少年は母の元を巣立つのだ。

 

ビーフジャーキー、おにぎり3個、ジュース3パック、ビックリマンチョコ。

■大量の食べ物はなぜここに?

 ある日、浦安駅の裏に大量に落ちていた食べ物。近くに西友があるのでそこで買った物、あるいは盗まれた物かと思ったのだが。

 篠田はUFO研究家。日々宇宙人を呼び寄せる方法を考えていた。その篠田が長年の研究から編み出した宇宙人寄せのエサが左の写真だ。これは乱雑にまき散らされたエサなのだ。

 宇宙人はビーフジャーキーが好き。桃のジュースも好き。おにぎりはシーチキンこそ至高と思っている。そんな事まで判ってしまう篠田だった。

 そのエサに興味を示し、写真を撮っていた男を篠田は見逃さなかった。ヤツこそ宇宙人に違いない。そう確信した篠田は男を遠くから隠し撮りしていた。

 しかし残念な事に、男はエサを食べようとはしなかった。警戒していたのだろう。篠田はその男を宇宙人認定し、宇宙人アルバムにその写真を貼り付けた。

写真を撮ってた宇宙人ってのは僕の事だ。

 

電柱に寄り添うネギ。

■電柱に寄り添うネギ

 風見豊はバイクが好きな男だった。暇さえあればバイクのチューンナップにいそしんでいた。口癖は、「よろしくチューンナップ」だった。

 風見はバイクも好きだったが、同時にネギも好きだった。日本全国のネギを食べ歩き、日本唯一のネギブログを運営していた。バイク乗りであり、ネギ界のカリスマだった。

 なぜ全ての表現が過去形なのかというと、風見は事故で死んだからだ。風見の死を悼んだ仲間達は、その場所にネギを供えた。せめてもの供養にと。

そういう理由で、ネギはここにあるのだ

 

道路にサトウの鏡餅。見つけたのは4月。

■鏡餅が落ちていた

 2年前の4月だったか。花見をしに川沿いの花見スポットに出かけたら、その近くの道路に鏡餅が落ちていた。

 高見典子は、自分のささやかな胸にコンプレックスを持っていた。しかし、コンプレックスを持ったからといって事態は改善しない。

牛乳を飲んでも脂肪分が多い食事を取ってもなにも変わらず、ウエストだけが太くなってしまった。

 そこで、もっと直接的に物理的に問題を解決する事にした。すなわち、パットである。しかし典子は素直にパットを買いに行く事が出来なかった。

想像してみて欲しい。男性が己の小ささに気を病み、股間に入れるパットを容易に買いにいけるかを。無理だろう。典子も無理だった。

 典子は友人と花見に行く約束をしていた。そこで友達から男の子を紹介してもらうことになっていた。典子は悩んだ。パットも無しで会って、果たして気に入ってもらえるだろうか。どうしよう。もう花見は明日。今から買いにはいけない。

 その時、典子の目にテレビの上に鎮座する鏡餅が飛び込んできた。安さに惹かれて最近2個買った物だった。

「こ、これよ!」

 典子に迷いはなかった。鏡餅を胸に仕込み、いざ戦場に赴いた。

 結論を書いてしまうと、典子の作戦は失敗に終わった。サイズが合わないブラに鏡餅を仕込んだものだから、駅から花見会場に歩いている途中で鏡餅は落ちてしまったのだ。しかも、最悪なことに、片方だけ。

 典子は桜の木の下で片方だけ鏡餅が無いことに気付いた。耳の奥で「ゴーッ」っと血の気が引く音が聞こえた。その時、典子が取った行動は正気を失していたが、事態を好転させる事には成功した。

 その時典子は、残った片方の鏡餅をブラの中から出すと、紹介された友人の友人に、「あ、あたためておきました!」と言って渡したのだ。

 人肌に温まった鏡餅を渡されたその男性は、なぜかその瞬間典子の事が好きになってしまい、後日正式に付き合う事となった。

その、典子が落とした鏡餅がコレである。


 

 
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