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はっけんの水曜日
 
高校生の前で講演、50分

■授業開始です

「今日の講演の内容は、しっかりノートに取って提出するように。では、『30日間マクドナルド生活』の著者でもあり、マクドナルド生活、カップ麺生活、避難訓練生活などの企画を実行された、松本圭司さんです。」

大竹先生から紹介を受け、マイクの前に立った。

シーン。約140の瞳が僕を見つめる。そんなに見ないでくれ。

マズイ。なんかしゃべらなきゃ。


半笑いが止まらない。どこを見ていいか判らない。

「こんにちは。」

『こんにちは!』

「ただいま紹介にあずずかるました・・・松本・・・圭司・・です。」

緊張して声が震えた。ひー、誰か助けてー。

目眩がして、目が泳ぐ。70人の高校生の前で挙動不審になった。

「えー、あー、僕は普段、システムエンジニアという仕事をしてまして、えー、会社に行って仕事をして帰るまで、誰とも会話しない事もあります。だから、あのー、こうしてみなさんの前で喋るなどというのは、えー、奇跡的とでもいいましょうか、緊張してうまくしゃべれれません。」

しどろもどもいいとこだ。

「というワケなので、落ち着くために深呼吸をさせて下さい。」

どうなる、オレ。今思い出しながらこれを書いているだけで汗が出てきた。


猫背だなー、こうして見ると。生徒さんみんなが、目をそらさずに僕を見るんですよ。視線で溶けるかと思った。

■深呼吸したら、少しだけ落ち着いた

 目を閉じて、スー、ハーと、深呼吸。その様子がおかしかったのか、生徒から笑いが漏れた。あ、笑ってくれた。その笑い声で気が楽になったのか、喉が開いて言葉が出るようになった。

「今日は、ファストフードを食べ過ぎると、僕のようなダメな大人になっちゃうぞ、という話をしに来ました。

僕がどれくらいダメかというと、昨日の夜は2時までモンスターハンターというゲームをやっていました。

最近はモンスターハンターのやりすぎて親指が痛くて、マウスのダブルクリックも辛い有様です。」

マウスを使うのに親指は使わないよなー、なんて思いながら、失笑にも聞こえる小さな笑い声を聞いた。

 ちなみにモンスターハンターはPSPの2ndGをやっている。村と集会所の下位が終わって、上位のクエストを始めた所だ。HRは4。装備は大体キリンセット。

閑話休題。


みんな超真面目に聞いてくれまして。ノートもたくさん書いてました。

驚くことに超ノートを取られる

「えー、まず、なんで僕がマクドナルド生活をしたかというと、スーパー・サイズ・ミーという映画がありまして、・・・」

 まずはなんでそんな事をしたのか、30日間マクドナルドの食品だけで生活するとどうなるか、という事について話した。と思う。

「と思う」と書いたのは、今ひとつよく覚えていないからだ。正直、最初に15分ほどはあまりにいっぱいいっぱいで、何を話したのかよく覚えてない。多分こんな事を話したんだと思う。

「ファストフードやジャンクフードの栄養というのは、大雑把に言って、必要な物は半分、不必要なものは2倍入っています。

カップ麺なんかだと、1日3個のカップ麺を食べると、塩分は20gだから倍、脂質も基準の倍食べることになります。引き替え、タンパク質やエネルギーは大体半分になっています。ビタミンやミネラルも足りません。」

 こんな事を話すと、みんながノートを一生懸命に取るのだ。すげー、オレがしゃべった事がノートに書かれてる!という驚きがあった。

しかしだ。

「という訳で、タンパク質が足らないので、タンパク質がたくさん必要なみなさんにはカップ麺はお勧めできません。僕は最近あんまりタンパク質を必要としていませんが」

などという、どうしようもない話までノートされてちょっと焦った。意味を察した男子生徒と目が合ったが、彼とは仲良く出来そうだと思った。


今思い出した。黒板使えばよかった。

後になって気づく事が多い

 今更に気付いたのだが、僕はファストフードに関する講演というか、授業を頼まれたのだった。だから、

「笑いを取る必要はなかった」

のだった。

 僕はどうも、「大して面白いことを言える訳じゃない」のに、笑いを取らないとダメだと思いこんでいるフシがあり、この時もその病気が出ていた。

 なので、一生懸命に面白い話をしようとしていたのだが、考えてみれば高校生がなにで笑うかなんてサッパリ判らない。だって彼ら、一人称が「うち」なんじゃぜ?もう、なんだか全然判らない。

 だもんで、面白い風味の事を言ってみても反応が薄くて、それで気ばかり焦ってしまったシーンがあった。しかしだ。そもそも笑いを取る必要自体なかったんだから、そんな事で焦る必要は無かったのだった。

 あの時、どうして僕はそこまで笑いにこだわっていたのか。今となってはよく判らないが、「楽しませなきゃ」という気持ちがなぜだか高まっていた。

恥と反省の多い人生が更に積み重なった。


■50分は意外にあっという間だった

50分で色んな話をした。

・なぜマック生活をしたか?
・ブログを書くのはどういう点が大変か
・ファストフード、ジャンクフードの栄養について
・モンハンのリオレイアが強くて苦戦している
・情報は常に誰かの意志が入っているので鵜呑みにしちゃダメ
・システムエンジニアの仕事について
・シャンル問わず、IT系の仕事はあんまりお勧めできない

 50分も話すことあるのかなーなんて思っていたが、意外に話せてしまうものだった。むしろ、マック生活の本当のテーマである情報リテラシーについてサッパリ話す時間が無くて物足りなくも感じた。


終わった直後。疲れたがホッとひと安心。

 最初の方は緊張して上手く話せなかったが、途中からは普通に話すことが出来た。しかし、やっぱり書くのと比べるとリアルタイムで話すというのは難しい。

 文章を書く作業なら、書いていて展開がマズイと思えば削るなり順番を変えるなりすればいいので簡単だ。

 が、話すとなると、話しながら展開がおかしいと気付いてもなかなか軌道修正が出来ない。最初からちゃんと内容を決めておかないとマズイ。

 大雑把な内容のメモは用意しておいたのだが、それだけじゃ全然ダメだった。


提出されたノートの山。一生懸命に書かれています。

 授業の後、生徒さんが書いたノートを見させてもらった。どのノートも一生懸命に書かれていた。感想も書かれていて嬉しかった。判らなかった事も書かれていて、なるほど、あの説明じゃ判らないよなー、と納得して反省した。

 メールでもノートでも、感想ってのはいつも嬉しい。それが例え「こういうとこがダメ」という意見でも。だって、それは僕の考えや文章に触れて、それでその人が考えて感じた事だから。参考になるし、勉強になる。


目を通すと、「こんな事まで!」という事までノートされていて驚いた。真面目な生徒さんが多い学校なんだそうですよ。

 50分。約1時間の貴重な体験だった。だって、普通にSEとかやってたら、なかなか高校生の前で話し続けるとか無いもの。

 そんな機会を与えてくれた大竹先生とマック生活の本、静かに聞いてくれた生徒さんたちに感謝しながら帰りの電車に揺られて帰った。

では、まとめです。反省のまとめ。

■要は、今回の記事は反省文です

色々反省した。

・無理に笑いを取ろうとしない(面白い事なんて言えないんだからねっ!)
・もっとしっかりしたレジュメを用意する(リアルタイムで上手く話せる頭がないんだからねっ!)
・ウケが悪いからって、無理して予定の展開を外さない(軌道を修正できなくなるんだからねっ!)
・猫背と半笑いはやめる(気持ち悪いからねっ!)
・先生って仕事は想像以上に大変そうだ(50分でヘトヘトだったんだからねっ!)

 はじめて大勢の高校生の前で話して、色んな反省点がわかった。大勢の人に自分の考えを伝えることの難しさもわかった。毎日何コマも授業をしている先生の大変さも判った。高校の時にバカにしていた先生に謝りたい気分だ。ここでも反省。

 今回の反省点がどこで生きるかは判らないが、もしまた大勢の前で話す機会があったら、「気負わないで気楽にリラックスして」話すように心がけたいと思う。気負ったってどうせ面白いことなんて言えないんだし、オレ。

して、後日。

「来年もお願いしていいでしょうか?」

「マジっすか!」


 
 
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