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フェティッシュの火曜日
 
いれずみのマナー

自分の彫り物の意味を知ろう

そもそも、奈加さんが刺青を入れはじめたのは20代後半から。普通だとハタチ前後でヤンチャして‥というパターンが多そうなだけに意外と遅めだ。


「若い時は暴走族にも入ってたんで、周りは結構入れてたし僕も入れたかったんですよ。でも僕は親父がむちゃくちゃうるさくて、亡くなるまで入れらんなかったんです。それも27、8の時に途中までやって、また30過ぎて繋げて‥完成したのは36の時ですね」

−−当時は今みたいにワンポイントからやれるタトゥーじゃなくて、面積も広い和彫りですよね。

「当時は入れてたら絶対ヤクザもんだろ、って世界でしたね。刺青って鎖国解かれて以降、外国人が野蛮に思うってんで国が禁止令出してたんです。だからしばらくは裏の人間がこそこそ入れるもんだったんです」

−−明治大正期はまさに裏業界の人間しかやらないようなもんだった、と。

「それ以前は職人さんや火消し、あと若旦那なんかにしても『粋』として入れてたんです。ヤクザもんがいれるって感覚じゃないですからね」

−−刺青イコール怖い人、というのは禁止時期のイメージを引きずってる部分もあるんですね。

「でも御法度にしたものの、実際は外国の方が刺青は一般的だったんですよ。当時日本の刺青技術は世界一とも言われたので、わざわざ彫りに来る外国人も多かったらしいですからね」

−−海外の評価の方が高かったんですね。

「まぁ、僕らの若いころは仲間同士で競い合ってた部分はありますよね。はっきり言って痛いもんじゃないですか、金もかかるし。江戸時代の人からすると贅沢品ですからね」

−−ある意味、若い仲間同士の見栄の張り合いみたいな。

「そうそう。ただ僕の場合は神輿担いだりして江戸文化が好きだったのもあって入れたんです。だから勉強もしましたし。やっぱり自分が入れるのがどういうものか知らないとね。自分のは鯉と鬼若丸なんですけど、鯉は『滝登りすると龍になる』って言い伝えがあって、あと鬼若丸はのちの弁慶。どちらも出世の縁起ものなんですよ。周りが龍ばっかりだったから、じゃあ俺は鯉だ!ってのもあったんだけど(笑)」

−−意味が分かると愛着も増しますしね。

「だから今の若いモンはガイコツとか入れたりするけど、本当は良くないんです。縁起のよくないものを一生背負うわけだから」


実際は浮世絵知識とかもっと聞いてるんですが泣く泣くカット!

彫られた意匠の意味を知る、これもまたマナー。ただそれを考えはじめるとなかなか手出せないんだよなぁ‥まぁ、早く入れて愛着持つのもいいけれど、時間をかけて考えるのもいいかもしれない。


−−結果的に刺青を遅く入れたのは良かったと思います?

「僕は良かったと思いますよ、若気のいたりじゃなくって。それに20代の前半で入れちゃってたら、もう30年近く入れてることになるわけで、色が薄くなっちゃうんです。昔の人なら『掘り返し』するころですね。そんなする粋なやつはいないですけど。江戸時代は多かったらしいですけどね」

−−また色を入れるわけですよね?肉体管理も大変ですよね‥。

「色落ちもだけど、若い時からすると体型が太ったり痩せたりしますしね。うっかりすると龍がこんなに太ったりとか(笑)」

−−ツチノコみたいになっちゃうのも見栄えよくないですし(笑)。格好良く見せるってのも大変ですよね。

「あと若い時に入れた人はたいてい肝炎になってます。エイズが問題になる前は、ほとんどの彫り師さんが普通の消毒だけで針を使い回してましたから。僕が掘ったころはエイズだなんだって保健所から一番うるさかったころなんで大丈夫でしたけど。一番いいのはマイ針を作ってもらうことですね」

−−身体の表面だけの話じゃないんですね‥。

「だから命がけですよ。あと色が身体に合わずに足が腫れ上がったりしたこともありましたね‥今は海外とかの色もありますけど。それと、我慢するのって肝臓にくるんですよ。だから彫り物する前の日ってお酒飲んじゃいけないんです。二日酔いで行くと、掘ってる間に先生に怒られるんです。『おい奈加よ、お前昨日どっぷり飲んでんだろ?針が入っていかないんだよ』って。身体が拒否するらしいですね。不思議ですよね」

−−肌で肝臓のことが分かっちゃうんですか。

「針が刺さっていかずに跳ね返っちゃうそうで。『オマエ帰れ、今日はなし!』って言われちゃう(笑)」


刺青って見た目の美しさがどうこう、というファッション的な部分だけじゃないのがよく分かる。服と違って「体型に合わせて着こなす」ということが出来ないからねぇ。

また、立派な彫り物を持つゆえにこんなエピソードも。


「自分んちの子供はオギャーと生まれてから、ずっと自分の親の背中見て育ってきてるわけじゃないですか。だから、3歳か4歳の時にしきりと自分の背中を見るんですよね、風呂上がりの時に。どうしたの?ってきいたら『早く僕も出てこないかなぁ』って言うんですよ。大人になると出てくると思ったんでしょうね(笑)」

−−股間に毛が生えてくるみたいに。

「その時は『もうちょっと待て、大人になると出てくるから!』とかふざけて言ってたんですよ。そしたらある時一緒に銭湯に入ったんですけど、背中に絵が描いてある人が誰もいないんですよ。そしたらウチの子が固まっちゃって(笑)。僕の友達も大なり小なりあるから、大人はあるもんだと思ってたんでしょうね」

−−そりゃカルチャーショックでしょう(笑)。


「親の背を見て子は育つ」というけど、まさに言葉どおり!銭湯に行ったら周りの大人に毛がなかった!みたいなものか。

刺青入れること自体は海外だと珍しいものではないそうだけど「海外では‥」と説明したところで印象が変わるわけでもなし。日本には日本の流儀に合わせる、それが一番スマートな付き合い方なんでしょう。奈加さんの言葉にたびたび出てくる「粋」という言葉に通じるものでもあるし。


「(刺青は)素晴らしい文化だと思ってますけど、一度封印しちゃったせいで悪いものにさせられちゃったわけですよ。バカバカしいといえばバカバカしいけどしょうがないですよね、怖がる人がいるんだから。だから小さいタトゥーなんかはいいけど、びっちり入ってる人は気を使えよ、と」

−−バンドの人がステージ上なんかで見せる分にはいいのかもしれないですけどね。

「変身願望をかなえるところがありますからね。刺青って、自分が強くなったような勘違いをしてしまうものがあるんです。『これだけ痛いことを耐えたんだから』って自分がかわいくなっちゃうんですよね。でも、それも仲間同士でならいいけど一般社会では気を使えよ、と。それは言いたいね」


あらためて奈加さんの語るマナーを通して、刺青はただのファッションとは違う、というのがよく分かった。意匠には意味があるし、格好良く背負うには節制も必要だし、子供にも教育が必要になるし。アートでもありポリシーでもあり人生を共に生きるものでもある。深いなぁ‥。

でも、そこまでの深い物だからこそ入れてみたいという気持ちもあるんだよなぁ。憧れます。しかし、奈加さんの話とこの彫り物を見たら「自分はそこまでの器じゃないなぁ‥」と思っちゃうよ!ということで最後に奈加さんの見事な彫り物の写真はこちら。ま、今からこれを彫る度胸はないですけど‥。

ファッションというよりアート(生き方込み)

ちなみに「いれずみ」には刺青・入れ墨・文身などいろいろ書き方があるけれど、よく見る「入れ墨」というのはかつて罪人に入れていた墨のことを言うので現在のものはあたらないそう。ということで本文中では比較的最近の書き方という「刺青」、あと「彫り物」という表記をさせていただきました。

あと関西では「我慢」なんて言い方もするとか。そうそう、痛みを我慢すること考えるとやっぱ無理かもなぁ。「半年くらいで取れるタトゥーシールってないかな?」とかヘタレな事を考える時点で失格です、俺。


 
 
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