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フェティッシュの火曜日
 
急な雨。傘がない。いったいどうしたら

 

深夜のトイレで一人ジェット

特訓

 しのぎを削るライバルたち。しかもみんな工夫している。このままじゃ第一人者の座は危うい。

 危機感を感じた僕は、ひたすら特訓を重ねた。トイレに人がいると恥ずかしいし迷惑なので、オフィスに人がいなくなる深夜まで待った。誰もいないと思ってゴォーゴォーピィーって延々5分くらいやってたら、個室から人が出てきたので慌てて「いま乾かし終わりました」みたいな顔をして逃げ去ったこともある。トイレの外まで音が漏れていたらしく、「トイレから変な音がすると思ったら石川君が出てきた」って言われたこともある。

 ひとけを感じてはトイレを出て、席に戻ったフリをして、すぐにまたトイレへ。特訓の時間の半分以上は、練習ではなくてそんな「手を乾かしてるフリ」をする工作のために使ってしまった気がする。


今回のためにツメを伸ばした

 そしてツメも伸ばした。その方が音が出やすい気がしたのだ。キーボードを打つたびにカチカチ言った。携帯のボタンが押しにくくなった。いい音の代償として、そんな生活苦はよろこんで背負った。

 そんな特訓を続けるある日、ひょんなことから音のなる原理がわかりかけてきた。原理がわかれば、もっといい演奏フォームも導き出せるかもしれない。

 


その前に演奏風景を動画でどうぞ

 

 

@Aを繰り返してリコーダーは音を発する

リコーダーに近い

 別件でリコーダーの鳴る原理を調べていたところ、ジェットホイッスルにずいぶん近いことが発覚したのだ。

 (おおざっぱな説明だが)リコーダーは吹き口の奥に刃のような鋭い板があって、空気がその刃の上に行ったり下に行ったりすることで音が鳴るのだ。

 今回の場合、この刃にあたるのがツメ。なんとなく鳴りやすい気がする、と半分気休めでツメを伸ばしていたのだが、これを見る限りけっこう効果あるかも、という感じがする。


ペンを使って説明してくれました

さらに理論武装

 そしてもうひとつ、編集部の安藤さんが大学のときに学んだ流体力学をもとに別の仮説を考えてくれた。

 細い物が強風にさらされると、後ろに渦ができて音が鳴るそうだ。風が強い日に電線が音を立てるのは、この原理らしい。


上は渦が発生している状態、下は渦が発生していない状態
 図を描いてくれた。なんとか渦が発生して、なんだかいろいろあって音が鳴るのだそうだ。本当はもっと詳しく説明してくれたのだが難しくて全然おぼえられなかった。そしてこの渦が発生するかどうかは、風の強さが関係するそうだ。なるほど、渦ね。そういうことだったか。(わかったふうな顔で)

 さて二つの仮説、今回はどっちが正しいのかは結局わからない。ただどちらにしろ、強い風をまっすぐ当てるのが有効そうだ。

 

 

きわめた!

もう極意はつかんだ

 なんだかぼんやりした理論の後ろ盾もあり、その後の特訓でついに極意はつかんだ。苦節…ええと、2週間くらいかな、これで胸を張って「第一人者です」と言える!

1.指の第一関節を伸ばす。
2.指は風にまっすぐ平行に当てる
3.手を動かして、ヒューという風切り音が高くなる位置を探す。一番高いポイントで突然ホイッスル音に変わる
4.左手はセンサー制御に使うが、できるだけ下のほうに、少しだけ差し出す

左手を出しすぎると気流が乱れるので、できるだけ吹き出し口から離して、ちょっとだけ出す。そのためには、ジェットタオルのセンサーの位置を把握しておくことが重要だ。


これが正しい手の使い方。左手の位置に注目
事前にセンサーの位置を確認しておこう

 では、聴いてください。ジェットホイッスル独奏で、タイトルは「あぜ道」。


 

楽器としてはまだまだこれから

 いかがでしたでしょうか。けっきょく何ができたかというと「長く音が出せるようになった」というだけなのだが、とてもデリケートなこの楽器、これだけでも大きな進歩だ…、と、思いたい。

 これからも練習は続けようと思う。どうせトイレには毎日行くので、そのついでで練習できるのも魅力だ。今後は指を変えて音階を鳴らしたり、左手の抜き差しでリズムを刻んだりと、より音楽的な演奏をめざして研究を進めたい。のこぎりを弓で弾いて音を出すミュージカルソウという楽器があるが、あちらは演奏用のノコギリが発売されているようだ。こちらも、いつかジェットホイッスル専用のジェットタオルが発売されることを夢見て。



 
 
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