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ちしきの金曜日
 
名物社員の喜びと哀しみ

営業マンの鑑なのにあんな漫画を!

もうひとり話を聞いたザ・名物社員は、漫画家とサラリーマンを20年以上兼業している田中圭一さん。絵は柔らかい手塚治虫タッチなのにストーリーはめくるめく下品、という凶悪なミスマッチな作品群はご存じの方も多いはず。

しかし漫画の印象とは違い、田中さん本人は物腰の柔らかい方。実際、現在まで勤めた4社はいずれも営業寄りの職についており、いわゆるベタベタなクリエイタータイプではない。普段おっとりしていながら、攻める時は攻めるデキる営業マンタイプ。とサラリーマン経験4年の自分が評するのも失礼ですが。


田中さんは写真NG。でも自画像似てます。

ウチの本棚より著作の数々。普通にファンですいません。

今回「名物社員」をテーマにインタビューをお願いしたわけですが、偶然にも最新コミックス『サラリーマン田中K一がゆく!』(角川書店)は田中さん自身のかつての新人時代を実話ベースで描いたサラリーマン漫画。

主人公は玩具会社「ヨイコトーイ」で奮戦する新人営業マン・K一、としながらも登場するおもちゃは老舗のお人形さん「リナちゃん」に、車や飛行機の変形ロボット「トランスボッツ」と、どう見ても老舗おもちゃメーカー・タ○ラ(現タ○ラトミー)だったりするんですが‥。


「(記事では)別に会社の名前出してもいいですけどね、wikipediaなんかに全部書かれてるし(笑)」

−−じゃあ素直に「タカラ」と書かせていただきます(笑)。まさに漫画通り、最初に入社したタカラでの日々を描いた漫画ですよね。当時も社内では漫画家って知られてたんですか?

「最初のタカラの頃は(漫画書いてるのは)隠してたんですよ、副業は禁止だったので。次に入った会社からは『それもひとつの売りだろう』と履歴書送る時点で本やイラストも送るようにしましたけど」

−−大学卒業してタカラに入社されたわけですけど、その時から漫画は平行して書くつもりだったんですか?

「漫画もやる気はあったんですけど、食えるわけないだろうと思ってましたね。でも就職活動して決まった時には連載も決まってて、どっちかを辞めるってわけにはいかずになし崩し的にやってたんですよ。上にはバレなかったんですけど、開発部署にいる人が一人だけ気づいたみたいで『黙っててくれないか?』ってお願いしたことはありましたねぇ」

−−まだ「名物」になる前だったんですね。


当時の話はコミックスを読んでいただくとして、約10年勤めたタカラの次に田中さんが入社したのは『A列車で行こう』『アクアノートの休日』『THE ATLAS』などのヒット作で知られるゲームメーカー・アートディンク。

先に書いたとおり、ここから田中さんは公然と「漫画家でサラリーマン」という名物社員の道を歩み出した。ただ「名物」の方向がちょっと難ではあったようだけど。


「アートディンクは偶然入れたんですよね。玩具業界がじり貧になってきてゲーム業界面白そうだぞ、って思って何社か受けたんですけど、それまでが玩具メーカーですからコンピューターも知らなきゃゲームの作り方も知らなかったんです。ファミコンもプレステも持ってないくらいで。よく志望したなって自分でも思うんですけど(苦笑)」

−−受けた時の反応はどうだったんですか?

「アートディンクでは直属の上司になる当時の開発部長さんは『こいつを取れ!』って言ってくれたらしいですけど、その他の何人かは僕の漫画を読んでて『開発部長は頭どうにかしたのか』『こんなの書いてるやつが入ってきたらどうなるんだよ』ってカンカンガクガクあったらしいんです」

−−下品系はそうとられがちですよね、作品=本人のキャラって。

「でも、いざ入ってみればこっちも社会人10年やってて常識はキチンとわきまえてますから『あ、ちょっと安心』みたいな。漫画のキャラそっくりなあの性格が来る!て皆思ってたみたいで」

−−でも女性はそれでもヒくんじゃないですか?

「さすがに女性が読む漫画じゃないですから『田中さんって漫画書いてるんですよね?どんなの書いてるんですか?』って言われて『いやいや、いろいろね』って適当に返すんですけど、そのうち単行本が社内に回るわけですね。そしたらだんだん女性陣が遠巻きになっていって(笑)」


今回写真が少ないので以前いただいた色紙でつなぎます。

「名物」を認知されたはされたで大変なようで‥。しかし仕事においてのプラスも多く、さらに本業の方が名物スキルに及ぼす影響もあったりする。たとえばこんな事。


−−やっぱり漫画家の経験が買われて採用、て部分もあるんですか?

「それまでプログラマー寄りなディレクションする人はいたんだけど、アーティスト寄りなディレクションができる人を探してたらしいんです。そこに僕が玩具メーカーで10年営業やりながら漫画書いてたって経歴をもってきたんで、こいつは面白いかもって取ってくれたんですよ」

−−職歴にはプラスになったんですね、ゲーム会社ってのもあるんでしょうけど。

「でも入ってみるとゲーム会社って管理職やろうって人がいないんですよ。皆ゲーム好きで入ってくるわけだから当然なんですけど。それで僕がタカラ時代は営業所長のNo.2ってポジションで管理職経験あったから、第一線でゲーム作るより管理職周りをやってくれって言われて。まぁこっちもそっちの方が経験行かせるかなって思って管理の仕事を。その傍らでディレクションを一本、プロデュースを一本やらせてもらったんですけどね」

−−プロデュースしたのが、本宮ひろ志先生のキャラクターが建設重機で格闘する伝説のゲーム『ぶちギレ金剛!!』。

「そうそう。あれは本宮さんにキャラデザインお願いしたんですけど、もちろん本宮さんが書くのは元のイラスト数点だけですよね。実際ゲームの中に出てくる絵はこちらで書くしかない。そこで『誰が書くのか?』って時に『会社の時間と金をかけて練習させてもらえるんだから、こんな美味しいことはない』って一生懸命覚えましたね(笑)」

−−今はもう手塚タッチに並ぶメイン画風ですし。

「一応本宮さんにはゲーム作る時に単行本も渡して挨拶もしてるんですけどね。その後使われるとは思ってないと思いますけど‥でも本宮さんはそんな事に目くじら立てるタイプじゃないと思うんですよ。ヤラシイ話、僕がタッチを真似てる人って目くじら立てないであろう人を選んでるんです。松本○士さんとか絶対手出さないですよ(笑)」

−−槇原○之みたいになっても大変ですからね(笑)。


その後、本宮タッチは単行本に結実。

本宮タッチの絵の話のような「漫画が仕事に作用し、仕事が漫画に作用」という関係。これはもう理想的な名物社員のありかたといえるだろう。

タカラ、アートディンクなどを経て、現在はソフト開発会社ウェブテクノロジに勤務する田中さん。グラフィック系ソフトが中心なだけあって、自らゲーム会社などに出向くことも多いのだそう。


「だいたい売り込む相手も絵に携わる仕事なわけだから、漫画好き多いんですよ。ノートパソコン持ってデモンストレーションしに行って、最後に『何か質問ありますか?』って言ったら『あとでサインいただけますか?』って返されたりね」

−−絶対デモ見ながらドキドキしてると思いますよ、「あの田中圭一だ!」って(笑)。

「でも僕は顔写真を単行本に載せてないんですよね。だから、たまに会社のパンフの挿絵とか書いたりするんですけど、説明会で自ら配ってると『ああこの絵知ってる知ってる!手塚治虫さんの絵パクってるとんでもない漫画家だよね』とか話してたりするんですよね(笑)」

−−書いた本人が配ってると思わないから。

「中には顔知ってる人もいたりして、『あの人だよ!』って慌てて止めてたり。面白いですね。でも本当に漫画が仲立ちをしてくれて、初めて会った人でも『漫画読んでました』ってところから話が入るので、距離が近く感じてくれると思うんです。僕も人見知りするタイプではないので、仲良くなるって意味では漫画は役立ってますよね」

−−女性は遠巻きになるけど(笑)。

「仲良くなる女性は必ずシモネタOKな人なんですよねー(笑)」


先の宮城さんと違い、田中さんは顔は知られてない名物社員。共に名物とはいってもスーダラスチャラカなわけでなく、両者とも普段はキッチリ仕事してる。宮城さんは普段からビールにタバコにロケンロールではないし、田中さんも普段から下半身丸出しで生活してるわけではない。それぞれの「名物」は少しずつ仕事と関わりながら、いずれも会社に貢献してるのだ。

「一芸入試」なんて採用してる大学があるけど、「一芸社員」なんてのを増やしてもいいんじゃないだろうか。文化系の実業団スポーツみたいなもんだ。エアギタリストがいるライブハウス・漫画家がいるソフト開発会社があるんなら、漫才師がいる証券会社とか毎年欽ちゃん仮装大賞常連の自動車工場とかあってもいい。

あなたの会社に「名物社員候補」がいるなら、「バイト禁止だから〜」とか言って潰すより、伸ばす方が大局的には良いのかもしれない。

と、この記事を見た会社のお偉いさんたちが「そぉかぁ!」と勘違いしてくれたら世の中楽しくなると思います。いやホント。

絶賛発売中です!

こういう所は期待を裏切らない

ちなみに田中さんに「思い出の名物社員は?」を聞いてみると、

「昔の会社で僕の4世代くらい下に入ってきた営業なんですけど(‥中略‥)それがなんと7兄弟だったという!」

−−すいません田中さん、たぶんサイトの基準的に話題がシモ過ぎてちょっと載せられないです‥。

こういう所で期待に応えてくれると嬉しいよね。

そんな仕事も出来てシモネタも素敵な田中圭一さんの『サラリーマン田中K一がゆく!』(角川書店)は絶賛発売中!ビジネスマンのためになる小ネタ・ウンチク満載かつ「プロジェクトX」的なサラリーマン漫画としてためになります!実は。


 
 
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