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ひらめきの月曜日
 
目玉焼きに正解はない


目玉焼きと人生は似ている(ような気がする)

と思っている。(あ、表題から続けて読んで下さい)
いや、料理にも人生にも同じことが言えるのだろうが、こと目玉焼きに関しては強くそう思う。

片面か両面かという焼き方の問題を始め、黄身はカチカチがいいかドロドロがいいか、はたまた中間を取ってカチドロなのか、白身のフチ部分はカリカリかフワフワか、等々…。ああ、考えることは山ほどある。

茹で卵の場合は時間さえきっちり計っていれば「何分でこの固さになる」という目安があるが、目玉焼きはたとえ時間を正確に計っても、その時の火力や使う器具によって出来がまちまちだ。つまり再現性が極めて低い。まったく、簡単そうでいて気まぐれなヤツなのだ。

高瀬 克子



何を語っているのか

「どこのエッセイスト気取りだ」という導入で申し訳ないが、しょっぱなから目玉焼きについて思うところを語らせていただいた。

そうなのだ。ひとくちに目玉焼きと言っても、その世界は本当に奥が深くやっかいなのだ。「何をかけて食べるのが好きか」以前に、私たちはもっと目玉焼き自体に目を向けるべきではないだろうか。

…しまった。また語っている。

とりあえず、普段やっている通りに目玉焼きを作ってみよう。そしたらいい加減に黙るだろ。


いったん、皿に割り入れる

「普段通りに」と書いたくせに、いきなりウソをついてしまった。いつもはこうしてわざわざ皿になど入れたりしない。卵は割ったら、即フライパンでジューだ。

でも、こうするのがいいって本に書いてあったので実践してみました。

正直、実践したはいいものの、これをやる意味が分からなかった。たいした違いもないくせに手間や洗う皿を増やしてどうする。…と、このように情報に踊らされたり、人の言うことを無闇に信用して騙されたりと、目玉焼きは人生の縮図なのだ。だから語るなって。


ここでカラザ(白いビローンとした部分)を取る人は取るのだろうか。私は取らない派です。
ちょっと経ったら水を少しだけ入れてフタをする。

本当はフタなんぞしたくはない。水も入れたくない。でも目玉焼きを作る時というのは多くの場合が朝であり、朝というのは時間がないものだ。

悠長に「弱火でゆっくり」なんてやってたら遅刻してしまう。時間短縮という意味でのフタなのだ。

で、フタをするとどうなるかというと、こうなる。


黄身が白くなるんだよー!

ここ重要です。私は目の覚めるようなオレンジ色をした黄身(君)に会いたいというのに、フタをすることで白い膜が張ってしまうんですよ! 単に朝、時間がないからという理由で! 黄身が白く! そんなのイヤだ!

本当は私だって、もっと違う人生を歩みたかったさ。だけど今は会社で働きながら、こうして週末はライターとして…。ハッ。

きっと夏の疲れが出てるんだろう。こういう時はパーッと食べるに限る。


インスタントのピーナッツヌードル。なんて魅力的な食べ物なんでしょう。
電子レンジで簡単調理。あっというまに出来ます。
箱のまま食べてもいいが、今日の主役は目玉焼きだ。
するってーと、当然こうなるね。

こういう料理に目玉が乗るのはいい。本当にいい。

たとえ自分好みの目玉焼きじゃないにしても、それは見かけだけの話。ひとたび箸を入れたら、そこには待ち焦がれたオレンジ色のあの人が待っている。


あの人。無事に対面。

逢瀬を楽しんだことは言うまでもない。どんなに夢中だったかは、写真が残ってないことで明らかだ。(一気に食べてしまった、という意味です)

 

ターンオーバーはどうか

見た目はともかく、中の黄身がドロドロしていれば私は満足なのだろうか。ということは、だ。焼き加減にさえ気を付けたなら、過去に試したことのない両面焼き(ターンオーバー。片面はサニーサイドアップですね)でもいいということになる。試してみよう。

そうだ。人間(目玉焼き)は見た目じゃない。中身だ。


まだ全体がフルフルした状態でひっくり返すドキドキ感がたまらない。どうか黄身が潰れませんように。
黄身は潰れなかったが、やけに遠くへ行っちゃったな。

両面焼きといえど、中身の柔らかさは死守しなければならない。必然、非常に神経の張る作業となった。

通常の片面焼きより難易度は上なんじゃないかと思いながら、なんとか無事に焼き上げることが出来た。


具のない焼きそばは、さみしいにも程がある。
乗せてみた。

「どんなに地味な料理でも、目玉焼きさえ乗せれば一気に華やぐ」と信じ込んでいた私には、目を覆いたくなるような皿が出来てしまった。

これは一体どうしたことだろう。


ザ・地味。

これは私の人生か。なんて救いようもなく地味なんだ。なんてお粗末なんだ。なんて…。

やっぱり人間、見た目も大事だよ。うん。そうだよ。よく第一印象で好きか嫌いか分かれるって言うもんな。

すっかり打ちひしがれて「あーあ」と目玉焼きに箸を付けた途端、それは起こった。まるで何かの啓示を受けたかのように、突然。


あんまり急だったもんで、カメラ間に合わず。
「おんどりゃー」と、どんどこ出てくる。

黄身に怒られているような、慰められているような、なんだか妙な気持ちになりながらも、私は気がつくとヘラヘラと笑っていた。笑うことを止められなかった。

きっとみなさんも、これを見たら笑うはずです。


「なに言ってんの! アンタの人生、あと半分残ってるでしょ! 頑張りなさい!」(黄身の声)

黄身は、他にも「まだまだこれからだよ!」とか「やっぱり中身も重要よ?」とか言って、私を嬉しがらせてくれた。

うん。たしかに中身は重要だ。


急に皿の上が華やいで、わっしわっしと食べた。

オレンジ色が目にまぶしい。黄身がツヤッとしてて、なんておいしいんだろう。見た目は地味だけど中身は優しく慈愛に満ちている。こういふ人に私はなりたひ。柔らかな両面焼きのやうな人に。

えー、こんな調子で次のページも続きますが、よろしいでしょうか。


 

 
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