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フェティッシュの火曜日
 
風が弾く楽器〜エオリアン・ハープを聴きに

 

二人がかりで運び出し


すきまごとに数本の弦が張られている


設置風景

非常階段で試聴会

 「じゃあ聴いてみますか」と言って杉山さんが取りだしたのは、なんかアルミの柵みたいなやつ。ほんとに「柵みたいなやつ」としか言いようがないのだが、これも立派なエオリアンハープなのだ。

 材料には、通風口の部品を使用している。少し開いたブラインドを横にしたような形をしていて、そのすきまの一つ一つに、何本かの弦が張られている。

 何もない空中に弦を張るよりもこういうすきまを使った方が、風向きが安定するし、風圧も高まってよいのだそうだ。

 研究室のある建物の、非常階段へ抜けるドアに設置した。設置した、といってもドアを少し開けて立てかけるだけだ。セッティングが終わったら、あとはひたすら風待ち。

 

その音とは

 エオリアン・ハープは自分で演奏する楽器ではないので、どうしてもこの「待ち」の時間が生まれる。一体どんな音なのか、期待に胸がふくらむ。この時間、風を待つ体験が、この楽器の楽しみでもあるのだ。

 そして待つこと数分、心地よい風とともに、ゆっくりと音が鳴り始めた。

これがその音です

 風の音と一緒に、フィーーーーン、という、なんとも不思議な音が立ち上がってくるのがきこえると思う。金属的で少し恐ろしいような、それでいて浮遊感のある寒色系の音だ。

 そして風が去ると音も止み、人の声や車の音が戻ってくる。ちょっと意外な音にどぎまぎしつつも、インタビューを続けながら、ふたたび風がやってくるのを待つ。

 風の強さや方向によって、音の立ち上がり方や、音程も変わってくる。どんな音が鳴るかは風しだい。さきほど「日本で言えば風鈴」と書いたが、『スーッと鳴り始めてスーッと消えていくエオリアンハープの音色は、風鈴以上に「風そのもの」に近い存在感』(杉山さん)。まさにそのとおりで、インタビューしながらたまに思い出したようにこの音が鳴りだすと、吹き抜けていく風の存在が、よけいに色濃く感じられるのだ。

 

 

人力演奏は可能か

 ところでこの楽器、人力で鳴らすことはできるのだろうか。もしできれば、ホールに持ち込んでコンサートなんかもできるかもしれない。


逆光ですみません!


 3人がかりであおいでみたけど無理でした。杉山さんによると、風の強さが安定していなかったのでは、とのこと。今回は鳴らなかったけれども、風と楽器の相性しだいでは、うちわや、息で鳴らすこともできるそうだ。

 

電気で音を増幅するしかけがついたものも。エレキ・エオリアンハープだ。

 

 

木の間に張られた弦が見えるでしょうか

集まるセミの抜け殻。弦の上にも1匹います

虫を呼ぶエオリアン・ハープ

 シンプルなしくみのエオリアン・ハープだから、形も自由自在なら大きさも自由自在だ。学内にはもっともっと大きなエオリアンハープもある。そちらも案内していただいた。

 学内の一角、通路を挟んで両脇の木に糸が張られている。思わず洗濯物を干したくなる光景だが、実はこれもエオリアン・ハープなのだ。

 左下の写真を見てほしいのだが、弦の取り付け部分には、大量のセミの抜け殻がついていた。これでもだいぶ落ちてしまったあとだそうで、夏の間はもっと大漁だったらしい。なぜかセミの集まるエオリアン・ハープ。他にもクモが巣を張ったり、鳥がぶつかったりと、エオリアン・ハープの周りにはやたらに動物が集まってくるという。「気のせいかもしれないですけどね」と杉山さんは言うが、このセミの量、なんかそういう音波が出ているに違いないと思うのだ。

 そんなふうに弦に抜け殻がついたり蜘蛛の巣が張ったりすると、その影響で音色の変化が生まれるそうだ。そんなふうに自然に楽器が育っていくなんて、なんだかすごい。17世紀のエオリアンハープがまだ残っていたりしたら、きっとものすごいことになっていたのでは、なんて想像してしまう。

 

 

 

 

巨大エオリアン・ハープ

そしてもう一つ、これまで杉山さんと渡辺さんが設置した中で、一番大きなエオリアンハープがこちら。


全景を写すと、弦は写真に写らないほど

接近するとわかります


 ここはフライパン広場と呼ばれる場所。広場をコの字型に囲む建物の、3階のベランダから反対側のベランダまで、真っ直ぐ弦が伸びている。全長45m。デケー!

 いまネットで検索してみたところ、世界で最大の楽器はドイツの大聖堂にあるパイプオルガンで、全長11.3mだそうだ。その4倍ある。こっちが世界一だよ!

 

 

 
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