●確かにメロンは走った
ぐたぐだになった末、たどり着いた結果をまずご覧いただこう。
この映像は、別に夢やまぼろしではない。あくまで現実である。解説しよう。
のそのそ動くメカメロンを見て「さすがにこれはダメだ」と思って一念発起。バランスボールをベースに段ボールで骨組みを作り、薄緑色の紙を貼り付けてハリボテを作ったのだ。
マスクメロン模様を描き、上の部分に枝をつけて完成。誰でもメロンになれるかぶり物だ。
明け方4時に完成した、デカメロン伝説である。
これをかぶって走ればいい。さあ、約束を果たして囚われた友人を助けるため、走れ、メロンよ!
けしかけたところで、原作のもつシリアスなイメージからはどうしても距離がある。やる気あるんだろうか、この果物は。
見た目の不信感をよそに、メロンは走り続けた。走っているところをいっぺんに見れば、なんとなく一生懸命がんばっている感じが出てくるかもしれない。
どうだろう。自分で提案したことだが、自信がない。
はっきりしているのは、「なんだかわからないけど、メロンが走ってるね」ということだ。
原作では山賊の襲撃や橋の決壊など、メロスをさまざまな危機が襲う。それを乗り越えてメロスは友人のもとへ向かっていくのだ。
一応そうしたシーンを再現したつもりなのだが、どうにもシリアスな感じは出てこない。
撮影した日は穏やかな日差しが暖かい日。ゆったりとした川面を眺めていると、そんなに一生懸命がんばらなくてもいいか、という気持ちになってくる。
もう走るのやめちゃおう。そもそも俺、メロスじゃないし。メロンだし。
左の写真、カッパが俺を見て驚いているように見える。お互いちょっとした化け物だろう、そんなに驚くなよ。看板には「このちかくであそんではいけません」って書いてあるけど、別に遊んでいるわけじゃないよ。
そんな内面的な言い訳は通りがかる生き物たちに通用するべくもなく、犬も吠えかかってくる。
●妄想に決着をつけたよ
今まで冗談半分に頭の中で思い描くだけだった『走れメロン』。こうして実現したことで、なんだかわからないけれども納得できた気にはなった。
わかったことは、メロンが走ると原作にある感動が完全に失われるということだ。
一字違いなのにこの落差。もうみんなメロンのことは忘れて、走るのはあくまでメロスということにしておいた方がいい。