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はっけんの水曜日
 
鰹出汁で割った焼酎、焼津割飲み歩き

一軒目、居酒屋ほり川

最初にやってきた店は、焼津駅から20分くらい歩いたところにある「居酒屋ほり川」というお店。青年会議所の焼津割キャラバン隊一押しのお店である。



おでん横丁というところにあります。横丁なのかこれは。 普段は入らない雰囲気の店なので、ちょっとビビっています。

ここはご主人が一人で切り盛りする小規模な店なのだが、お酒の種類が半端じゃない。焼酎、日本酒、泡盛、ワインと様々な酒瓶が所狭しと並べられており、いわゆるプレミアム焼酎なども普通に置かれている。


この店が近くにあったら絶対通いたくなる種類の豊富さ。 床下にまでぎっしりと酒瓶が収められている。

忘年会だと言い張って千葉から連れてこられた同行の友人が、「焼津割はいいから、普通にこの店で焼酎を飲みたい」と小声でつぶやく。

もっともな提案であるが却下。

 

焼津割は町おこしとして生まれた飲み物らしい

とりあえず中生と刺身盛り合わせを頼みたいところだが、伺ったのが夕方四時という開店前の時間だったため、というか一応取材ですと電話をしてからきたため、厨房で仕込みをしている店主にシラフで話を伺った。


この店の支店を東京で出させてください。

  この店では焼津割をもともと出していたんですか?
店主

いや、最近だよ。鰹節の出汁で割るっていうのは、ごくごく一部の人しかやらない飲み方だからね。

  やっぱり。
店主 緑茶割っていうのがもともと静岡にはあって、それを静岡割っていうネーミングにしたら人気が広がったんだ。そこで焼津でも焼津らしいもので割って町を活性化させようと青年会議所の人たちが考えたのが、焼津名産の鰹節を使ったカツオ出汁で割る焼津割。
  なるほど。伝統的な飲み物ではなくて、町おこしの一環なんですね。
店主 そう。青年会議所がいろいろと店を回って、その考えに賛同したお店が、焼津割っていう名前で出しているんだ。今年になって始めたばかりだから、焼津市内でも知らない人が多いし、その冊子に載っている店以外ではほとんど出していないと思うよ。
  今年からだったんですか。
店主 だからどの店もまだ試行錯誤している感じかな。そのまま普通に作ると、悪く言えば「まずくはない」っていう味だから。
  ベースがカツオ出汁って、工夫するにしても難易度が高いですよね。注文される方は多いんですか。
店主 うちだとボトルで飲むお客さんが多いから、正直そんなにいないよね。知名度もまだぜんぜん低いし、飲んでも一杯。富士宮焼きそばだって認知されるまでに10年かかったんだから、まあこれからなんじゃないかな。
  これだけお酒の種類が多い店だと、正直焼津割以外の酒を飲みたくなりますよね。
店主 でも青年会議所の連中も予算がない中でがんばっていてさ、のぼりを作ったんだって持ってきたのがこれ。

観光地のお土産サイズののぼり。

店主 のぼりっていうから店の外に出そうと思っていたら、小さくてびっくりしちゃったよ。でもあいつらに協力してやりたくてさ。
  新しく名物を作るっていうのも大変なんですね。よかったらこの店の焼津割の作り方を教えてください。
店主 うちはいろいろ試した結果、シンプルにカツオだけの出汁にしたよ。3種類の出汁と30種類の焼酎を用意して、青年会議所のやつらと全部の組み合わせを試して、合うやつを探したんだ。もう最後はグデングデン。
  試してみて、焼津割にはどんな焼酎と出汁が合いました?
店主 まず焼酎はすっきりしてクセのない麦か泡盛だね。イモとかはだめだ。世間でひっぱりっこになっている焼酎なんかだと特にね。かといって甲類焼酎だとまた合わないんだ。ある程度は味があったほうが出汁と合うんだよ。
  奥が深いですね。さすが駿河湾。
友人 海の深さとかけなくていいから。
店主 出汁は焼津割用に中厚の削り節であっさり目にとったものを使っている。ホットでもアイスでも、香りよりも味重視のほうが焼酎には合うね。

中厚の削り節。焼津割は店によって出汁が違うらしい。 おでんを出していただきました。さすがおでん横丁、うまい。

  焼津割専用の出汁までとっているんですね。つまみはどんなのが合いますか?
店主 そうだな、やっぱり刺身とか焼き魚とか、魚介系だね。おでんでもいいし。


実際に飲んでみた

料理の開発秘話っていうのは聞いていてとても面白い。だが話だけ聞いても仕方がないので、一杯作っていただいた。


これが焼津割。見た目のインパクトは皆無。

アイスで出された焼津割は、香りをかいでみると思っていたほどは魚臭くない。見た目は濁りもなく、ちょっと琥珀色をした普通の水割りである。誰かに正体を知らせずに飲ませたい。

ドキドキしながらその味を確かめてみると、予想外に違和感なく口から胃へサラサラと流れていき、飲んだ後に「ああ、カツオ出汁の酒だ」という当たり前の感想が口からこぼれた。

麦焼酎をベースとしたこの焼津割は、出汁と焼酎のバランスがとてもよく、魚臭さとアルコールっぽさが打ち消しあって、今まで飲んだどのお酒よりもすっきりとしている。おいしいっていうのとはまたちょっと違うけれど、この飲み方がアリかナシかと言われれば、大アリだ。


予想をいい意味で裏切られる味。 友人のこの顔から味を想像してください。

飲み会の席でずーっとこればっかりを飲もうとは思わないけれど、どんな酎ハイやカクテルとも似ていないこいつを、ウコン茶割みたいに途中の変化球として飲むには十分おもしろい存在である。

ほり川は、今日が取材じゃなかったら終電まで根を張っていたい、素晴らしい店です。


居酒屋ほり川
住所:焼津市西小川1-4-3おでん横丁
電話番号:054-626-0133
営業時間:17時〜25時
定休日:日曜日、連休は最後日が定休日
 
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