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はっけんの水曜日
 
「立ち退き」に遭うとどうなるのか

ずいぶん偉くなっていた

まずなぜ東京にいるんですか。

いやあ、安藤さん、お久しぶりです。今回、東京で写真の展示会をすることになったんですよ。今日の夜、レセプションがあるんですが、来ますか?

なんと。


展示作品の前で。「その場の匂いまでも感じる写真にこだわった」という彼の言葉通り、艶のある作品でした。

そう、写真家である中川さんはある出版社から写真の賞を頂いたのだとか。この賞の授賞式と記念展示会のために東京に来ていたのだ。

一年前は雨水使っていたのに。

 

一年前の記事を読み返すと中川さんはこう言っている

「生活費を抑えたらそれだけ作品作りに回せるじゃないですか。写真は金がかかるから」

確かに中川さんはかなり切り詰めた生活をしていたのだが、そうやって持てる力のすべてを写真活動に注いできた結果が今回の受賞につながったのだろうか。だとしたらこれはいい話だ。


今は東京で展示会なんてやっちゃってます。

「立ち退く」とはどういうことなのか

てっきり立退きに遭ってすべてを失ったのかと思いましたよ。

あ、でもそれは一部あたっていますね。前に住んでいたあの家は送った写真の通り更地になっています。でもあのおばあちゃんも悪い目にはあっていないはずですよ。

というと、やはり立退きに伴っていくらかの補償がなされたわけですか。

ええ、そりゃあ、ね。

彼は悪い顔で教えてくれた。


やっぱり人生一発逆転に興味がありますね。

まず去年の春頃、当時僕が暮らしていたあの部屋の間取りを市役所の人が確かめに来たんですよ。それでこの話は本物なんだ、って覚悟していたわけですが、でもそれから半年くらい連絡がなかったんです。

次に関係者がやってきたのは10月初めだったと思います。そのときにはかなり急いだ感じで「今月末までに引っ越しを完了させてください」って言われました。思うに家主のおばあちゃんにはかなり以前から具体的な話が出ていたんじゃないかなあ。僕の所には伝わってこなかっただけで。いないことになってたかもしれないです。その方がおばあちゃんは僕の借りてた部屋の分まで**できるでしょう。おばあちゃん、僕が引っ越す頃には笑顔で次に建てるアパートの完成予想図持ってましたから。


銀座を歩いて向かった先は。

かなりきわどい話ですが、具体的に補償というのはどの程度のものなのでしょうか。

ケースによるかもしれないんですが、結構きっちりした計算式があるみたいですね。目の前で計算してくれましたから。

まあ地域とかケースによっても差があるとは思いますが、僕の聞いた感じでは新しい部屋の取得にかかる金額はすべて出してもらえる様子でしたね。これは敷金、礼金から引っ越しのための運送費用、引っ越しのために会社休んだらその分の給料、それから引っ越しましたっていう挨拶状の代金まで、そりゃもうすべてが含まれます。実際は敷金も礼金もかからない物件に引っ越したわけですけど。

思った以上に手厚い。もちろん中川さんは部屋を間借りしていただけなので、実際にその土地を所有している人とは保障の内容も異なってくるのだろう。ちなみに「引っ越しました」なんてハガキは中川さんからもらっていない。


沖縄の物産館(わしたショップ)。やはりサーターアンダギーは外せない。

しかしこれだけでは実際に新しい物件を契約するときに使い切ってしまうのではないか。今のその余裕はどこから生まれたのか。

実はこれが大きかったんですが、僕みたいに平均よりも安いところに住んでいた人にとっては、引っ越しによって家賃が高くなるとその後の暮らしが圧迫されるわけですよ。

なるほど、それは確かに。また安いところ見つかるとは限らないですからね。

で、同地区の同年代の人が新しく部屋を借りる場合の平均的な家賃っていうのがあるみたいで、そこに越すことを前提として今までの家賃からの差額分を部屋の契約期間中、僕の場合2年なんですけど、前払いでくれました。このおかげで時計が買えました。

もちろんこれは賃貸に限った話だが、ここまでしてもらえるのならば、引っ越しの面倒さをひっくるめても悪い話ではないのかもしれない。

味をしめた中川さんは、この話が決まってから次に開発されそうな地区にある物件を探したらしい。そういうゴールドラッシュもあるのだ。


その提示された補償額ていうのには逆らえないわけですか。

一部まだ争ってる家もあるみたいですね。スナックが一件がんばってるって聞いてます。でも正直悪い話じゃないですからね、そんなに長引かないんじゃないでしょうか。

ということは漫画みたいに寝しなに***がブルドーザーでやってきて壊していく、なんてわけじゃないんですね。

そうです、逆にありがたかったくらいです。僕の場合ぶっちゃけ**万とかもらってますからね、ちょっとしたもんです。

レセプション会場は超満員でした。

 
その中に受賞者中川さん発見。 超大物と接触する若き写真家(常にぺこぺこしていたので顔が全部ぶれてしまいました)。

引っ越しして残ったお金はやっぱり写真につぎ込んだわけですか?それで今回の受賞につながった、と。

あ、いや、僕自転車買いました。あとずいぶん飲みにも行かせてもらいました。

あれ。

でももちろん今後の活動のためにと貯金もしていますよ。やっぱりまだ沖縄で作品を作っていきたいですからね。そろそろ仕事のためにデジタルも揃えなきゃって思ってるし。

女性と名刺交換もしていました。  

そういえば中川さんはいまだデジカメを持ってないですよね。

そうなんですよ、デジタル使わないですからね。でも今回の受賞の賞品がデジカメだったんで、ラッキーです。

今住んでいる部屋はオーシャンビューの2LDKなのだとか。

ええ、それでも平均的な家賃よりも安いです。一部屋まったくつかっていない部屋があるんですよ。嫁が来るといいんですけどね。あとはそこだけかな、かなえたいの。

今年はさらに精力的に活動していくらしいです。  


立退き、悲喜こもごも

あんな写真を送ってこられたのでてっきり無理矢理立ち退かされたのかと心配していたのだが、まったくそんなことはなく、とても平和に、むしろ歓迎すべきほどの好条件の下で、写真家中川さんは新しい生活を手に入れていたのでした

立ち退きに遭った場合、すべてのケースにおいてうまく事が解決するわけではもちろんないのでしょうが、あえてお互いに損をするような手順は踏まないようですよ。僕も今度引っ越す時には後に発展を遂げそうな地区を選んで、なんて安易に考えたら失敗しますよね。

今は洗濯物、ベランダに干せますから。

中川さんの写真が生で見られるチャンス。展示会は1月25日までです。受賞作品はこちらのサイトでも見られます。

写真集公募展受賞作品展覧会

〒151-0051
東京都渋谷区千駄ヶ谷3-56-6 B1F
リトルモア地下
1月10日〜25日 時間12時〜19時 月定休 入場料200円

 

 
 
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