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フェティッシュの火曜日
 
この店でいちばんすっぱい梅干しを頂戴。


 

各種梅干しがずらりと並ぶ店内

対応してくれたのは専務取締役、小磯さん

梅干し専門店へ

 餅は餅屋、梅干しは梅干し屋、だ。取材に応じてくれたのは、梅干し専門店「うめ八」さん。都内に4つの店舗があるのだが、今回は青山店におじゃました。

石川:個人的に、梅干しは『すっぱい』というより、『しょっぱい』イメージがあったのですが…。

小磯:どちらも正しいですよ。すっぱい味は、梅が持っている元々の味です。しょっぱい味というのは、塩漬けにするときに使う塩の味ですね。
梅干しの保存が利くのは、塩漬けで発酵の進行を止めているからなんです。

梅の元々の味!梅干しはしょっぱいだけでなく、たしかにすっぱいようだ。

石川:ここへ来る前にいくつか食べ比べをしてみたのですが、同じ梅干しを食べても『しょっぱい』と感じる人と、『すっぱい』と感じる人がいました。

小磯:人間の味覚として、酸っぱさとしょっぱさは混同しやすいのではないかと思います。ですから、塩分が強い梅干しを食べて「すっぱい」と感じる方もおられますよ。

 なるほど。世の中の梅干しが言われている「すっぱい」のうち何割かはしょっぱさのことなのかもしれない。逆に僕が「しょっぱい」と感じている味の中にも、すっぱさが紛れ込んでいるのだろう。これが、僕が「梅干し=しょっぱい」と思った原因か!

 

この店でいちばんすっぱい梅干を

石川:塩分が低い梅干しを食べれば、しょっぱくない、純粋な酸っぱさだけが味わえるのでしょうか?

小磯:そういうわけでもないんです。塩分がとても低い、減塩タイプの梅干しは、漬け終わった梅干しをあとから塩抜きしています。そのときに、酸っぱさも一緒に抜けてしまうことが多いですね。塩抜きしないでつくる梅干しは塩分12〜13%くらいが限界だと思います。

 くわえて、梅自体の酸味の強さも関係してくるため、塩分だけではすっぱいかどうか判断するのは難しいようだ。すっぱい梅干しへの道はなかなか険しい。

 そこで、企画再開。ここ、うめ八さんでも店で一番すっぱい梅干を選んでいただくことにした。そして出てきたのは…なんと4種類!


4つの梅干し、色もそれぞれ

 しかもこの4つ、さすが専門店だけあって、個性派ぞろいのラインナップであった。

 

今回の記事中、ベストすっぱいはこれ!

「氷見稲積梅」

 まずは、富山県産、氷見稲積梅。材料に酸味の強い品種の梅を使って作られた梅干しだ。塩分は13%。梅の実が固いのも特徴。

 一口食べて「しょっぱい!」と思ってしまったのだが、ちがう。これは酸っぱさだ。朝から食べ比べをつづけてもう味覚がかなり混乱してきている感があるが、これはたしかにすっぱい!僕の味覚でも、やっぱりすっぱい梅干しはあるのだ。

すっぱい理由:酸味の強い品種の梅を使用

酸っぱさレベル(石川):★★★★★


 

ちょっと違った酸っぱさ

「紀州しそ漬け梅」

 こちらは調味梅干しと呼ばれる製品。梅干しを一度、塩抜きした上で、その際に抜けてしまった酸味をリンゴ酢で補っているそうだ。

 食べてみると、たしかにすっぱい。しかし他の梅干しのすっぱさに比べるとすこし味が違う感じがした。

すっぱい理由:リンゴ酢で酸っぱさを補強

酸っぱさレベル(石川):★★★★


 

塩分控えめで浮かび上がってくる酸っぱさ

紀州南高梅「万葉梅」

 「万葉」なんてクラシックな名前が付いているけれど、ここ5年ほどでやっと商品化できた、最新の梅干しだ。ふつう、梅干しは塩分を12〜13%にしないと作ることができないのだが、特殊な製法でなんと6%で作ってしまったのだ。

 梅自体が極端にすっぱいわけではないのだけれども、ほかの梅干しよりもしょっぱさが少ないぶん、純粋に梅干しの酸っぱさを感じられる梅干しだった。個性的で、面白い。

すっぱい理由:酸っぱさを失わないまま、低塩分を実現

酸っぱさレベル(石川):★★★


 

しょっぱい!

「紀州白干し梅」

 そしてこちらは伝統的な梅干し。塩分18%。塩分も高いだけあって、やはり純粋にすっぱいというよりは、しょっぱさの強い味。同じ塩分18%ではあるが、前ページの小田原梅干しよりは攻撃的でない感じがした。

すっぱい理由:すっぱいというよりしょっぱい

酸っぱさレベル(石川):★★


 しかし、こうやって食べ比べてみると、本当にそれぞれ個性的だ。梅干しの味なんて、甘いやつ/しょっぱいやつ、くらいしか意識していなかったのだが、ずいぶんいろいろな味がある。

 特に氷見稲積梅の強い酸っぱさと、万葉梅の酸っぱさがよく見える感じ、この2つは今回の調査の中でもかなり興味深いサンプルだった。ここへ来て初めて、梅干しの酸っぱさってこういう味か!というのが実感できた気がする。

 すっぱい梅干し、見つかった!

 

前ページで登場したものは、小田原梅干しだけが梅干

南高梅じゃなかったのも小田原梅干しだけ!

すっぱい梅干しを見分ける3つのポイント

 最後に、読者のみなさんがよりすっぱい梅干しのを追求できるように、すっぱい梅干を見分ける方法を教えてもらった。ポイントは3つだ。

石川:すっぱい梅干を見分ける方法ってあるのでしょうか?

小磯:まず裏側にある名称の表示が、「梅干」になっているものが比較的すっぱいです。塩抜きしていたり、味を調えているようなものは「調味梅干」となっていまして、過程で酸っぱさが抜けてしまうことが多いですね。

ポイント1:名称「梅干」を選べ

小磯:それから一概には言えませんが、固めの梅干しを選ぶといいかもしれません。梅は青いうちの方がすっぱいのですが、青いうちに収穫して漬けた梅干しは固く仕上がるからです。

ポイント2:固い梅干しを選べ

小磯:梅の品種も関係がありますね。梅は桃やあんずに近い仲間で、交配するとあまりすっぱくなくなることもあります。人気のある南高梅は、比較的すっぱくない品種ですね。逆に、昔からある、原種に近い梅は酸味が強いように思います。

ポイント3:南高梅はすっぱくない

 すっぱい梅干を食べたければ、名称が梅干で、固くて、南高梅でない商品を選べばOKなようだ。

人間の味覚のあいまいさ

 というわけで、すっぱい梅干はあった。梅干しはしょっぱいだけではなく、確かにすっぱいのだ!

 そして、人間の味覚とはあいまいなものだった。梅干しの話をするとき、みんなが「すっぱい」と名づけたあの味、そこに少なからず「しょっぱい」が紛れ込んでいると思うのだ。

 そして僕は僕で、しょっぱい梅干しの奥にある「すっぱい」を、たぶんずっと「しょっぱい」の中に紛れ込ませてしまって、見落としていたのだと思う。今回、自分の舌で梅干のすっぱさを体験したことにより、これからはもっと梅干のすっぱさに敏感になれると思います。

 梅干しは、すっぱいし、しょっぱい!

 

取材協力

 梅干し専門店「うめ八」

https://www.umehachi.com/

 

 

 
 
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