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はっけんの水曜日
 
あんこうの吊し切りをやってみたい

あんこうをばらしていく

床をきれいに掃除したら(この工程は普通いりません)、次は吊るしたまま包丁でばらしていく。

ばらすといってもニトリの組立家具のように親切な説明書があるわけではないので、勘を頼りにとりあえず切りやすそうなヒレから落としてみる。

あんこうの骨は軟骨なので、柔らかそうな場所を選べば問題はない。


フニャフニャのあんこうだけど、吊るされていると重力とかのあれで切りやすいですよ。

 

アン肝を取り出す

次にチャレンジするのが、文字通りあんこうの肝であるアン肝の取り出し。文字通りというか、ただのダメな日本語になっていますね。

たぶん腹側を切れば肝にたどりつくだろうと思うのだが、口から入れた水がビショーって出ないか心配だ。

恐る恐る腹の上部を横一文字に浅く切ってみると、なにやらいろいろな部位が詰まっている様子が見えた。


水が詰まっているのはあくまで胃袋らしく、腹を切っても水は飛び出てこなかった。

おっかなびっくり取り出した腹の中には、なにかが詰まった腸っぽい部位、みるからにうまそうなアン肝、そして水が詰まった胃袋が入っていた。

このうち腸は食べられなさそうなので捨て、アン肝だけを大切に取り外す。胃袋はとりあえずそのままで。

七つ道具にある卵巣らしき部位は、まだ小さいあんこうだったからか、どこなのかわからなかった。


腸がかなりのインパクトなので、ここは引いた写真をどうぞ。 これがアン肝。ちょっと小さいけれど、あきらかにうまそうな色つや。

 

エラや身を切りはずしていく

ここまでくれば、あとは包丁でばらしていけばいいだけのはず。フィーリングであご下に包丁を入れてエラがついた部分を切り離していき、中骨についた身を切り取る。


どっから切ったらいいのかよくわからないが、どっから切ってもどうにでもなる。 ようやく身の部分にたどりついた。

身をとったあとの中骨部分は本来捨てる部分だと思うけれど、たっぷりと身が付いてしまったので、これも切り取って鍋に入れることにした。きっといいダシがでるはず。

これで残ったのは頭と胃袋のみ。


胃袋に水が入っているのがよくわかる。

この残った胃袋も食べる部分なので裂いてみる。噂だと中に海鳥などが入っている場合があるらしいのだが、捌いたのが小型のあんこうだったので、中からはアンチョビ状態になった小魚がたくさん入っていた。写真自粛。

こいつはこの小魚を自分の頭についた竿と疑似餌で釣ったわけか。自分が釣った魚だけで生活しているなんて、やるなあんこう。

 

あんこうの八つ道具が手に入った

最後に残った頭も少しは身がついていたので、私の皮膚を切り裂いた危ない歯が付いている顎以外は、結局食べられる方に分類してしまった。


そして顎だけが残った。今見るとこの顎の肉すらもったいない。食えばよかった。

肝、皮、身、胃、エラ、ヒレ。そして卵巣の代わりに頭と中骨。七つ道具が八つ道具になってしまったが、無事あんこうの吊るし切りが完了。

こんなことができる自分ってすごいなとちょっと思ったが、すごいのは自分じゃなくてあんこうのつるし切りっていう文化ですね。ぷよぷよぬるぬるしたあんこうを水でふくらまして切りやすくし、一つ一つの部位を剥がしていくように切っていくことで、胃や腸を傷つけて肉に臭みを広げることなく、合理的に捌いていくことができる。

199X年、「北斗の拳」という漫画で、主人公のケンシロウがハート様というお腹の柔らかい敵キャラに対して、北斗柔破斬という技で撃破しました。

あんこうの吊るし切りは、そんな北斗神拳の奥深さを思い出させます。


敗れたハート様。いや、捌かれたあんこう。

 

臭みをとるため湯通しをする

さて捌いたあんこうは、もちろん鍋で食べることにする。

身だけでなく胃袋やらエラやらの臭みがありそうな部位も全部食べるので、いきなり鍋に入れないで、熱湯で色が変わるくらい湯通しをする。そして流水でゴミやぬめりを取り除き、一口大に切り分ける。


湯通しをすると、ダシが出ちゃってもったいない気がしますが、臭いと困るのでやっぱり湯通しします。 この干しシイタケみたいなのは、湯通ししたあんこう一匹分の皮。予想以上の縮みっぷり。

パック詰めのあんこうだと、手にとってもどこがどこなのかチンプンカンプンなのだが、自分で捌いたあんこうだと、一つ一つの部位がどこなのかがばっちりわかるので、料理するにしても楽しい。


おれ、どこがどこの部位だかわかるんだぜ。

 

あんこう鍋を作る

あんこうを竿立てに吊るしてから一時間半。ようやく下準備ができた。あとは鍋にするだけである。

あんこう鍋というと、肝を炒って作るドブ汁が有名なのだが、ドブ汁を作るほど肝が大きくなかったので、普通の寄せ鍋風にしてみた。

あー、記事を書いていても腹が減る。

鍋が煮えたら、小皿にとったポン酢に貴重な肝を溶かし、そのタレであんこうの各部位を楽しむ。文句なくうまい。どの部位も臭みが一切ない。

身の部分は柔らかくホロホロとした上品な歯ごたえ。胃袋や皮は弾力がありプルップル。ヒレや骨の周りはゼラチン質でトロットロ。


肝を溶いたポン酢だけでご飯三杯食えます。 こういう骨の周りの肉が全部うまい。捨てなくてよかった。

すべての部位で食感が違い、そしてすべての部位がうまい。その出汁を吸った野菜までうまい。

今日買ってきたあんこうがいいやつだったからか、自分がさばいたあんこうだからか、単に夕飯が遅れて腹が減っているからか。

それらの要素が重なって、今日の鍋は今までに自分が作った鍋、いやお店で食べた鍋を加えて比べてみても、一、二を争ううまさに仕上がっている。ついこの前、水炊を作った時にも同じことを思った気もするけれど。

わりと食事で感動しやすいタチなのだ。


しゃぶり終えた骨。

楽しいよ、吊るし切り

あんこうの吊るし切りっていうのは、実際やってみると、皮を剥くにも身を切るにも、フニャフニャしたあんこう相手にはとても有効な方法であることが実感できます。まな板の上だったらここまでうまくできなかったでしょう。すごいぜ日本の食文化。

個人的な感想としては、あんこうはうろこもないし、タイとかヒラメをちゃんと捌くよりも、よっぽど簡単にできます。もちろんプロの料理人の「できる」というレベルではなく、「プラモデルを組み立てられる」とか、「縦列駐車ができる」といったレベルでの「できる」ですが、それでも十二分においしいです。

あんこう鍋は「ごちそう」を作っている気分に浸れるちょうどいい難易度なので、冬の恒例行事にしようと思います。次は一万円のあんこうだな。

仕上げは雑炊。あんこうのゼラチン質が溶け込んだスープがうまいんだ。

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