新学期が始まり、学校で健康診断があったので重い腰を上げ学校へ向かった。
いざ行ってみると、尿検査があったことをすっかり忘れていて、 「尿検査を忘れた人は、今週中に届けてください。出さないと健康診断書の発行ができません」というプリントを渡された。
健康診断書を人質に取られた形で、尿を提出するためだけに登校するという使命が僕には課せられたわけである。
検尿を届けるために走れ、メロスのように!
(text by 藤原 浩一)
健康の持ち腐れ
僕は激怒した。必ず、尿を提出しなければならぬと決意した。
すっかり個人的な話で申し訳ないが、今回はそういうことなのでお付き合い願いたい。ミッションはこれを届けることである。
ゴミ袋みたく透明だったら嫌である
普通なら検尿容器は、健康診断で問診をしたりレントゲンを撮ったりするついでに提出すればいいものなのだが、僕はそれを忘れてしまった。
後日の検尿容器の提出期間中には、学校には特別な用事はないので、僕はこれを提出するためだけに学校に出向かなければならない。たったそれだけのためにわざわざ学校まで足を運ぶのは、大変面倒である。
かと言って、やらないでいると健康診断書が発行されない。まさに人質をとられた状態だ。
満タンに入れてしまった
そもそも、多少慢性的な疲労感はあるものの、僕はだいたい健康である。尿というものさしで僕を測ってほしくない。むしろこんなことで僕を疲れさせないでほしい。
そんなことを考えて検尿の提出からエスケープしようとしたのだが、
「そうやって君はいつも言い訳ばかりだ。何もしてないのに『もう疲れた』って、いつ疲れたんだ。君には疲れる権利がないんだよ」
という内なる邪知暴虐の王の声がしたので、ちゃんと届けることにした。走れ、メ尿ス(メニョス)!
走れ! メニョス!
勢いよく電車に飛び乗る。自力で走ったら間に合わない。締め切りは18時半。奇しくも日没に近い時刻である。
学校までは電車で一本なので、こうなってしまえばあとは余裕である。ぐうたらしていたせいで最終提出日になってしまったが、締めきりの時間まではだいぶ時間がある。そんなに急ぐ必要もない。
ちょっとゆっくりしてもいいだろう
ぶらり途中下車
大丈夫大丈夫…と、思いきや、つい尿の重みに耐えかねて、僕は道半ばの池袋駅で途中下車してしまった。「尿の重みに耐えかねて…」というのはただ書きたかっただけだが、やはり面倒なのも事実である。
ここの子になろう
池袋のビックカメラで、カメラやテレビ、パソコンなどをなでまわしていると、一生ここにいたい、とも思う。だが、ここを安楽の地にしようとする僕に、再び問いかけの声が聞こえてくる。
「他者と競争することで輝きを放つ製品達を前にして、お前はこのままでいいのか? お前もそうありたいと思わないか?」
そうだ、尿を学校まで輸送するというミッションがあった。目的を遂行するために僕はわが身に鞭を打ち、再び走り出した。
こんなことしてる場合ではなかった!
僕は、尿を提出する。尿を学校まで運ぶために走るのだ。まだ時間はたっぷりとある。
走れ、メニョス!