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ロマンの木曜日
 
24時間365日、中和される川

中和しながら流れる川

群馬県を流れる利根川支流の吾妻川、そのさらに支流に湯川と名づけられた川があります。

この川は、有名な草津温泉をはじめ、白根山麓から湧き出る強酸性の温泉が大量に流れ込むため、昔から生物の棲めない「死の川」と言われていました。

しかし、「死の川」を「生の川」にするべく、湯川は現在、年中無休24時間営業で川の水が中和され続けているのです。

萩原 雅紀



中和の方法

強酸性の弊害は生物だけでなく、湯川が合流したあとの吾妻川は水道水や農業用水として利用できなかったり、金属やコンクリートを溶かしてしまうため橋脚や堤防が造れないなど、どうにも利用できない「リアル三途の川」状態でした。

そこで、酸性化最大の原因である湯川を中和することになったのですが、酸性を中性に持ってくるために採られた方法はアルカリ性のものを川に投入し続けるという、シンプルかつ剛胆な方法。

強いアルカリ性で、常に川に投入し続けられるほど大量に生産できるものとして選ばれたのは、石灰でした。


草津温泉街の中に建つ石灰を入れるサイロ 内部が見られると聞くとつい見てしまう
流れてくる湯川、透明でキレイなのだが釘とか溶かす そこで休みなく石灰を投入!

なかなかショッキングな光景だったので大きい画像でどうぞ

 

中和を体験しよう

石灰を投入されたことによって白濁しながら流れて行く様子が、この記事いちばん上の写真です。

さて、湯川は中和反応しながら下流に流れていくわけですが、流れつく先はひとまず置いておいて、石灰を投入している「草津中和工場」には、「環境体験アミューズメント」という、何とも遠まわしで歯がゆいネーミングのPR施設が併設されています。

ここで、実際に湯川の中和前と中和後のpHを計れるということで、さっそく体験してみましょう。アミューズメント!


pH試験紙は無料でもらえる 湯川の水辺に近づける場所がある
備えつけられたカップで水をすくって pH試験紙をつけると…

すげえpH1と2の間!超酸性!

見た目には何の変哲もない、むしろ透明で奇麗な川なのですが、水をすくうために川岸に立つと硫黄の匂いが鼻をつきます。また、温泉が多く流れ込んでいるだけあって、試しに手を入れてみると、ほんのり温かさを感じました。それにしても目の前を流れる川がこんなにも強酸性だったなんて。

それでは次に、ここに石灰を投入してpHがどうかわるか見てみましょう。アミューズメント!


川に投入される石灰が一部引かれている 「ひしゃくで」と書いてあるのになかった
仕方ないのでダイレクトにイン! pH試験紙をつけると…

ほとんど5と言っていいだろうか

まだ若干酸性が残っていますが、石灰投入前に比べれば確実に中和されているのが分かります。もう少し時間が経てばほぼ中性になるでしょう。

そういうわけでこの下流には、水の流れを緩やかにして中和を完全なものにするための施設があります。つまり、中和のためのダムがあるのです。もちろん見に行きました。

 

中和用ダム

湯川に沿って少し下流に進むと、入浴剤を大量に投入したような色の湖が現れました。


バスクリンを連想させるダム湖

ここが、中和そ促進して中和生成物を沈殿させ、水を浄化している品木ダム。下流には、中和が終わって中性に近くなった上澄みの水だけを流しているそうです。また、中和に伴って生成された物質は沈殿してどんどん底に貯まるので、定期的にすくって容量を確保しているとのこと。

強酸性であるが故に効能も抜群で日本有数の名湯となった温泉は、こうして、ものすごく手間ヒマかけて下流に流すのに適した水に変換されているのでした。


この取水口から上澄みが流される 役割は別として、下流から眺められないのでダム好きから見ると魅力はイマイチ

 

pH試験紙が余った

レポートとしてはこれで終わりですが、pH測定がけっこう面白かったのと、アミューズメントでもらったpH試験紙が余ったので、家に帰ってから目についた液体のpHを測定してみることにしました。


3枚余った もったいないので縦に切って6枚にした

まずは金魚を飼っている水槽の水。さいきん忙しくて水換えをサボっているので、水質が極端に傾いていたら金魚に申し訳ないです。


エサじゃないよ ほとんど中性と言っていいでしょうか

次は夕食に作った味噌汁。味噌汁がアルカリ性なのか酸性なのか、そういえば考えたことありませんでした。うかつでした。


具に影響されたりするでしょうか(油揚げと長ねぎ) しかしふつうに中性

そういえば、自分の唾液はどうでしょう。僕は虫歯になりやすいので、酸性だったりしたら興味深いのですが。


ところでこれ口に入れても大丈夫なのだろうか どちらかと言えばアルカリ性、という説明不能な結果に

ネタ的にもそろそろ劇的な変化が欲しいので、確実に酸性に傾くであろうコーラを試してみます。


これよりうまい飲み物はないと断言する pH2!湯川とほとんど同じ!

しまった、コーラに石灰を入れて中性にする実験とかしてみればよかった。

続いて、飲み物繋がりでたまたま台所にあった白ワインはどうでしょう。


酸っぱいから酸性、とかそう簡単な話なのかな やっぱり若干酸性!ふーん、ふーん、ふーん

最後の1枚は、前から気になっていたものを測ってみたいと思います。

シャンプーや石けんはよく「弱酸性」というキーワードが出てきますが、あれは本当なのか。わざわざ弱酸性を謳ったボディーソープを買ってきてみました。


そもそも試験紙は反応してくれるのか 本当に「弱」酸性でした!

インフラの底力

今まで僕はさまざまなインフラ施設を見てきましたが、「水質を都合のいいように変える施設」という、一見地味だけどその効果たるや計り知れないものを見つけて、ああやっぱり多くの人間がこの狭い土地で現代的に暮らすためのインフラは凄まじいなあ、と感慨を新たにしました。だって川の血液型を変えちゃうような大変化ですよね。

これによって、吾妻川では発電もできるようになったし水道用水や農業用水として使うことができるようになりました。もちろん魚も暮らせるようになったようです。そして、ダムを造ることもできるようになり、今まさにその工事が行われているのですがそれはまた別の話なので別の機会に。

新しくできるダム湖を跨ぐ橋があんな高いところに

 
 
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