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その存在は知っていても、実際に見た事もさわった事ない物。その筆頭としていつも僕の頭の中にあるのが五右衛門風呂だ。いや、筆頭というのは言い過ぎかもしれない。エジプトのピラミッドとかアンコールワットとかサグラダファミリアとか、世界に目を向ければ一度はこの目で見ておきたい物が沢山ある。


ピラミッド

アンコールワット

でも、どうだろう? それらの世界遺産を間近で見たところで、「ああ、これがピラミッドかぁ」と感心して終わりだと思う。お湯を満たして浸かることは出来ない。五右衛門風呂はそれが出来るのだ。

五右衛門風呂

いつかは入ってみたい。

そんな僕のアンテナが「五右衛門風呂」の看板をキャッチした。
早速入りたかったのだが、その場所には少々問題があった。

(text by 住 正徳







愛と哀しみの五右衛門風呂

「五右衛門風呂」の看板を渋谷の円山町で見つけた。円山町はラブホテルの密集地帯で、カップル達が「休憩」したり「宿泊」したりするために集まる場所である。そんなカップル達の休憩場所の1つ、Beat WAVEというラブホテルの中に五右衛門風呂があるらしいのだ。看板に「五右衛門風呂」と書いてあった。

なぜ見つけたのかというと、僕の事務所から渋谷の南側に行くには円山町を抜けるのが近道だからである。「休憩」とか「宿泊」する場所を探していた訳ではない。

とにかく、憧れの五右衛門風呂がすぐ目の前にあるのだ。

しかし、そこはラブホテル。フラッと入れるような場所ではない。1人で入る訳にもいかないし、かといって知り合いの女性にお願いするのも難しい。「五右衛門風呂に入れるんだよ」と爽やかに誘ったとしても、最終的にラブホテルに連れて行くことになるのだ。きっと怒って帰ると思う。そして、僕のあだ名は「五右衛門」になるだろう。「五右衛門風呂」かもしれない。

ああ困った。




1人で行くしかない

五右衛門風呂と陰で揶揄されるのは耐えられない。だったら1人で行くしかないだろう。1人で行ってフロントで止められたら正直に思いを伝えるしかない。

「僕は五右衛門風呂に入りたいだけです」

と。

意を決して、円山町へ向かった。

夕方以降は幸せなカップル達で賑わってしまうと思い、お昼過ぎの時間帯を狙った。


ホテル「Beat WAVE」

五右衛門風呂(305)

この看板を見つけた時は、その場で立ち止まる事が出来なかった。改めて見ると「(305)」と書いてあるのが分かる。つまり、全室に五右衛門風呂がある訳ではなく、305号室にだけ五右衛門風呂が設置されているのだ。

競争率が高そうである。
305号室は空いてるだろうか?

クネクネと曲がった廊下を抜けて急いでホテルの中に入る。外を歩く人たちに見られたくないという気持ちと、305号室が埋まってるんじゃないかという不安から、かなり急ぎ足になっていたと思う。

フロントの前には部屋の空き状況を知らせるパネルがあった。


廊下を抜けてホテルの中へ

部屋の空き状況を伝えるパネル

パネルを見て驚いた。305号室はおろか、空いてる部屋が2部屋しかない。この時の時間は午後2時過ぎ。平日の昼間から「休憩」しているカップルがごっそりいるのだ。100年に1度の不況と言われているのに、だ。

思い切ってホテルに入ったのに、305号室は使用中である。

フロントの人にどれくらいで空くのか聞こうと思ったが、フロントに人の姿はない。代わりに電話が置いてある。用がある人は電話で用件を伝えるシステムになっているらしい。


フロントに電話で問い合わせる

電話はすぐに繋がった。

「五右衛門風呂の部屋は何時頃空きそうですか?」

と聞いてみた。電話口の男性は少し困ったような声で「何とも言えません」と答えた。11時から19時までは「サービスタイム」という時間帯で、3800円出せばその間ずっと「休憩」出来るらしい。ってことは、19時には空くという事だろうか?

「いや、19時になる前にお客様がチェックアウトされて、次のお客様が入ることも考えられますので…」

更に困った声で男性が答えた。
予約は出来ないのだろうか?

「予約は受け付けておりません」

何時に空くかも分からず予約も出来ない。早くも八方ふさがりである。

電話口の男性と相談の結果、しばらく待合室で待たせてもらう事にした。305号室が空いたら知らせてくれるという。

待つことにした。





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