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ロマンの木曜日
 
LIVE IN USA!はこんなに大変

全米デビューしたいあなたも必見!

 スポーツや音楽をテーマにした漫画でとりあえず日本一になって、「次はアメリカだ!」(イギリスやブラジルでも可)「俺たちの闘いはこれからだ!イエー!」第一部完!てな展開がよくある。そして雑誌だと次号、単行本では数ページ後には「ここがアメリカか‥(摩天楼やらスタジアムやらを前に立ちすくんで)」みたいな。

しかし、実際は海外で試合やライブをやるのは簡単じゃない。飛行機のチケットも取らなきゃいけないし、行く先に連絡のひとつもしてかないと。そんなリアルな事をつい考えるようになったのも、ミュージシャンの友人が海外の音楽フェスでライブをした話を聞いたんですが、それがもうとにかく大変なのです。俺なら途中で心折れてます、正直。

大坪ケムタ



最初の壁はやっぱり言葉とお金

今回取材させてもらったのはトロンボーンビキニギャルバンド・太ももサティスファクション(以降「太もも」)のすず奴さん。正式には元・太もも。以前「3分でインタビュー」の時にも出演してもらった方です。


見るからに刺激的な太ももサティスファクション。フロント3人の中央がすず奴さん。

宣伝用に作られた英語版チラシ。

チラシ見てわかるとおり、彼女が率いる太ももサティスファクションはビキニ着込んだトロンボーン使い三人衆率いる、ロックでボッサでファンキーな音で踊らせる唯一無二のガールズバンド。残念ながらもう解散してしまったんですが、その辺は話の中に。

彼女らが出た音楽フェスというのは、今年3月にアメリカはオースチンで開かれた「サウスバイサウスウエスト」(以降「SXSW」)という既に開催から20年を越える老舗フェス。ただし、フェスといっても日本のフジロックフェスティバルやサマーソニックのようなものとはちょっと方向性が違う。


「世界中から1000バンド以上集まる、見本市みたいな感じのフェスなんですよね。だから来るお客さんもレーベルの人とか音楽事務所の人とかで」

−−世界中から売りこみたいバンドと、青田買いしたい人達が集まるけだ。

「そうですそうです。だからチケットがすっごく高いんですよ!当日料金だと通し券が695ドル。ただ音楽フェスは5日間くらいで、あとフィルムフェスとかもついてくるんですけど*1

−−約7万円かあ‥。ギョーカイ料金だなあ。

「ただステージも多いんですよ。町中のライブハウスもそうだし、普通の店が勝手にライブハウスみたいになるんです。100くらい‥あるのかな?HPに出てるだけじゃなくって。*2

−−結構日本の有名なバンドも出てたりするんだよね。くるりとか氣志團とか。

「あとPE'Zとか。*3ただ、レーベルに所属してると『レーベル枠』みたいなのがあるんです。でもどんなバンドでも一応応募は出来るんですよ」

−−あ、申し込むだけなら。

「できますよ。でも、その手続きをやり届けられるかどうかが試練なんですよ!」

*1:ちなみに2009年のSXSWは「Interactive:3月13日〜17日、Film:3月13日〜21日、Music:3月18日〜22日」の9日間。

*2:公式サイトに載ってる分だと音楽フェスだけで73会場。

*3:太ももと同じ2009年はグレイプバイン、スパルタローカルズ、SA、浅草ジンタなどが出演。


詳しくはキチンと成り立ちや意義まで日本語で書かれたSXSW ASIA Representativeを読んでみてください‥って日本語公式があるなら先に紹介せえ、っつー話ですが。

しかし実際アメリカで演奏となると、なんでも「日本語版」があるほど甘くはない。出演までの「試練」、それはまず英語力。そして何はともあれ先立つものといえばアレだ。


−−あらためて出ようと思った理由は?

「まず昨年太ももを解散するって話になったんですよ。バンドに対する姿勢のズレみたいなのがあって。それで解散ライブやろうって話になったんですけど、それとは別にアメリカでやれるんなら出たいよね、って話になって。ダメもとで応募してみたと」

−−解散記念の卒業旅行みたいな。

「普通はプロモーション目当てで行くんですけどね(笑)。そしたら合格して。でもね、メンバーと言ってたんですけどたぶん合格はいっぱい出してるんじゃないかな。そこから手続きをやり届けられるバンドだけがたどり着けるんじゃないかと」

−−そのくらい色々大変なんだ。

「お金もかかりますしねー。かかった費用聞きます?」

−−それは知りたい!

「今回参加したバンドメンバーが8人で、一緒に行きたいってお客さんが1人の計9人だったんですけど、それだけの旅費やビザ代とか全部含めて170万円くらいかかりました」

−−うわーー、高い!ちなみに出演料ってのは‥。

「250ドルか、メンバー全員の通し券か、ですね。どっちにしろ赤字ですよ(笑)」

−−2万5千円か‥。もちろん交通料なんて出ないよねえ。見本市で宣伝する側だとはいえ、費用かかるなあ。

「私たちは人数が多いんで、もちろんチケットにしました。自分の出演する日以外はチケット買わないと見れないので」

−−やっぱりお金はロックの天敵ですね‥。


ちなみにすず奴さんの普段の仕事はOL。一般的には「本腰入れたバンド活動」=「時間の自由なフリーター」、という印象がある。しかし今回の場合、彼女にある程度の安定収入があったからこそアメリカ行きが叶った、というのが現実だろう。

彼女と太ももはただ手元にお金があるから渡米できたわけでなく、これまで睡眠時間を削りまくってOLとバンド活動の両立を果たしてきた。そして今回の渡米ではより一層ハードに削り倒して。


普段はきれいなお姉さんOLですよ。

−−それでSXSW事務局から出演許可が出て次にやることは?

「それでSXSWのアジア事務局が渋谷にあるので相談してみたらビザ(入国許可申請証明)をとらなくちゃいけないと」

−−今アメリカは観光ならビザ無しで行けるけど、お金稼ぐ以上はアーティストビザが必要になるわけだ。

「それで事務局から『米国移民局からビザ発行許可証を出してもらわなきゃいけない』って説明を受けたんです。それで移民局に出す書類を作るためにニューヨーク在住の弁護士を紹介されたんですけど、その人から『バンドの資料が必要だ』と言われたんですよ。それで用意しなくちゃいけないのがバンドのバイオグラフィとディスコグラフィ、それとライブ経歴。あとCDレビューの記事とライブレビューの記事それぞれ10本ずつ。それを英訳して送ってくれ、って」

−−英訳まで!二つ目の壁だなー。すず奴さんは英語は?

「全然ダメっすよー、学校で習った程度で。でも『記事そんなに書かれてないよー』って思ってたら『ブログでもいいですよ』って」

−−その辺はいい加減だなあ‥。

「でも、後になって『やっぱりブログじゃダメ』って言ってきたりして、何度も心折れかけましたけどね‥」


これが資料用バイオ&ディスコグラフィ。
トロンボーンビキニガールズバンド!

年末休暇中に徹夜して資料を作り、さらに年明けに弁護士からダメ出しされて仕事と平行しながら追加資料制作。さらにリハーサルのために朝早く出勤して仕事を済ませる‥ワーカホリックどころじゃない。

お金と英語、ふたつの壁。しかもかなり高い壁‥。人気ロック漫画『BECK』でも途中で主人公らのバンドがアメリカツアーに行っちゃいましたが、実は「みんな趣味が貯金でTOEICは800点台」とか裏設定があったんだろうか‥。ロックじゃねえなあ。でもこれが現実!


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