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はっけんの水曜日
 
さようなら、80歳のケーブルカー

終点にあったものは

一人怯える僕を乗せ、ケーブルカーは約6分で終点の駅へと到着した。といっても始発駅と終着駅しかないのだけれど。


到着です。

着いた。

着いたのだが、やはり一人だ。

・・・。

ケーブルカーはとてもプリミティブな作りになっていて、ドアを開けるのも閉めるのもセルフサービスなのだった。

看板に沿って旅館を目指すことにする。


恐る恐るドアを開けると。
看板が行く先を教えてくれます。

周りはとにかくいい景色。
あの橋の向こうにあるのが旅館です。

今回はケーブルカーの取材なので詳しくは紹介しないが、終着駅から旅館までの道のりが絶景すぎるのだ。100枚くらい写真をとってしまった。花が咲き清流が流れていてところどころに温泉が湧いている。どこだここは、桃源郷か。


やさしい時間が流れていました。

旅館は気後れするくらいに立派だった。たたずまいからしてかなりの年代を感じるのだが、細かいところまで丁寧にメンテナンスがされているためか、古さを見事に魅力に変えている。

今回、ケーブルカーについてお話を伺った稲葉さん。頂いた名刺を見たら総支配人と書かれていてまた縮こまる。


総支配人の稲葉さんにお話を伺いました。

モノレールに変わるのだそうです

支配人にケーブルカーについてお話を伺った。

--今のケーブルカーは5月いっぱいで引退してしまうと聞いたのですが。

そうなんですよ。6月1日から7月15日までの間に新しい車両に変わることになります。具体的にはモノレールになる予定ですね。

総支配人の稲葉さんはケーブルカーについての詳細な資料を手に説明してくれた。


80年分の歴史がこの中に。
松本清張の小説の舞台になったこともあるのだとか。

建設当時の写真。車の形が歴史を語る。
こちらはケーブルカーの線路脇に「ケーブルカー」とうまく書いたのは私です、という職人さんからの手紙なのだとか。主張がよくわからないが貴重な資料ではある。

聞けばこのケーブルカー、以前はこの一帯に広がっていた自然公園の散策用に使われていたものだったとか。80年前に敷かれた線路は今でもそのまま使っているのだが、車両は安全面を考えて何度も作り直されて今に至る。あのかわいらしい車体も実は何代目かのケーブルカーなのだ。

80年間の歴史と一緒に走ってきたケーブルカーが引退するということに従業員の皆さんは寂しさを感じていないのだろうか。

もう毎日乗っていますからね。やはり愛着はありますが、今は新しい車両への期待の方が大きいですかね。

車両は当初、近未来的なデザインも考案されていたというが、結局は周りの景観との兼ね合いを考え、レトロな丸形のものになるのだという。

レトロな形の「渓谷電車」という車両になるんですよ。今のケーブルカーで8人乗りだったところが渓谷電車では20人乗りになります。そのためこれまでのように随時走らせる分けにはいかなくなりますが、今度は時刻表に沿って運転することになりますね。

当初はガラス張りのエレベーターに電動自動車、という案も出ていたらしいのだが、確かにこの風流な景色にぴかぴかした新しい物は似合わないような気もする。

ここからは旅館の中を案内してもらいながらお話を伺った(僕が見せてくれと言ったから)。


敷地内には滝もある。

館内はどこもかしこも一級だった。

上の写真の滝は客室の窓から見た景色。滝があるのだ。これからの季節、夜、灯を消すと蛍の飛ぶのが見られるのだという。


離れのお部屋には。
専用の露天風呂が付いています。

いい旅館だ。できることならこのまま温泉につかり、一泊してから帰りたいところだ。で、なにしに来たんだっけ。

そうだ、ケーブルカーの話だった。

あんな趣のある車両を引退させるのはやはりもったいない気がするのだがどうなのだろう。なにせ旅館のシンボルなのだから。

ケーブルカーがこの旅館の売りというのは確かですね。しかし今回の引退はお客様の安全面を一番に考えた結果ですから、仕方のない部分もあります。


この待合室も一新されるのだとか。

今のは構造が単純なのですが、なにしろメンテナンスが大変なんですよ。線路内に木の枝が落ちていないかとか、毎朝足で歩いて確認しています。雪が降ったら除雪しないとだめですし、気温によってケーブルが伸び縮みします。あまり伸びすぎると危険ですので、その都度長さを詰めたりしています。ケーブル自体も2年毎に交換していますね。


進む老朽化を人の手で遅らせてきたのだ。

帰りももちろんケーブルカーで上まで上げてもらうことになる。今回は従業員の方がいたので一緒に乗せてもらうことにした。

お客様のためには随時、従業員のためには15分に一度の頻度でケーブルカーを動かしているのだという。朝6時から夜は11時頃まで、多い日には60回以上も運転するのだとか。ケーブルカーは名実共に旅館の生命線なのだ。


制御室へ電話をして発車をお願いします。
知れば知るほど愛着が沸いてくる車両です。

 

 

 


 
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