夢の超特急といえば新幹線のことである。ところで最近、たまにではあるがジョギングをしている。スタミナや筋肉が少しずつついてきた気はするのだが、困ったことに足腰の痛みを伴っている。思うに、ジョギング用のシューズではなく、日常履いていた底の薄いスニーカーでコンクリートの硬い路面を走っていたのが原因のようだ。 さて、身体へのダメージを無視してジョギングをつづけるのはよくない。だが、それなりのシューズを買おうとすると、どうも結構いい値段になってしまう。いま持っている底の薄いスニーカーになんとか工夫をして、衝撃をやわらげてくれるランニング用のシューズに改造することはできないだろうか。あくなき挑戦の記録を、ここに公表する次第です。 冒頭の新幹線はなんの関係もないです。
(櫻田 智也)
おいしいところがいい
平日、会社にいくときに履いているスニーカー。セール品で二千円そこそこの値段で買ったものだ。
そもそもマラソンのためにつくられた靴ではないので、腰が痛いのはこの靴が悪者なのではない。
底に厚みをつけよう
大切なのは靴底だ。ちゃんとしたマラソンシューズは、ゴムだとか衝撃を吸収するための素材だとかが靴底でふんだんに使われているのだ。きっと。
そこでまずは、単純にスポンジ系の素材で底に厚みをつけてみることにした。ゴムのはげちゃってる踵の部分とか、隠してあげたいし。
これを靴底の形に切り抜いてはってやる。じつに造作もないことである。
さっそく作業に入ろう
靴の底にあわせてシートを切り抜く。
さて、これを靴にはりつけるわけだが、どうやってはろうか。
ここは不退転の覚悟で瞬間接着剤を手に。ぼくの身体のために、慣れ親しんだスニーカーと決別をする。さらばペプシ。
おもえばこの靴を磨いてやるなんてはじめてのことだ。「元気だったころにもっと旅行とかつれていってあげればよかった」昼間っからしんみりとした気持ちで靴を拭う。
接着剤を適当に塗り、スポンジシートを底に重ねあわせる。寝起きの靴職人はそれを慣れた手つきで、とはいってもその丁寧な仕事には一片の慢心も油断もなかったわけだが、ぴったりとはりつけていった。
走ってみる
さて、たった1枚シートをはっただけだが走り心地はちがうのだろうか。いつも走っている場所にくりだしてみた。
さっそくいつもの感じで走ってみる。
底が数ミリ厚くなった程度なのだが確かに感覚がちがう。敷布団・タオルケット・掛け布団とあって、タオルケットの下に入るつもりが間違ってタオルケットと掛け布団の間に入ってしまったときのような。それくらいの違和感(違和感て言っちゃった)を足もとで感じる。
さらに増強
やはりスポンジは悪くない。そうとなったら話は早い。靴底をスポンジでどんどん増強してしまえばいいのだ。
走るとき、着地は踵からつく。この部分の状態が足腰へのダメージに大きく関わってくるのは説明するまでもないだろう。はっきりいってこの靴底、シートを何枚とかそういうレベルではないようにみえる。 ここはなんとか一気にカタをつけたい。
スポンジといえばこれだろう。靴底用とはあえて書いていなかったが、サイズからして当然それも想定していると思われる。
「うちら職人はずっと海綿って呼んでるけど、最近の若い人には通じないみたいね。そういえば海綿体も若い人は知らないよね。金八先生の主題歌とか、結構ヒットしたんだけどさ。あ、そりゃ海援隊か!」
そういってガハハと笑う職人。ひとしきり笑ったあとでファインダー越しにみせた「今のどう?」の表情が忘れられない。
スポンジを握ってもうひと笑いかましたい素振りの職人を説き伏せて靴に向かわせる。そうした苦労の末に出来上がったのが、このスポンジハイヒールなのだ。