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土曜ワイド工場
 
文字を書くプロ、その実力は?

やっぱり道口さんはすごかった

最初に書いてもらったのは、「斎藤充博」僕の名前だ。ぼくは、いつも見慣れている文字なので、評価は厳しいぞ。


なんとなく、黙って見守ってしまう…
活字じゃないぞ!道口さんに書いてもらった字です

お手本もなにもなしで、すいすい書いて行く道口さん。できあがった「斎藤充博」はご覧の通り!整っていて、活字と見紛えるレベル。でも活字よりも、品格や清潔感を感じる、と思う。さっき「いつも見慣れている字」って書いたけれど、「あれ?おれの名前ってこんな字だったっけ?」と思った。いつも自分で書いている自分の名前が汚すぎて、逆にきれいな字に違和感があるのだ。テレビで言えばビフォア・アフターか。匠の手で、こんなにきれいになるなんて!

せっかくなので、ぼくも試しに文字を書かせてもらうことにした。筆を使うのは久しぶりだ。


筆はペンに比べて書き心地が弱々しい。首の座っていない赤ん坊をだっこするような、不安感がある。
なぜこんな字を書いたかは、下の比較画像でわかります

だいぶ気を使いながら書いたつもりなのだが、サインペンやマジックで書く時のクセがまるっきり出てしまった。 線が一本調で強弱がない(付けたつもりなんだけれども)。トメとかハネとかがまったくない。書き終えてなんとなく無言で道口さんの方を見たら、「こういうのも個性があっていいんですよ!」って言ってくれた。さっきは、「個性は必要ない」って言っていたと思うのだけれど…道口さんは多分、ぼくが褒められて伸びるタイプだということを、わずかな時間に見抜いたんだと思う。この点においてもさすがとしか言いようがない。


威風堂々とした「斎藤充博」、そして弱々しくて情けない「オダギリジョー」


「斎藤充博」と「オダギリジョー」を並べてみる。やっぱりどうみても「斎藤充博」の方が「オダギリジョー」よりもカッコいい。このことに異論のあるものはいまい。いや、あくまでも単純に文字の話なんだけれども。ずっと見ていると、単なる文字の話であることが悔しくなるような比較画像である。

 

仕事の様子で気づいたこと

さて、道口さんの仕事を様子を実際に見ていると、面白いことがいくつか出てきた。本人としては当たり前すぎて、インタビューなんかじゃ聞き出せないことだ。

1.ふつうの服装で書いている
まずびっくりしたのは、インタビューの時に着ていたベージュのカーディガンを着たまま書き始めたことだ。
てっきり書く時はカーディガンは脱いで、汚れてもいいような白衣とか羽織って書くものだと思っていた。

なんでも、普段の仕事中も、ふつうのOLさんが着るようなブレザーの制服のまま書いているとのこと。「汚れたりしないですか?」と聞くと「あ、大丈夫です」ときっぱり。すごい自信だ。今度、道口さんとカレーうどんかミートソースでも食べに行ってみたい。たぶん汚さず食べるタイプの人だ。

2.道具が意外と簡単だ
道口さんの使っているものは、とてもシンプルだ。
まず、使っている墨汁は「開明墨汁」!なんだかなつかしいブランドだ。小学校の時のお習字セットの中に入っていたやつと同じじゃないか!懐かしい。墨汁をぶちまけて、白い体操着がまっくろになっちゃったクラスの佐藤マサタカ君を思い出す。

ただ、その墨汁をいれる道具がちょっと変わっていた。お手製のスミツボだ。さっき「オダギリジョー」を書いた時に使わせてもらったけれど、ガーゼからでてくる墨汁の量がすごく「適量」な感じで、簡単に筆に墨をつけることが出来た。おかげで、ぼくが書いたのも、変に墨がにじんだりしなかったのだ。これが小学校の時にあれば、マサタカくんの体操着も無事だったのに。


これがそのスミツボだ。ぱっと見、なんでもないような物だけれど、プロの知恵が凝縮されている
作り方も簡単なのがいっそう素敵だと思う

筆もいたってふつうの筆。また、書道用の小筆の他に絵を描く時に使う「面相筆」で書くことも多いそうだ。そして先ほどから書いてもらっている紙は、ニフティから貰ったA4のコピー用紙。どこの職場にでも大量にあるやつだ。「弘法筆を選ばず」なんて言葉があるけれど、道口さんレベルになると紙さえも選ばない。

3.むずかしい文字もある
ためしに、苦手な文字とかありますか?と聞いてみると、「『片』がむずかしいですね」と道口さん。
「片」の四画目のタテ線は、中心よりほんの少しずれるのが正しいそうだ。
実際に書を見ると、「なるほど」という感じがするけれど、こんなの言われないと絶対わからない。
ここまで繊細に気遣って文字を書いているのだ。


耕泣かせの名字「片山」さん
イラストの中にこうしてはめ込むと、活字にしか見えませんね

やっぱりプロは、細かい技の一つ一つが面白い。筆耕のテクニックに興奮しつつ、次のページからだんだんと悪ノリしてゆきます。


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