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フェティッシュの火曜日
 
街の手触りを調査する


結構、意外な手触りがあるものです

毎日毎日ぼくは街を見ている。だから、自分の住んでいる街がどんな見た目か知っている。ああー、いつも通りだなあーって思う。

でも、ぼくは気づいてしまったのだ。街の感触をぼくは全然知らないということに。

思えば街を触っている人を見たことがない。じゃあ、みんなも多分よく知らないだろう。

今回は、そんな街の手触りを確かめに行きます。

 

斎藤 充博



今まで見逃していた、「手触り」

いきなり「街の手触りを確かめに行きます」と言ってもなんのことかわからない人も多いと思う。
まず、街にありふれすぎている自動販売機を例に、手触りの楽しみを説明したい。


ふつうの自動販売機ですよね。 毎日どこかで必ず見かけます。

今回は「ふだん触らないところ」を触ってみます。 こういう、いつも触っているところは今回は触りません。


ボタンなんかも、「触られるための存在」なんで、今回はパス。なお、自販機のボタンの手触りは軽薄だと思う。

防犯のためのロック 部分を触ってみました。毎日自販機で飲み物を買っている人も、こういう部分は特に触らないんじゃないでしょうか?


  • 触ってみると、固い!ボタン部分の軽薄さと比べて、無骨な感触。
  • 自販機なんて人に触ってもらってナンボ、ボタン押してもらってナンボの機械…だけれどもこういう部分は触られたくない。そして、頑丈な作りにしておくわけだ。なるほどなー、と思う。

このようにして、「いつも見てはいるけれど、感触については確かめたことがなかった」物について、確かめてみようと言う試み。この様に考えると、街中にあふれる自動販売機にも、色々な面があることに気づく。ぼくは、無限に存在する面白い手触りを、今まで逃していたんだなー、という気持ちになった。


自販機の持っている色々な面を人間に例えるとこんな感じだと思う。ぐっと親しみがわいてきませんか?友達になりたいタイプだよね。


「住所表示」は立体だった!

さあ、手触りの面白さを理解していただいたところで、どんどん触って行こう。
まずは、毎日見ているものの代表格ということで標識をいくつか見て行こう。標識は毎日イヤと言うほど見ているけれど、触っている人を見たことがない。標識自身も見られることにに対しては相当慣れているけれど、触られることに対しては無防備だ。頑丈な格闘家も、くすぐりには弱かった、みたいなかわいさがあるんじゃないだろうか。

まず、わかりやすい面白さがあるのがこれ。住所表示。


都会って住所が道端に書いてあって本当に便利ですよね。(栃木の実家の方にはこういう便利なものはなかった)

これ、よーくみると立体になっているんですよ!すごい!


触ってみます。でこぼこが文字の形に!(あたりまえです)みんなも、近所の手触りを覚えてみましょう。

実は、今回の企画を思いついたのはこの住所表示が立体になっていることに気づいたことからだった。
これがものすごい発見に思えたのだ。

今までは「文字や記号」としてしか認識していなかった住所表示が、にわかに物質として立ち上がって来る。

すると、どことなく冷たく感じていた街の標識や看板たちも温度があり、手触りがあり、材料があることを思い出したのだ。そうか、看板は単なる情報データじゃないんだ!これってすごいことだ。もっと色々確かめたい。

ただし、問題点としては確かめたからといって、特にどうなるわけでもないということだ。あと、さっき「ものすごい発見」とか書いたけれど、これって当たり前のことだ。
そこを言われるとちょっと辛い。
そんなわけで、読者の方々は、そこだけ目をつぶって記事を読んで下さい。それが手触りと、あとそれから人生を楽しむコツだと思います。


住居表示にしてみりゃ、うざったいでしょうね。


通学路に逆トリックアートを発見!

つぎに、ありふれた通学路の標識。
こんなものも触るとドラマを感じてしまう。


通学路の標識は、通学路にしか立っていない。
下校中の小学生が不思議そうにこっちを見ていた。

触ってみると、やはり発見があった!黒く描かれている部分がはっきりと盛り上がっているのだ。「もこっ」という感触がある。もう、ぼくの目にこの標識の図は平面に見えない。薄っぺらだけれど、ちゃんと立体作品だ。立体作品なのに平面に見えるこの現象を「逆トリックアート」とでも名付けたい。街は逆トリックアート美術館だ!

また、相当年月を経た標識らしく、黄色い部分の感触も一様ではない。ヨゴレや歪みがあちこちに発生している。この標識がどれだけ昔からあるのだか知らないが、その間ずっとここに立って小学生に通学路を教え続けていたのだ。そういうことが頭じゃなくてリアルに感じられる。リアルに感じたからなんだ、と言われるとやっぱりちょっと困るので、「いい話だなあ」という風に感じてくれれば幸いです。

「消火栓」の文字部分はつるつるだ

次は、この消火栓。火事の時に消防士さんは真っ先にここを見つけなくては行けない。だからすごく目立っている。でもそれは彼の仕事中の顔だ。


意外と低い位置にあるので触りやすい。オススメ

標識は天に向かってまっすぐ立っている。人間にはこれがなかなかできないよね。

やはり、この標識も文字が盛り上がっている。ただし、これは相当に薄い感触で、注意しないとわかりにくい。そして、この文字部分の白い部分は、赤い部分に比べてつるつるしているのが面白い。塗料も、色によって性質が違うということだろう。
見ての通り、標識自体はそこそこ新しいものらしく、歪みはなかった。いつかこの付近の消火栓が使われるようなことになれば、この標識も焼けたり歪んだりするのだろうか?君にはずっとこのままでいて欲しい。

対象にに近寄らないと、触れることはできない。そして、なんとなく心理的にも消火栓の表示と、僕の距離が近くなっている気がする。仲良くなっている気がする。
友達と殴り合いのけんかをした後、もっと仲良くなれるのと似ているかもしれない。ぼくも、色々触って街ともっと仲良くなりたくなってきた。(いい話押しで、納得してもらおうと思っています)

50ミリは立派過ぎる

さっきの標識の手触りについて色々書いたけれども、感覚としては薄い方だ。特に「通学路」と「消火栓」はそれなりに集中してさわらないとわかりにくい。次はもっとわかりやすいデコボコを解説したい。


ちょっとデコボコすぎる

こちらの工場の表札。(多分鋳物工場だと思う)
このくらいデコボコしていると感触がわかりやすい。さっきの「住所表示」よりもずっとデコボコしている。
奥行きが50ミリくらいあるんじゃないのか。

ただし、個人的にはこのくらい明確にデコボコしているのはあまり好みじゃない。
手触りがあからさますぎるのだ。だってこんなの、ぱっと見た目でデコボコがわかってしまう。それはちょっとモノノアワレに欠けているというか、趣きが足りないというか、洋物というか…

鋳物の街であるせいか、川口には立派な表札が多い。

ただ、立派すぎるのも、少しこちらとしては引いてしまうのだ。

明らかなやり過ぎはむしろウェルカム

ただ、こんな例外ももちろんあって…


これは目を引くね
チョウチョ、捕まえたー!

さっき「立体的すぎるのは好きじゃない」と書いたけれど、この位になると話は全く別だ。
だって、「文字の裏側」まで触れるんだぜ!いわゆる「趣き」とは全く違った別の世界がある。ルネッサンス、アヴァンギャルド、ポストモダン、そんな価値観の転換の言葉が頭に浮かぶ。 憎いのはこのチョウチョだ。レーザーとも「onuki」という社名とも全然関係なく、これはぼくみたいな人間に触らせるためだけに作ったとしか思えない。なお、このチョウチョ、羽の模様もいちいち立体に彫り込んであって、芸が細かい。手触り調査の開始後30分で、こんな最先端の作品が見つかるなんて、本当にすごいことだと思う。


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