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フェティッシュの火曜日
 
不動産コピーの高級感


後半は、不動産じゃないものを無理やり高級に。

さいきん、住宅情報誌をめくったりしている。

結婚して子どももできたし、世にいうマンションとやらはどんなものかしらと思って、眺める感じだ。よーく読むと価格が大変なことになっていたりするので、あまりまじめには読んでない。

ところで、そういう情報誌を見ていて面白いのは、分譲マンションを売ろうとする際の広告コピーだ。賃貸アパートとちがって、部屋の広さとかの即物的なことはあまり書かれない。前面に押し出されるのは、その暮らしがいかに「美しく」「贅沢」で、「上質」で「洗練」されているかということだ。

高級感を打ち出すあまり独特の文法世界を形成するにいたった不動産コピーを眺めてみたいと思います。

三土たつお



実例をみていただきましょう

不動産コピーの高級感ってどういうものなのか。いくつかマンションの建築現場をまわって広告看板を撮ってきたので、まずは実例を見てみてください。


古(いにしえ)から未来へと続く価値
北山手の高台に、正統を継ぐ賓館。

「古から未来へ」の方は、家からスーパーへの道の途中のマンションの建築現場でみかけたもの。この例みたいに、「古(いにしえ)」とかの難しめの言葉が使われるっていうのがまず特徴のひとつ。

この場合は「キャッチコピー」+「(マンションの)名前」っていう組み合わせになってるので、「音速の貴公子 アイルトン・セナ」みたいでかっこいいなと思う。もしくは「機動戦士ガンダム」とか。

ふたつめの方は、家から病院への道の途中で見つけたもの。「おれんち?駅から5分ぐらいの正統を継ぐ賓館」とか言ってみたい。


(略)伝統とモダンを折り重ねた建築美。
日本の美意識の極み。

そして他の例。共通してるのは、どれも黒いってことだ。黒バックに白い文字。そして明朝体。ザ・高級感。

今回、こんなふうに不動産コピーを集めているうちに、いくつかのパターンが分かってきた。まずはそれらを紹介してみたいと思います。


こういうコピーは、街中だとこんな所で見かけます。建築中のマンションのふもと。

マンションは「誕生」もしくは「堂々完成」する


よくあるのは「誕生」するパターンだ。


東京都新宿区


マンションは間違っても「新発売」されない。まあそれはそうだ。「○×マンション、新発売!」だとせいぜい105円くらいの感じがするけど、実際は1億円だったりするのだ。

「マツダデミオ、誕生。」みたいに、車もわりあい誕生しがちなので、高級な商品にはよくあることなんだろう。

他と違うのは、「誕生」した時点ではまだ建物は完成してないことが多いってことだ。完成する前に売り切るのがふつうなので。

残念ながら完成までに売り切れなかったら、コピーはこうなる。


東京都八王子市


「堂々完成」っていうのは響きはかっこいいんだけど、業界の人が見ると、ああ、売りきれなかったんだなと思ったりするらしい。コピーの裏に事情ありだ。

 

人々は住むんじゃなくて「住まう」


「○○に住まう」ってのも定番で、よく見かける。


東京都台東区

東京都豊島区


マンションのコピーで「住む」っていう文字を見つけることはほとんどない。必ずといっていいほど彼らは「住まう」。

辞書によると「住まう」は「住み続ける」という意味らしい。いやあでもどうなんだ。ぜったい「住まう」っていう語感で使ってるだけなんじゃないか。

そして二番目の方は、素直にやるなら「豊島区に住む」だろう。でもそれじゃあどうもっていうんで、「東京」に引き上げた上でTOKYOにしたんだろう。気持ちは分かる。

 

近くにあるんじゃなくて「寄り添う」


物件の近くに公園があるとしよう。賃貸アパートなら「公園すぐそば!」みたいに、まっとうに元気よくそれを謳うことができる。

でも分譲マンションだとそれはできない。「公園すぐそば!正統を継ぐ賓館」ってわけにはいかないのだ。じゃあどうする?新米の不動産コピーライターになった気持ちで考えてみてください。

答えは「寄り添う」だ。


東京都文京区

東京都新宿区


一番めのやつは、ふつうに書けば「庭園と植物園が近いです」だ。実際にはどちらに行くにも歩いて15分くらいなので、家自体はそんなに公園に寄り添ってないんだけど。

2番めは、新宿御苑そばの物件。「寄り添」った上に「誕生」してるのでかなりポイント高い。

ふだん閉まってる裏門のそばの物件なので、うっかりすると「御苑の裏手に完成」とか書いてしまいがちだけど、それだと上司の決済が下りないので気をつけよう。正しくは「寄り添うように誕生」だ。


家じゃなくて「邸宅」だ


引き続いて新米ライターの気持ちになってみよう。そもそも売ろうとしてるその「家」のことはなんていえばいいんだ?

「マンション」って言っちゃう?でもその一室だから「部屋」っていう?いや、どちらも不正解。答えはこうだ。


東京都千代田区

東京都稲城市


そう、答えは「邸宅」だ。

これって、自分が住んでないからこそ言える表現だよなあと思う。たとえば知り合いに「どんな家住んでんの?」って聞かれて、「うん?邸宅だよ」って答えられる人はいるのか。

一番目の、「○○がここにある」っていうのは、それ自体がひとつの定型で、他の例だと「大人の翼を休める美しい時間がここにあります」みたいになる。

 

応用しよう

ここまでで分かったのは、不動産コピーの高級感には、それを醸し出す理由なり手法があるってことだ。黒い背景に白い文字、住む→住まうの言い換えなど、あるていど機械的にマネできちゃう部分もある。

じゃあ、その手法をマンションじゃないものに適用して、むりやり高級感を出すことはできないだろうか?

応用編にいってみましょう。

 


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