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フェティッシュの火曜日
 
漁師という仕事を体験してみてわかったこと

日を改めてやってきた

後日、天気予報を確認して、日を改めて夜の船橋港にやってきた。今日は無事出港できるということなので、漁船に乗船させていただき、巻き網漁を取材させていただく。

ここから先の本文は、前回大野さんに聞かせていただいた話の続きです。ダイナミックな漁の様子は写真とキャプションでお楽しみください。


夜九時に船橋港を出港。戻ってくるのは二ヶ月後、ではなくて、明日の朝の予定。 今回の写真は、ほとんど同行いただいたカメラマンの坂祐次さん撮影です。ミスターハイテンション。今日は服が黄色い。

  大傳丸がやっている巻き網漁というのはどういう漁法なのですか。
大野

魚を見つけたら、そこに二艘の船でカーテン状の網を円になるように広げて囲い、網の裾を巾着のように絞って魚を獲ります。

  おお、まさに一網打尽。
大野 うちでは16人の乗組員と、魚を獲る二艘の網船(本船ともいう)、獲った魚を入れる運搬船、網船をサポートするボートの四艘の船が一つのチームでおこなっています。
  ずいぶん大掛かりなんですね。漁師というと個人操業のイメージがありました。まぐろの一本釣り漁師みたいな。
大野 漁師といってもいろいろあるからね。船橋でも個人でアサリやアナゴを獲っている漁師もいるよ。

船橋IKEA前を運搬船で通過。これが船橋漁師の日常。湾内を出ると、大型タンカーとかとバンバンすれ違う。 そして海ほたる前を通過。船の上はアクアラインの値下げとかは関係のない世界。

巻き網船による漁には、たくさんの乗組員と四艘の船が必要。船の値段は何千万だし、維持するにも保険代だけで年間何百万もかかるという。大傳丸が株式会社である理由がなんとなくわかってきた。

漁の仕方も極力リスクを減らすために、 同じく船橋港の中仙丸と漁場の情報交換や魚の貸し借りなどの業務提携をしたり、 漁獲のあたりはずれが大きい昼間の漁から、平均して獲れる夜の漁へと切り替えたりしている。

「リスク分散」「業務提携」なんていう、失礼ながら漁師から聞くとは思わなかった単語が、大野さんとの会話ではポンポンと出てくる。たぶん5年後に会ったら「IPO」とか「ASEAN」について熱く語っている気がする。



大傳丸の乗組員


  大傳丸の乗組員は社員なんですよね。給料制なんですか。
大野 漁獲量や出漁日数に関係なく、ちゃんと毎日来れば賃金保証をしています。それと働きぶりに応じた歩合給をプラスしたのが給料。去年はイワシが豊漁だったから、年末にボーナスを出せたよ。
  ボーナスが現物支給だったらおもしろいですね(ひとごと)。社員ということは、役職とかあるんですか。スズキ課長とかアナゴ係長とか。
大野 部長、課長などの役職はないけれど、船長、機関長、まかない室長なんて呼んでいる人はいるよ。自分は世襲で漁労長になったけど、次は社員の中から新しい漁労長が出てくれればいいなと思っている。
  以前はサイトとかで求人をしていましたよね。
大野

今の時代、インターネットで求人かけているところは漁師でも結構あるからね。今は人数が十分足りているので募集を中止しているけど、募集をしていたころはひっきりなしに問い合わせや応募があった。ただ、たくさん応募してきても、実際に乗組員として定着するのは、まあ数パーセントだな。すぐに船酔いでダウンしてしまったり、網を引っ張って10分でギブアップする人もいるよ。

  やっぱり漁師っていう職業に対するイメージと現実は違うんでしょうね。
大野 軽い気持ちで応募だけして、連絡もなしに面接や体験乗船に来ない人もいるよ。うちの乗組員はみんな漁師という仕事に誇りを持っているからこそ、大傳丸が馬鹿にされたようで気分が悪いよね。大企業が相手だとそんなことしない訳でしょ?

本牧の方まで移動してきたら、先にいっていた網船がすでに網をあげていた。 運搬船で牽引してきたボートが出発。流れや風で不安定になった網船を押して位置を調節する係。

  それでは残った乗組員はどんな人がいるんですか。
大野

70代の大ベテランから21歳の新人まで様々だよ。前職も、潜水士をやっていたっていうのもいるけど、派遣切りにあったやつとか、ダイビングのインストラクターをやっていたのとか、普通の会社員とか。ダーツのチャンピオンがいたり、船橋の漁師は陸に上がればみんなシティーボーイなのよ。

  漁師は高齢化が進んでいるというイメージがあったので、若い人が多いのは意外です。
大野 だから残ってくれた乗組員の質には自信があるよ。「大傳丸の乗組員」っていうのが一つのブランドだと俺は思っている。どの乗組員も漁師だけでなく、どんな仕事をやっても並以上にやれる人間だよ。

「漁師だけにナミの上ですね」というダジャレを思いついたが、さすがに口には出さなかった。夜の海で滑るのは命取りである。

漁師は毎日同じ仕事の繰り返しになってしまうので、各人に課題を与えたり、配置換えをしたりとなるべく仕事に飽きないようにしているというが、この辺は普通の会社の人事と一緒だ。

誰でもなれるけれど、残れるのは一握り。今はどの業界でもそうだろうけれど、漁師を仕事に選ぶということは、やっぱり楽な事ではないようである。

 
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