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フェティッシュの火曜日
 
レシピさえあれば料理はできるのか


料理が不得手だ。まず基本的なことができない。ひとり暮らしをしていた頃は、たまにする自炊といえば野菜炒めだった。ほとんどそれしかできないからだ。いつも同じでは淋しいので、たまには「あんかけ」っぽくしてみようと片栗粉(水に溶かなくてよいと書いていた)を買ってきて大量に投入してみたが、一切トロミがつかなかった。あれはどこがいけなかったのか、いまだにわからない。
世の中には料理の本というのがたくさんあるが、あれさえみればそんな素人でも上手につくることができるのだろうか。そこで今回は、「なにをつくるのか(料理名を)知らない」状態で、写真も視ずにレシピの「文章部分だけを読み」、果たしてちゃんと料理を完成させられるのかに挑戦してみたい。 

櫻田 智也



準備

なにをつくるか知らない状態で料理するわけだから、当然のことだが自分でメニューを決められない。
妻に協力を依頼し、料理のセレクトとレシピ文の作成をおこなってもらった。


そして渡された3品分のレシピ

3つのレシピをみてみると、工程自体はそれほど長くはないようだ。ただその中にある「片栗粉」と「肛門」の文字が静かな胸騒ぎを呼ぶ。

どういう順番でつくろうかと考えていると、ここで妻から一言だけアドバイスが。
「つけたり、もどしたりの待ち時間があるものは先に済ませておいたほうがよい」
とのこと。なるほど、それが料理の「手際」というやつか。

とうわけで、まずはこのメニューに着手することにした。

 

米と秋刀魚のなにか −工程1


材料(4人分)
・米  カップ3
・だし汁   540ml
・秋刀魚  1尾
・塩  適量
・きのこ(まいたけ、しめじ各1パック)
・ごぼう  1/3本
・しょうゆ、酒  各大さじ2
・塩  小さじ1/2
・万能ねぎ  適量

作り方

  1. 米をといで水に30分つけ、ざるに上げて20分おく。
  2. 秋刀魚はよくあらってペーパータオルで水気をふき、肛門部分から半分の長さにきる。塩をふってしばらくおき、塩がなじんだら、両面をこんがり焼く。
  3. ごぼうはささがきにして水に放つ。
  4. きのこは食べやすく切ってほぐしておく。
  5. 土鍋に米を入れ、分量のだし汁を加える。ここからだし汁大さじ2をすくいとり、しょうゆ、酒、塩を加える。
  6. 水気をきった牛蒡、きのこ、焼いた秋刀魚をのせ、土鍋の蓋をして強火にかける。湧いてきたら弱火にして15分炊き、火を止めて10分ほど蒸らす。
  7. 秋刀魚の頭と骨を取り除き、粗くほぐしながら全体を混ぜる。器に盛り、小口切りにした万能ねぎを散らしていだだく。

レッツ・クッキング!(持っている本は直接関係ありません)

レシピにしたがい、まずは米を研ぐ。さすがに米ぐらいは学生時代に炊いていた。楽勝。と思ったのだが、


米どこ?

男って! というやつだ。我が家の米はどこにあるのか。しばらくさがしてシンクの下にみつけた。


こんな便利なものが我が家に

いつ導入されていたのだろう。実に便利な道具である。以降、調味料の場所がわからないとか色々あるのだが、いちいち書いていたらキリがなさそうなので省略していく。


 

ぼくはどちらかというと米をあまり研がないほうだと思う。祖母や母は、むかしはそれこそギシュギシュ音をたてて研いでいた。米を研ぐ回数については諸説あったが、あれはもう決着がついたのであろうか。

 

豚肉のなにか −工程

待ち時間にほかのレシピもみてみる。


材料(3〜4人分)
・豚ひき肉250g
・玉ねぎ1/4個
・干ししいたけ1/2個
・ロースハム100g
・パセリ1本
・ニンニク1粒
・卵1/2個分
・生パン粉カップ1/4
・スパイス(黒胡椒・オレガノ・タイム)
・塩・砂糖 各小さじ1
・ローリエ

作り方
※干ししいたけをもどし、これとほかの野菜やハムもみじん切りにする。

  1. ボウルにローリエ以外の全材料を入れ、粘りが出るまでよくこねる。
  2. 親指くらいの太さで12センチ〜13センチくらいのものを作ってラップの上にのせ1枚のローリエを縦半分に切って2枚巻き込み、ラップの端をあめん棒のようにくるっとねじる。
  3. 沸騰している蒸し器で13分くらい蒸す。電子レンジでもOK。

料理を普段する人は、これらの文章だけで、なにができるか頭の中に画が浮かぶのだろうか。
さて、この中にまず「干ししいたけをもどし」というのがあるので、それを済ませておきたい。


もどす

干ししいたけをもどした経験はないが、これはもうどう考えても水に浸すしかない。


出汁をとるのとどう違うのか

 

米と秋刀魚のなにか −工程2

そんなことをしているうちに米のほうの時間が経過している。次の工程の準備もしていかなくては。

で、いきなりレシピにわけのわからない文章がでてくる。
「秋刀魚はよくあらって(中略)肛門部分から半分の長さにきる」


は?

困った。意味がわからない。
写真1枚あればぜんぜん違うのだが、残念なことに今回は文章しか手元にないのだ。


これになんの意味が

考えた末、単に肛門の位置で秋刀魚を2つに切るという非常にぼんやりした結果に。
この切り方になんの意味があるというのか。
でもって秋刀魚を「こんがり焼く」と書いてある。そうか、焼かなきゃならんのか。


ザ・アンバランス

丁寧にもグリルには「水をはってください」と注意書きがしてあった。道具たるものこういう親切心が大切だ。「こんがり」とあるからには、焦げるくらい焼けばいいのだろう。 う〜ん、これはもしかして、案外つくれちゃうんじゃないだろうか。料理。


SFか

つづいてはゴボウのささがきとある。「ささがき」されたごぼうの状態がどんなものかは大体わかる。だが、どう切ってああいう風にしているのだろうか。


結果、ゴボウを寝かせてスライス

いつのまに日本料理は繊細さを捨てたのか

まあ、雰囲気は近いものがある。
そうこうしているうちに秋刀魚が焼きあがる。忙しい、料理、超忙しい。

料理番組をマネして別のカップに予め調味料を混ぜておいた。土鍋を使っていることと相まって、料理ができる人っぽい雰囲気が漂う。
材料に、ただ「だし汁」と書いてあったのには一瞬ひるんだが、みつけた『ほんだし』の裏をみると、だし汁にする際の分量がちゃんと記載してあった。
みな親切である。世界の善意に触れた気がした。

キノコ、そして焼いた秋刀魚をのせる。「おれ、今から土鍋でご飯を炊くんだな」という興奮と、「なんで秋刀魚はこんなおかしな切られかたをしているのか」という疑問とで息が荒くなる。


ズボンがどんどん落ちてくるくらい息が荒い


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