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フェティッシュの火曜日
 
時候のあいさつは本当なのか

寒さでデジカメのレンズも曇る候

拝啓

肌寒い空を赤とんぼの群れが飛び回る頃、読者のみなさまはいかがお過ごしでしょうか。

…というように、時候のあいさつで始めるのが手紙のマナーとされている。季節を感じる風流な習慣だと思うけど、このあいさつ、ちょっと気になることがあるのだ。

(text by 石川 大樹



11月にも色々あるだろう

マナーに関する本やサイトを見て時候のあいさつを調べると、たいてい月ごとにフレーズが決まっている。11月ならこんなぐあいである。

鮮やかな紅葉の候となり
吐く息も白くなり
菊薫る候

などなど。しかし、こういうのって毎年あてはまるとは限らないと思うのだ。年によっては冷夏もあるし暖冬もある。桜の開花予想だって毎年違うじゃないか。地域差だってあるだろう。

それなのに「マナー辞典に載ってるから」というだけの理由であいさつに使ってもいいのか。お母さんが「5時には帰ってきなさい」って言ったからといって、かくれんぼの途中でだまって帰ってしまってもいいのか。

答えは否、である。一つ一つのあいさつを検証して、2009年東京版「正しい11月の時候のあいさつ」を決めていきたい。

 

車窓に雨粒が

冷たい雨は降っているか

ということで、検証のために外を歩いてみる。まずは亀戸に向かうことにした。とある目的があるのだが、それはあとで説明しよう。

家を出たときの天気は曇り。大丈夫だろうと傘を持たずに出かけたのだが、バスに乗ったあたりからパラパラと雨が降り始めた。


カバンに折りたたみ傘入ってた。よかった…

現地に着く頃には、天気はすっかり雨模様。

ここで、いつもなら「あいにくの雨」、というところだが、実は今日だけは雨降りもこっちのペースだ。なぜなら、こんな時候のあいさつがあるからだ。

冷雨が降り続く候」。


温度も確かめてみる。冷たい。冷雨だ
そして、降り続いている

朝は降ってなかった雨が、時候の挨拶に従って降ってきた。なんか目の前でこんなことが起こると、あいさつというより予言なのでは、という気もしてくる。

大予言者ノストラダムスは1999年に関するたった1回の予言を外したが、こちらは(この挨拶がいつから使われているのか知らないけど)たぶん何十年もの間、毎年のように当てているのだろう。そう考えるとすごいぞ。

まあ、ただ11月の気候が書いてあるだけなのですが。


2009年版 正しい11月の時候のあいさつ

○ 冷雨が降り続く候


正しい11月の時候の挨拶だった。

こんなふうに、ほかの挨拶も見ていきたいと思います。

 

 

菊祭、「行こう」と思ってきたのははじめてです

菊は薫っているのか

そもそもなんで亀戸に来たかというと、次のあいさつを検証するためだ。

菊薫る候」。

菊を見に来たのだ。この日はちょうど、亀戸天神で菊祭をやっているはず。

前を歩くおばちゃん二人組が「雨だし、菊祭やってそうにないわね」なんて話してるのを聞いて不安になる。菊祭りに雨天中止とかあるのか。

境内を奥へすすむと、それはあった。


東京はさいきん猫も杓子もスカイツリーですね(新東京タワーの名前です)
区長賞の花と落選の花の違いがよくわからない

区長賞の菊、ご老人方が「まぁ!」とか「これはこれは…」みたいな声をあげる中、二人組の外国人観光客と僕だけが、「わかんないな」という顔をしていた。

まあ鑑賞はいいや。問題は薫っているかどうかだ。嗅いでみる。


白い菊

すると、菊は全く薫ってこなかったのだ。


黄色いのは? …無臭

…というのも、これにはわけがある。


カバンの中

昨日から鼻の調子が悪いのだった。正直、たぶん匂いとかわかんないんだろうなー、と思いながら来た。わかんなかった。予想どおりだ。

ただ、この時期急に寒くなって風邪も引きやすいし、こういうケースって結構あるのではないだろうか。菊が時候なら風邪も時候である。あいさつにも盛り込んでいくべきだと思う。その点もふまえて、こうしましょう。


2009年版 正しい11月の時候のあいさつ

× 菊薫る候
○ 鼻づまりでなければ菊薫る候


これで正確になったと思う。季節感の演出にくわえ、相手の体調への心遣いも含んだ、とても日本人らしいあいさつだ。



落ち葉は散っているのか

次のあいさつはこれだ。

舗道に落ち葉が散る頃」。

咲く花もあれば、散る葉もあり、そのどちらも美しいと感じる。時候のあいさつは、自然に対する、日本人の感受性の豊かさを象徴している。

しかしそれが嘘であっては意味がない。本当に葉は散っているだろうか。路上をチェック。


落ち葉なし
落ち葉なし

落ち葉なし
落ち葉なし

葉の落ちた街路樹はあれど、肝心の落ち葉の姿はない。午前中だったせいか、道路は綺麗に清掃されているようだった。

時間によって嘘になるようでは、安心して時候のあいさつとして使えないではないか。しかし。


あった

路上をじっくり(30秒くらい)探してようやく発見したのが、工事のパイロンの脇のすきま。清掃から取り残された落ち葉が、おにぎりの包装と一緒にたまっていた。これだ。

他にも植え込みの陰や、溝の中など、掃除の目の届かないところに落ち葉はたくさんたまっていた。結果、こうである。


2009年版 正しい11月の時候のあいさつ

× 舗道に落ち葉が散る頃
○ 工事のパイロンの脇のすきま、植え込みの陰や、溝の中などに落ち葉が散る頃


長いので、手書きの手紙に使うのはちょっと面倒だと思った。印刷派の方、ご使用ください。

 



吐く息は白いか

調べていて、え、これも11月なの?と思ったあいさつがある。これだ。

吐く息も白くなり」。

12月のクリスマス前後ならわかるのだけど、11月に白い息はまだ早いだろう。


ハァー

写真にはうまく写らなかった(ごめんなさい)けど、でた。

深呼吸すると、口から20センチくらいの位置で、白いモヤモヤが浮かんでは消えた。


2009年版 正しい11月の時候のあいさつ

○ 吐く息も白くなり


証拠がないので疑われても仕方がないのだが、写らない以上は実際やってみてもらうしかない。「吐く息も白くなり(ホントだって、いっぺんやってみろって)」、くらい書きたいところだが、そこまで言わずに空気で察してもらうのが日本人というものだろう。

 

もっと自然を見るべきでは

ここまで検証したうち、あいさつが正しかった率は5割。

いろんな時候の挨拶を眺めていると、自然を扱ったものが多い。もっと自然の多いところでやったら、正しい率も上がるのかもしれない。山へ行ってみよう。


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