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ちしきの金曜日
 
刀研ぎ師の仕事場を訪ねてきた

買う前に見る目を養って欲しい

藤代:買おうと思えば、何十万円かあれば、何かは買えます。でもその前に、日本刀を見る目を養って欲しいと思っています。そうでないと、本当に満足がいくものは買えないと思います。
加藤:見る目、というのはどこで養えばいいんですか?


靖国神社の「新春刀剣展」。入場無料。


藤代:まずは日本刀をいくつも見て欲しいと思います。初台にある刀剣博物館や、お正月の靖国神社で見ることが出来ます。 で、もし行かれたら、そこで見るときにこう見て欲しいんです。


ちょっと下から、光が照り返すように見る。


藤代:刀剣を知らない方には、普通に見える白い部分を刃文と思っている方が多いです。でも刃文を見るためには、必ずこの角度見てください。
加藤:なるほどー。他にはどうやって見る目を鍛えるんですか。
藤代:僕は弟子入りしてからは、刀剣博物館で開催されている刀剣鑑賞会に参加しています。そこで「銘」を隠してその作者を当てるというテストのようなものがあるんですね。それに取り組んだりして養いました。


その甲斐あって、5年前に若手研ぎ師の最優秀賞を受賞
(当時の僕の写メールより)


加藤:へえー、刀匠当てテスト! それも見てみたいですね! ところで藤代さんは、小学校や中学校の頃「研ぎ師になるの?」って聞かれるといつも、「わからない」って答えてたじゃないですか。それがいつ、弟子入りを決意したんですか?
藤代:そうですね、うちにはお弟子さんがいっぱい出入りしていたので、特殊な職業という意識はそんなに無かったです。きっかけのひとつは高校2年生のとき、父に「景光(かげみつ)」という人の刀を見せてもらったことですね。めちゃくちゃかっこいい! と思って刀を好きになりました。
加藤:その「景光」って人は有名なんですか?
藤代:有名ですね! 鎌倉末期の刀匠で、「小竜景光」という国宝の刀が上野の国立博物館に展示されていたりします。

加藤:へぇー! 弟子入りする前からすごいものに触れてますね。ところで研ぎ師じゃなかったら、何やっていたと思いますか?
藤代:数学の先生になりたいと思ってました(笑)


図で分かりやすく刃文の仕組みを教えてくれた。先生向きかもしれない。


ニューヨーク・メトロポリタン美術館に行って実演
加藤:この間お正月に、靖国神社で実演してましたよね。ああいう仕事もわりとあるんですか?
藤代:そんなに無いです。でも、海外で実演したことがあります。イギリスと、去年の11月にはニューヨークのメトロポリタン美術館の「アート・オブ・サムライ」って展示会に行って、実演してきました。


メトロポリタン・ミュージアム。NHK「みんなのうた」を思い出す。


加藤:すごい! メトロポリタン美術館って世界級の美術館じゃないですか! 聴衆はどれぐらいいたんですか?
藤代:付属の劇場みたいなところで研いで、600人ぐらいはいたと思います。すごく熱心な観客の方多かったですねー。実演の後の質疑応答で、質問の勢いが止まらなくて大変でした。


満員御礼! アメリカでも大人気の日本刀。


加藤:刀剣ってのは、海外でも人気なんですね。
藤代:そうですね、関心は高いです。戦後の混乱期にGHQの指令や個人的な流出なんかで、貴重品も含めだいぶ海外に渡っているんですが、その中にはひどい扱いをされているものもあります。例えば、「長光」という鎌倉末期の有名な刀があるんですが、それがグラインダーで磨かれてたり、チャンバラに使われた跡があったり。
加藤:グラインダー研磨! 磨けばいいんだろう、的な発想ですね。
藤代:でも国内でも、かなりひどい状態のものもあります。一番まずいのが、押入れにしまっておいた先祖伝来の刀を、怖いんでそのまま押入れに放置しちゃうパターンですね。江戸時代では「虎徹」と「清麿」っていうのがとても人気が高いんですが、その清麿が線路のレールみたいにサビサビになって発見されたこともありました(笑)


実演の様子。YouTubeの動画を、記事の最後にリンクしてあります。

 

研ぎ師としての将来の夢

加藤:その刀剣の資料の本、いっぱいありますね


実際にはこの20倍くらいあった。


藤代:そうですね、この本なんかは古本屋でも10万円以上しますね。うちの祖父が書いたものもあります。
加藤:何が書いてあるんですか。
藤代:刀剣一本ずつの資料です。鉛筆で刃文をスケッチした絵が書いてあります。


 

加藤:うわー細かい! こういうのは、研ぎ師はみんな描くんですか?
藤代:いや、最近は写真の技術が上がって刃文が撮影できるようになったので、そうでもないですね。ここの仕事場にも隣に、専用のスタジオがあります。でも僕は、描くのが好きなんで描いています。


藤代さんが描いた刃文の鉛筆スケッチ
この奥に、ひみつの写真スタジオ

加藤:最後に聞きますが、藤代さんのこの先の夢とかはありますか
藤代:でも、僕はいま31歳ですが、祖父は33歳で最初の本を書いています。それを考えると、まだまだしなければいけないことはありますね。現在、刀剣の愛好家は少しずつ減っているので、みなさんに刀剣の魅力を伝えるために、頑張らなければいけないな、と思います。


今は亡きお祖父さんの、国宝認定書と頂いた勲章。まだ道は長い。

このあと僕は藤代さんと新宿へ動画編集ソフトを買いに行き、だらだら話の続きをした。
加藤:やっぱあれ、飲み会とか行くと話題になるでしょ。
藤代:なるねー、でも聞かれる質問だいたい一緒。さっき言ったやつと、あと「村正はほんとに呪われるの?」ってくらいかな
加藤:わかるわー、俺も学校の先生やってるって言うと、大体聞かれること一緒になるもん。
藤代:だよねー。
お互い全く違う道を進んだ同士だが、意外なところで分かり合えた。

この取材以降、刀剣にがぜん興味が湧き、いろいろ見に行っている。太刀もかっこいいが、脇差の太く短いデザインもいい。薙刀も見たが、刃のカーブと広がりがえらくカッコイイ。
皆さんも見られる機会があれば、ぜひ見に行って見るといいと思う。

龍の彫り物入りの大・小二本組。やば過ぎて惚れる。

取材協力 「刀剣藤代」 Webサイト:藤代刀剣研究室 https://www.nihontou.net/ 藤代さんがメトロポリタン美術館で実演する動画(24分)


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