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はっけんの水曜日
 
中東の香料・乳香は、ヒノキ味のガム

アラビアンナイトみたいな袋

仕事で中東に行っている友人が、一時帰国してきた。久しぶりに会って話も弾み、帰り際にもらったお土産が、右の袋である。

紫地に、月と星のちりばめられたマジカルな袋。中身は乳白色をした、小石のようなプラスチックのような固まりで、嗅ぐと独特の香りがある。「乳香」というものそうだ。

(text by 石川 大樹


 

かなり「いいもの」

調べてみると乳香は中東、特にオマーンあたりの特産品だそうで、ある種類の木の幹に傷をつけ、しみ出た樹脂が固まったものだそうだ。

焚いたりエッセンシャルオイルにしたりして香料として使うほか、塗り薬の原料としても使われるとか。


のっけから「異文化!」って感じの見たことなさ


ゴツゴツしてて、微妙に透けている

けっこうでかい。おおきいので3センチくらいある


アラビアン・ナイトには、これと酢を混ぜたものが、気付け薬として登場したらしい。そして聖書では、イエス・キリストが生まれたときに東方の三賢人が贈ったのが、黄金、没薬、そしてこの乳香。

もらったときは「なんだこりゃ」という感じであったが、調べれば調べるほど、いいものである。なにせ聖書では黄金と肩を並べているのだ。

 

家に竹炭(炊飯器とかに入れる用に売ってるやつ)があったので使います

香料として使ってみる

いろんな使い道があるらしい乳香だが、まずは普通に香りを楽しんでみたい。

そのまま嗅いでみると、さわやかなような、それでいて田舎臭いような、微妙な香りがする。調べてみると、炭火を使って香炉で焚いたりして使うようだ。


細かく砕いて小皿へ(香炉がなかったので)

ライターで火をつけま…

 

火が着かない

そこは字数を割くところじゃないだろう、と思いつつも、不本意ながら火が付かない。

炭火の難しさを忘れていた。そういえばバーベキューとかで炭火つけられる人は重宝されるよな。僕はさっそくひとりで缶ビール開けて周囲の探検に行ってしまうタイプだ。


ノウハウのないままライターであぶること30分


オイル切れた


ライターオイルって、ガスや電池と違って燃料切れがわかりやすいからいいですよね!!

…ええ。わかってます。みんなが見たいのはライターの写真じゃない。乳香のエキゾチシズムをみなさまにお届けせねば。


奥の手。コンロであぶります

火種!火種!空気送れ!


皿に戻した瞬間に消えた

……

 

あきらめた

ネットで炭火のつけ方調べたり、火種に新聞紙使ってみたり。いろいろ手は尽くしたものの、30分くらいの格闘の末、ふと気づいた。

火、あるじゃん。


一応、炭の上に置いた。せめてもの配慮


風情も何もあったものじゃないが、一応、これがアラビアンナイトに出てくる香料である。現地の人が見たら、怒らないにしても「あーあ」って思うだろう。味噌汁にバター入れて食べるアメリカ人の話をきいたことがあるが、それと同じレベルの「あーあ」ではないかと予想する。


表面が溶けて、プスプスいいはじめた

ボウッ


す、すいません!中東の人が見てたらいいかげん怒られそうだ。でも決して悪気があるわけでは…。

そんなこんなで試行錯誤することまた小一時間。


点火に成功!


色々やってるうちに、乳香の下に敷いていた炭に火がついたっぽい。上の写真だと乳香が焦げて黒くなってしまったが、新しいのを2つほど足してみた。

これまで試行錯誤してた間もずっと乳香は焚かれてたわけで、この頃には部屋にはかなりの香りが充満していた。


改めて、深呼吸


そのまま嗅ぐと微妙だった乳香の匂いは、焚いて空間に広がることで角が取れて、心地よいものになった。けっこう好きな香りだ。

お香っぽい。匂いが似ているわけではないんだけど、なんかそういう瞑想的な感じがする。火を使う香料は酸欠状態を作るので瞑想に向いているのかもしれない。思いつきだけど。

あとなんだろう、「中東風でエキゾチック!」というよりは、割と和風だ。お香もそうだけど、畳の匂いとか、そういうのと共通するような。和風って言うかおばあちゃんちっぽいのか。うちのおばあちゃんちは、岐阜の飛騨の山の方にあって、ちょっと外に出ると自然がいっぱいだった。夏休みには森に入って、虫捕りばかりしていた。そんなおばあちゃんちの匂いだ。

変なのはここが自宅のキッチンなことだ。あとやっぱりちょっと焦げ臭い。これは自分のせいです、すいません。

 

 

 

服をたきしめる

「たきしめる」というのは漢字で「薫き染める」と書くそうで、お香を焚いて、衣類や部屋などに香りを染み込ませることを言うそうだ。

乳香にもそういう用途があるようで、せっかくなのでやってみたいと思う。


さっきまで着てた服


新しい服を使えばよかったのだが、「火が消えるかも」という焦りから、自然と服を脱いでいた。ドアを閉めて、香りを密閉する。(その隙に新しい服を着る)

火気なのでマメに様子を見ようと、3分後くらいにまた見に来た。



き、消えてる…


偶然着いた火はすぐに消えていた。どうやら炭火が着いたのではなくて、乳香が燃えていただけのようだった。あとには燃えかすになった乳香だけが残っていた…。


自分の匂いがしました

 

 

ビジュアル的にはとても食っていい感じではない

ガムにもなる

実はもう一つ、別の使い方がある。ガムみたいに噛んで、口の中をさわやかにするのだそうだ。

樹脂としても、お香(のような物)としても、「噛む」とは全く結びつかない存在だ。どうだ、変だろう!

何を隠そう、この記事は香りよりもどちらかというとこっちがメインだ。(変に手こずったので長くなりましたが)


おそるおそる口に入れる

ん?


誰かに助けを求める目になった

ギブ!ギブ!


まず言っておくと、味がどうとか、美味しいとかまずいとかそういう話じゃない。

脳が全力で「食べちゃダメだ!」って警告出してくる感じ。例えるなら、ボンド食べてる感じだろうか。いや食べたことないけど。そういう、自然物とは思えないケミカルな感じ。その刺激に、体が拒否反応を起こす。

そんな物質が、奥歯で噛むとボロボロ崩れて、口の中に広がる。それで、「被害が拡散するまえに吐き出さねば!」と。

慌ててはき出すのだが、恐ろしいことに歯に詰る。一口かじったが最後、歯にボンド詰めて一日過ごすことになるのだ。


体験としては新しい

 

人に食べさせて楽しむ

こんな苦しいもの、ひとりで食べるのはもったいない。編集部の安藤さんにも食べてもらった。(悪意)


「中東のガムらしいですよー」「へぇー」

明らかにいぶかしげながら口に


どんな記事でもバッチリ表情作ってくれる安藤さんが見せた、素のイヤな顔

すぐ上の写真と比べて10年は老けた。タイムマシンの完成や!


中東には何度も言ったことがあるという安藤さん。この香りには憶えがあるとか。

・味が無くなるまで噛んだガムの味
・味は、どちらかというと苦い
・もう二度と食べたくない

しかし嗜好品としては「わからんでもない」とのこと。シンガポールでは、みんな同じく嗜好品として赤い実を食べていて、それもこんな感じだったそうだ。「僕はダメでしたけど」と念を押しながら説明してくれた。

おもしろいのでもうひとり、編集部・工藤さんにもお願いしよう。


安藤さんよりむしろ思い切りよく口に運んでくれた工藤さん

一瞬、男前に


直後、臨界点突破

動画付き国語辞典が出たら、「身もだえ」の説明として載せたいくらい


・苦い
・歯医者のあとの味
・危険信号。反射。
・二日酔いの時に酒飲んだ感じ

最後の例えが、すごくわかる!。あの全身が拒否反応起こす感じは、まさに乳香のそれだ。やったことがない人は、二日酔いの時に一回飲んでみて欲しい。乳香ってそんな味でした。実感してもらえると思う。

 

有識者にきけ

他国の文化を紹介しておいて、「まずかった」で終わるのもなんだ。最後に有識者の意見を聞いてから締めたいと思う。

といっても中東文化の有識者ではなく、「変わったもの食う」界の有識者。珍味を中心に、虫食べたりサボテン食べたりしている、水曜ライターのほそいさんだ。

いくつか渡して噛んでみてもらい、後日感想を送ってもらった。以下、緑字はほそいさんのコメントです。


この涼やかな表情をいつまで維持できるのか


見た目がまさに樹脂の塊そのものなので「本当にこれがガムみたいに噛めるのか?」と思いました。
昔、油絵で使っていたダンマルという樹脂を思い出しました。
見た目がそっくりなのですが、このダンマルがすごい匂いだったので、乳香にも警戒心を抱きそうになりました。

警戒心を乗り越えて口にいれたものの「本当にこれ噛めるのか?」とまた同じことを思います。
思いきって噛むと、柔らかい石が砕けるように分裂しました。
木の皮をバリバリ噛んでいるかんじで「これは食べ物じゃない」と脳が判断するのですが、


このときこんな顔になりました

それを押し切って噛み続けると、ワイルドな樹木の味が戦慄となり体をかけめぐります。
最初はカサカサしてまとまりがないのですが、噛んでいるうちにすぐまとまってガムのようになりました。
どこかで覚えのある匂い。「桧風呂の味だ」と気付きました。
今私、森を食べている。バーチャル森林浴。
よく「森の香り」と謳っているガムや芳香剤があるけれど、あれってぜんぜん森の香りじゃないですよね。
乳香噛んでから言えと思いました。
仕事中のリフレッシュにもってこいです、乳香。
吐き出すと普通のガムでした。あのゴツゴツした野生の風貌はどこかに行ってしまいました。


こんなふうにゴツゴツだったのが

噛むとほんとにガムみたいになる(量は左の写真と違います)


この森林浴気分を体験するには、口に入れてしばらく噛むまであきらめないことです。吐き出してしまえば森への小道が閉ざされてしまいます。


あー。腑に落ちた。

森の香りとか、桧風呂だとか。表現は違うけど、乳香を火で焚いたとき、僕が嗅いだ香りも、同じものだったのだろう。あのいい香りが、口の中で楽しめる、ということだったのか。

しかしそこへたどり着くまでのハードルが…。

 

たしかにわからんでもない

乳香、香料としてはかなりよかった。ガムとしては…かなり上級者向けだった。

ところで、この原稿を書きながら、なんとなく気にかかって、覚悟を決めてもう1回噛んでみた。

うっ、やっぱり…


うううう…あ、


木だ!

桧だった。桧のガムだった。最初に噛んだときの異物感に、「桧」って名前が付いたことで、グッと安心したし、そういうものとして楽しむことができた。

だからといってすっげえうまいかというとそういうわけでもないけど、味じゃなく香りを楽しむ物、食べものじゃなくてタバコみたいな嗜好品だと思えば、こういうのアリかも。

あと半分くらい余ってるので、焚いたり人に食べさせたりして、楽しんでいこうと思います。

 



 
 

 

 
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